ガチャ147回目:獣の戦士

『ギャイン!』


 俺は『ボスウルフ』を一撃で屠り、奴の雄叫びで集まっていたヒルズウルフの群れを制圧した。


「ご主人様」

「ん、どうした?」

「ご主人様の『運』が一般の冒険者と比べ、隔絶した数値に至っているのは存じておりました」

「うん」

「ですが、この一連の戦いだけで、これ程の『俊足』のスキルオーブが集まるとは想像していませんでした」

「えーっと……。何個出たの?」

「23個です」

「うわ……」


 まだ最初の100匹目だっていうのに、少しどん引きである。

 一応見てみたかったので、アイラに鞄を覗かせてもらった。その中には昨日狩った連中の素材なども入ったままになっていて、一言で言うと混沌としていた。

 不思議な事に、アイラの袋は以前のの宝箱と違って中身が見えるんだよな。そこには有り得ないくらいに奥行きがあるから、知らない人が見たら困惑する事間違いなしだ。


「随分集まったね」

「ご主人様が望まれた事ですから」


 そう言えば、二日の連戦でどれだけダンジョンドロップが集まるか見てみたいなーって、軽い気持ちで言ったんだった。アキとマキの負担が増えそうだけど、お仕事をしてる時の2人はとてもイキイキしてるんだよなぁ。


 まあ負担になりそうなら、その時手伝えば良いか。


 さて、改めて『俊足』の扱いを考えるか。

 売りに出すには単価が安いのもあるけど、数が数だしな。結局、一纏めにしてから売るなり使うなりした方がいいだろう。


「んー……。いちいち『圧縮』するのは手間だな。こいつらも最後に回そうか」

「承知しました」


 そうやって話している内にレアモンスターの煙は消え去り、『ボスウルフ』のドロップが散らばった。

 どうやら、今回は沸かないようだった。


「よし、次に行こうか」


 そうして二箇所目、三箇所目と『ボスウルフ』の次は現れず、最後の丘陵地帯へとやって来ていた。

 どうやらそこには先客がいたようだったが、俺の事を知っている人達だったらしく、快く道を開けてもらえた。と言っても、彼らはクレーターの外周部で狩りをして、俺達はクレーターの中央部での狩りだから、取り合いにはならない位置だったけど。

 でも挨拶は大事だもんな。


 前回の事もあってか、先客には率先して俺から声掛けをするように心掛けていた。無用なトラブルは避けたいし、こういう外交的な事を彼女達に任せて後ろでふんぞり返るのは、気持ち良くないしな。


 そして何の問題もなく4体目の『ボスウルフ』を討伐した。


 実は『ボスウルフ』の3匹目で58に上がっていたのだが、このレベルになると3匹につき1レベルか……。これはキツイな。一応『運』には割り振ってあるんだが、どうなるかな。一応の目的は『レアⅡ』じゃなくて強化体だから、ここで出なくても困るほどではないんだけど、どうせならレベルを上げてガチャも回したいんだよな。

 これで出なければどうしようかな……。いや、強化体がいるからレベル的には何とかなるのか……?


「旦那様、今回こそは出てくれるでしょうか?」

「んー、どうだろう。結局『運』が上がったとしても、100%にならないんじゃこんな風に波はあると思うんだよね。例え出現率が75%くらいあったとしても、沢山出る事もあれば連続して出ない事だってきっとある」

「それが今の状態、ということですわね」

「今までが上振れ過ぎていたのでしょうか」

「どうだろうね。結局、確定出現に必要な『運』が分からない以上は、何とも言えないんじゃないかな」


 そんな風に話していると、目の前の煙が集まり始めた。


「……お、来るぞ!」


 アヤネを庇う様に俺とアイラで前に出て構える。

 煙の中から現れたのは、全身が漆黒の体毛に覆われ、黄金色に輝く瞳を持った二足歩行の狼だった。その手や身体には、普通の獣には似つかわしくない武器や防具が装着されている。

 いや、二足歩行の時点で狼じゃないな。狼男って奴か?


