ガチャ146回目:互いの空回り

「お、おはよう」

「あ……。お、おはよ」


 朝、目を覚ますと俺達は互いの顔を直視出来ずにいた。けど、俺達は一緒に暮らしているわけで、多少気まずかろうが無視する訳にはいかないし、別に起きたことを後悔してるわけでもない。だから、時間が解決してくれるなんて考えに逃避するのも、何だか違うように感じた。

 アキもそう思ってくれてるのか、顔は明後日の方を向いていたが部屋から出て行くそぶりも無い。


「……アキ」

「ん」

「不安はまだ、残ってる?」


 そう聞くと、彼女はゆっくりと振り返った。

 その顔はまだ赤いが、目は真っ直ぐにこちらを捉えている。


「……そんなの、もうどこかに飛んでったわよ」

「そっか」

「でも、別の心配事は解決してないのよね」

「え?」

「でもそれは、今回とは別件だから……。今は良いわ」

「そう?」


 気になるけど、アキは話すつもりはないみたいだし……。

 また今度で良いかな。


「それじゃ、今回の件、皆への説明だけど……」

「ショウタ君じゃ言いにくいでしょ? それはあたしが代わりに言っとくわ」

「分かった、任せる」


 どちらからともなく唇を重ね、共に部屋を出た。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 とは言ったものの、内容が内容という事もあり、アキは皆が集まっても、朝食が始まっても、口をモゴモゴさせていた。

 そんな彼女が可愛らしくて朝食を終えたティータイムの時に、背中を押してあげたんだが……。たったそれだけで、普段の関係性や距離感との違い違和感を感じたのか、マキとアイラが色々と察したらしい。

 アヤネはよくわかってなかったが。


 彼女達から矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、アキはやっぱり答えられず、しどろもどろになってしまう。けれど、俺が説明しようかと提案するも、彼女は頑なに自分でするの一点張りだった。

 そんな姉を見かねたのか、マキの提案により、俺は部屋に一時退散することになった。まあ、俺が居たら恥ずかしさで話が進まないもんな。


「おー、盛り上がってるなぁ」


 俺は部屋で掲示板を開いて、昨日の騒ぎを眺めて時間を潰す事にした。

 やっぱり話題の中心は、昨日の一時的な封鎖の件だった。

 俺が動いたことで『ホブゴブリン』の叫びが何度も聞こえた事から、何をしているのかまでは分からずとも、俺が『レアモンハンター』の異名に負けない実力者である事は、誰もが確証を持ったらしい。


 あと考える事があるとすれば、あんな大量にレアモンスターを狩れるという事から、沸かせるためのルールも俺の行動から逆算して、その内推定され、確定されることもあるだろうという事だ。俺の邪魔さえしなければ、遠くから見ている分には協会の規定的に問題にならないしな。

 『100匹論』と『運』と『煙の条件』について、それぞれ公開するかどうかが悩みどころなんだよな。この件に関しては、彼女達にも何度か相談はしてるんだけど、結局のところ『沸かせた場合の権利』を協会側で定めるかどうか。というところに帰結するらしい。

 ルール無用とするのであれば、レアモンスターの出現地点で出待ちすれば横取りが出来ちゃうし、ルールが出来た場合沸かせた個人やチームで利権の主張をどうさせるかとか、まあ色々面倒な話になってしまった。


 結局のところ、そういう整備がされない内は条件は公開しない方がいいだろう、という結末になったのだった。

 ちなみにこの話、今日の支部長会議で行われるらしい。


 そうして考え事をしていると、どうやら話し合いは終わったらしい。リビングに戻ると、マキとアイラが代表して今後のローテーションについて変更が起きた事を報告してきた。

 内容としては、マキとアイラで入れ替わりが発生したらしい。優先順位をアイラが気にかけてくれたんだろう。つまり、今日はマキの番となり、明日がアイラ。そしてアヤネ、アキの順番だった。

 そこから更にアイラとアヤネが交代するのかと思いきや、そこまでアイラは譲る気はないらしい。


 ちなみにアキとアヤネは終始、心ここにあらずといった様子だった。というか、アキは結局どこまで語ったんだろうか。あの様子じゃまともに語れそうにないんだが。そもそもアヤネに同じことをする自分が想像できないんだが……。


 ……んーまあ、なるようになるか。

 アヤネに関しては明日の晩に、アイラに確認しよう。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺達はダンジョンへ突入した。

 遅れを取り戻す為、一気に第一層を突っ切り、第二層の丘陵地帯。ヒルズウルフが住まう場所へと向かった。


 そんな時、家を出る時から静かだったアイラが口を開く。


「ご主人様、お伺いしたいことがあるのですが」

「ん?」

「昨晩、具体的にどこまでされたのですか?」

「ぶほっ!」


 いきなり何を言い出すんだコイツは。

 ほら、アヤネも顔を赤らめて困ってるじゃないか。


「……アキから聞いたんじゃないのか?」

「いえ、詳しくは。ただご主人様に計画を暴露し、起きた状態で済ませたとしか。あれほど急接近したのであれば――」


 アイラの口に向かって人差し指を突きつける。


「はい、そんな生々しい話は終わり。アキが言わなかった以上、俺は勝手に語らんし、アイラも察してるならわざわざ口にしないこと。アヤネが困ってるだろ」

「はうぅぅ」

「おや、お嬢様には早すぎましたか」

「元はと言えばアイラが焚き付け……。いや、不安にさせていた俺も悪かったんだけど」

「奥方様達もご主人様も、気持ちが空回りして無用な心配をしていますので、そこはお互い様ですね」

「無用な心配っておま……ん?」


 お互いに?

 そう言えば、アキも似たようなことを……。

 彼女達が心配していたように、俺も空回りで無用な心配をしてる……? なんの事だ??


「さ、ご主人様。丘陵地帯に到着しましたよ」

「あ、ああ」


 そうだな、今はウルフ連中に集中しよう。

 レベルとしてはこっちの方がウサギ連中よりも上だし、『レアⅡ』の出現率は低いだろう。けど、出たら何かしら苦戦する要素はあるはずだ。気を引き締めていこう。


 俺は剣を抜き放ち、ヒルズウルフの群れへと飛び込んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る