ガチャ155回目:ぶっ飛びホームラン
「アイラ、アヤネを頼む!」
俺は返事を待たずに岩山を駆け上がり、目標の下へと向かった。
あの巨体で攻撃されたらひとたまりもない。
まずは俺に釘付けにさせる!
「『紅蓮――』」
スキルを行使しようとした瞬間、俺の視界は岩に覆われた。
「えっ」
不意の変化に戸惑うが、視界を覆うその全ては、紛れもない『死』そのものだった。
身体よ動け、これは敵の攻撃だ!
「ぐっ!?」
咄嗟に剣をクロスさせるも、踏み止まる事は叶わずそのまま上空へと打ち上げられる。
「旦那様!?」
回転する視界の中、離れていくその巨体を見て初めて理解した。殴りつけてきたあの岩の塊は、『ジャイアントロックゴーレム』の巨腕で、俺はそれに吹き飛ばされたのだ。奴の身体は全身が堅固な岩で構成されているはずだが、あの巨体でどうやってあれほどのスピードが出せるのか。
ひとまず、観察するためにもまずは現状を立て直さなければ。俺は空中でバランスを取り、魔法を行使する。
「『エアウォーク』!!」
俺は背面に足場を縦に呼び出し、激突により勢いを殺した直後に2枚目の足場を直下に出現させ、落下を防ぐ。ぶつかった衝撃で背面の『エアウォーク』には亀裂が入ったが、割れるまでには至っていないようだ。
これで、パネルが割られたりしない限り、ここから落下する心配はないだろう。
上空へ上がったり移動したりする分には使えないが、咄嗟の落下防止用としてはこの魔法は有用だな。一応、使える場面を想定してイメトレしておいてよかった。
アイラからは『空から落ちる場面を想定してください』とか言われたときは、何言ってんだコイツと思ったけど、どうやら俺の想定が甘かったらしい。『エアウォーク』に失敗して空から落ちるならまだしも、敵に吹き飛ばされる場面なんて、凡人には想像がつかないよ……。
「旦那様、ご無事ですか!?」
一息ついていると、アヤネの叫びが聞こえた。
下を見れば、地面からは30メートルほど離れていて、アイラがアヤネを背負って不安定な足場を走り回っていた。追いかけているのはあの巨人と、周囲に再出現したゴーレムの群れだ。俯瞰して見る事で改めて分かった事だが、俺は奴を舐めていた。今更『俊敏』400なんて大したことないと。
だが、それは大間違いだった。
まず奴は、一歩一歩がいちいちデカイ。つまり距離の詰め方一つとっても普通の人間とは尺度が違い過ぎるんだ。その上動きも軽やかな上にパワーもあるから、あの岩の腕は脅威そのものだ。
それに、速度の違うモンスターに追われるというのもまた厄介だ。一番素早いモンスターに注意してグルグルと回れば、そのうち周回遅れした敵と正面や死角から鉢合わせる事になる。『金剛外装Ⅲ』を覚えたアイラに滅多なことがあるとは思えないが、早急になんとかしなければ。
「ああ、無事だ!」
『ピシッ』
無事を知らせた直後、不意に嫌な音がしたので視線を動かせば、愛用のサブウェポンである『御霊』にヒビが入っていた。
「あの時か……」
これは撮影なんて悠長な事は言ってられない。近接戦は諦めて、この場所から奴を始末する!
「二人とも、反撃開始だ! 攻撃を入れながら引っ張ってくれ!」
「はいですわ!」
「お任せを!」
『カイザーヴェイン』を構え、弦を引き絞る。危険度からすればレアモンスターからと言いたいところだが、生憎奴はちょうど俺に背を向けている。今の状態ではコアの位置が見えないので、あれは後回しだ。
まずは周回遅れしている連中から射止める。
『ボシュッ、ボシュッ!』
距離だけでなく高低差もある分、いつもよりもさらに狙いにくいな。ここまでゴーレムには百発百中だったが、何発かミスが生じてしまう。
まあ矢の在庫を気にする必要がないので、大した問題ではないのだが……。やっぱり、せっかく打つんだから綺麗に一発で決めたいよな。
「となると……マジックミサイル」
こいつの出番か。
この魔法は風の影響を受けないし、俺の意思で自在に動く。コストは矢30発分と重いが、正確に相手を射抜ける以上こちらの方が楽で良いな。
魔法により次々とゴーレムが土へと還り、アイラを追うモンスターは『ジャイアントロックゴーレム』のみとなった。
よし、これである程度余裕が出来たはずだ。改めて奴を観察しよう。
『知覚強化』のスキルでその全身を隈なく観察したところ、どうやらあの軽快に動く秘密は関節部にあるようだった。肩や脚の付け根には微細な砂がまとわりついており、それが緩衝材となる事で滑りを良くしているらしい。あれも『砂塵操作』による力の一部という訳か。
更には、アヤネやアイラによる攻撃も、削った先から砂を使って補修している。あれでは、奴の『魔力』が尽きるまで永遠に決着がつかないだろう。
更にはコアに近い攻撃は、その軽快な動きで避けたり巨腕でガードまでしてくる始末だ。なんとも厄介なモンスターだ。
そう考えていると、奴の中心にあるコアがよく見えた。どうやら、走り回りながらもアイラが位置調整をしてくれているらしい。
避けられたりガードされたりする相手。
なら、そのガードの腕すらも貫通する、超速度の攻撃で吹っ飛ばすしかないだろ!!
「ご主人様、決めて下さい!」
「ああ! 『剛力Ⅲ』『怪力Ⅳ』『金剛力Ⅱ』『紫電の矢』『力溜め』」
『ヂリッ……バチバチバチ!』
「うわっ」
『紫電の矢』から荒々しい稲光が発生した。今までこんな現象が起きたことはなかったが、俺のステータスが上がったことに加えて、多様なスキルを重ねがけしたからだろうか。
「『真鑑定』」
名前:雷鳴の矢
品格:≪固有≫ユニーク
種別:武技スキル≪弓≫
説明:武技スキル・紫電の矢の力を限界まで引き出し、進化させた姿。使用する度、魔力を500消費する。最大5体まで貫通する。衝撃、貫通、雷、炎のダメージを与える。
「進化か……気に入った! 貫け、『雷鳴の矢』!!」
『ズパァン!』
空気が破裂したような音が鳴り響き、その瞬間奴の身体のど真ん中に大きな穴が開いた。『ジャイアントロックゴーレム』は前のめりに倒れ、地響きを起こして煙へと成り果てた。
【レベルアップ】
【レベルが55から92に上昇しました】
「うへー、めっちゃ緊張したー!」
俺はその場に座り込むと、下から楽しげな声が聞こえる。
「旦那様ー! いっぱいレベルが上がりましたわ~!!」
「ああ、俺もだ!」
「ご主人様、降りてこられますか?」
アイラがアイテムを回収しながら問いかけて来る。
改めて下を覗けば、俺はかなりの高さにいた。ビル7、8階くらい……か?
改めて考えても、一体どれだけの力でぶっ飛ばされたんだ?
いや、それを考えるのは後だ。今は……。
「どうしようか……。一枚一枚エアウォークで降りて行くべきか……?」
「旦那様! 『金剛外装』で飛び降りれば無傷ですわー!」
「その手があったか!」
アヤネの機転のお陰で、俺は無事に地上に降り立つことが出来た。
ただ、ちょっと怖かったので目は閉じながらだったが。
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