*****

名前:ワーウルフ

レベル:45

腕力:400

器用:340

頑丈:400

俊敏:550

魔力:100

知力:100

運:なし


装備:群狼のバグ・ナク、群狼のハーネス、群狼脚絆

スキル:剛力Ⅱ、怪力Ⅱ、俊足Ⅱ、迅速Ⅲ、体術Lv3、格闘術Lv2、暗殺術Lv2

ドロップ:ワーウルフのたてがみ、ランダムな群狼装備

魔石:大

*****


 現れた奴はこちらを目視した後、大きく息を吸い込んだ。


『ワオオオオオン!!』

「ぐっ!?」

「うっ!」

「きゃあ!」


 『ワーウルフ』が雄叫びを上げると、頭を強く揺さぶられたかのような不快な感覚に陥った。頭がまるで鈍器にでも殴られたかのように、ぐわんぐわんしている。視界がぼやけ、足がふらついた。

 そんな俺達の様子を見て、『ワーウルフ』は顔を邪悪に歪め、舌なめずりをしている。


「くっ……」


 頭痛を振り払い、なんとか前を向くと、奴は大きく口を開け、こちらに向かって駆け出していた。


『ガア!!』


 マズい!!


「……ウオオオオッッ!!」

『!?』


 俺は前後不覚に陥りながらも、自身に活を入れる為、『ワーウルフ』に向かって全力で叫んだ。

 今度は逆に、俺の叫びを聞いた奴が驚き身体をビクつかせ、全身の毛を逆立たせていた。奴は駆けだした直後ということもあってか、足がもつれて、盛大にヘッドスライディングをかましていた。

 どうやら、『スタン』したらしい。


『グ……ガアッ!!』

「うるせえっ!」


 起き上がり二足歩行になった『ワーウルフ』と俺は激突し、2本の鉤爪と剣がぶつかり合う。


『ガンッ! ギャリン!』


『ガアアアアッ!!』

「うおおおお!!」


 『ワーウルフ』の拳撃は素早く、『甲殻騎士』の槍捌きを上回るものだった。その上基礎スキルも揃っていて主力スキルも揃えている。純粋な近接戦闘に特化した拳闘士のようだった。

 技の練度も非常に高く、スキルレベルの数値では上回っているはずの俺と張り合っていた。


『ガン、ガガッ!』


 それでも、ステータスで見れば俺の方が数倍は上であり、技術的な部分で大敗していても、力押しで何とかなっていた。その上『予知Ⅱ』のフィードバックもあり、何度か打ち合いをするだけで余裕が生まれ始めた。

 けど、優位に立てたのはそこだけだ。


 相手はかなりの持久力を持ち合わせているらしく、懐に潜り込んでのインファイトを好むようで、少しでも距離を置くそぶりを見せたら果敢に踏み込んできてイニシアチブを取ろうとしてくる。

 様子見や距離を置いての睨み合いが起きない、休みない攻撃を仕掛けてくる面倒な敵だった。


「ふんっ!」

『ガァッ!?』


 なので、剣撃と拳撃の隙間を縫うように蹴りを入れ、向こうから距離を置いてもらうことにした。


「ふぅー……」

『グルルル』


 昨日アヤネが言っていた通り、スキルは基本的に数ヶ月に及ぶ練習の果てに、きっちりと練度と精度を高め、己が力とするものらしい。それを思えば俺は、練習する間もなく次から次へとスキルを取得しまくっている。つまり、これらの力を使い熟し切れてはおらず、スキルの上辺だけを使っているということだ。

 十全に使い熟せれば、低いレベルとステータスでも『ワーウルフ』並の力は引き出せると言うことが分かったのは大きい。


 その内、行き詰まったりする前にダンジョン攻略はお休みして、訓練に励む必要がありそうだな……。幸いなことに、俺には心強い味方がいるわけだし。


『ガアッ!!』

「休憩は終わりってか?」


 再びこちらへと仕掛けてきた『ワーウルフ』とぶつかる。

 俺は自身の練度を高める為に、体力が尽きる寸前まで戦い続けたのだった。


【レベルアップ】

【レベルが58から65に上昇しました】

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