ガチャ142回目:ラビットハンター再び
『キリングラビット』は両手に短剣を持ち、まるで人間のように構えている。だが獣らしさも残っているのか、かなり前傾姿勢だ。
『マーダーラビット』の時の特性も持っていることを考えると……。
そう思っていると、『キリングラビット』は急接近してきて、強襲を仕掛けてきた。その速さは『マーダーラビット』とは比べ物にならないもので、やっぱり俺は自身の『運』の良さを実感していた。
何故なら、もしもあの頃の俺が出くわしたとしたら、確実にやられていたからな。あの時の練度では、このスピードに対処する事はできなかっただろう。
『ギンッ、ガギンッ!』
だけど、今は違う。その初速はアイラに比べればずっと遅いし、武器の振るわれる速度は『甲殻騎士』と比べるまでもない。こいつに遅れをとる要素はなかった。何より、狙いが人間の急所と分かりやすい点も対処しやすい。
……まあ、この速度について行けない場合は、正確な急所狙いは恐怖でしかないのだが。
後は、一応動画を撮っているわけなので、いつものように即殺する訳にはいかないのが困りものだった。うーん、今後もレアモンスターの動画は撮っていくとしても、俺やアイラでも手こずる相手が出てきた場合は、動画の映りや長さを気にする余裕はないだろうな……。
ある意味で俺達が苦戦する相手というだけで、危険っぷりは伝えられると思うけど。
「ふんっ!」
『キキキ!』
『二刀流』の相手をするうえで『二刀流』は都合が良い。
本来なら、盾役の人間が防ぎながら、仲間がカバーする形が望ましいんだろうけど……そういうのは他の人達にやってもらおう。
何度か剣と短剣を打ち合わせたところで、コイツの動きにも慣れてきた。
「そろそろ狩る」
「はいですわ! ビッグファイアーボール!」
アヤネが魔法を行使し、驚いた『キリングラビット』の隙を突く形で、気配を消したアイラが足の腱を切る。相手の毛皮はそれなりに丈夫かもしれないが、全身を鎧に包んだモンスターや『甲殻騎士』などに比べれば柔らかいものだ。
魔法を避けられず、火だるまになった相手に、俺はすかさず剣を振るう。
その剣筋は見事に首筋をなぞり、『キリングラビット』の首を飛ばす。切断面からは大量の煙が噴き出し、即座に四散した。
【レベルアップ】
【レベルが43から49に上昇しました】
「まあ、こんなもんか」
それにしても一度レベルアップの沼にハマると、ガチャが遠のくな。
今まではタイミング良く低レベルの時に強敵を倒せてたから、ここまで詰まる事は無かったんだが……。61まであと12か。
一体あと何体倒せば良いんだ?
「ご主人様、お疲れさまでした」
「良い映像が撮れたと思いますわ!」
「そっか。それじゃ、残りのレアモンスター戦は巻きで行こうか」
そうして俺達は、全部で4カ所あるレアモンスター専用のフィールドを順番に廻った。
今の『運』だと、『キリングラビット』の出現に関しては8割がた条件を満たしているらしく、4戦中出なかったのは1回だけだった。
その結果、残る2回の『キリングラビット』戦で、レベルは54まで上昇。
また、今回の戦いで得たスキルにより、俺は『暗殺術Lv1』と『迅速Ⅱ』を3つ使って『暗殺術Lv6』『迅速Ⅲ』を取得。
アイラは『俊足Ⅱ』『迅速』『二刀流』を3つ使って『俊足Ⅲ』『迅速Ⅱ』『二刀流Ⅱ』を取得した。
『二刀流』が俺と同じく『Ⅱ』になったことで、アイラはしばらく感触を確かめていたが、満足したのか武器を仕舞った。……ん? そういえばアイラ、いつもどこから取り出してるんだ?
今もどこに行ったのか見えなかったんだが……。
「ご主人様、このスキルは凄いですね。世界が変わります」
「それはよかった。……アヤネも何かスキル欲しいのあったら言ってね? こっちに来てから何も取得してないし」
「もう、旦那様? スキルなんてそう何度も連続して覚えるようなものではありませんわ。普通はもっと貴重で、運よくゲットしたものを数週間や数ヶ月かけて、ゆっくりと身体に馴染ませていくものですわ。それにわたくし、昨日や一昨日にもいっぱい貰いましたもの」
「あー、世間的にはそうだったかもね」
『レベルガチャ』を取得して、スキルを覚え始めて今日で……13日目か。
こんな短期間で山ほどスキルを獲得したら、感覚もズレてくるというか、麻痺してくるもんだよな。
「まあ他所は他所。うちはうちだ。細かい事は気にせず、欲しい物があったら言ってくれ。スキルを売る事で得られる物なんかより、皆の方が大事なんだから」
「はぅ、旦那様……!」
「おほん」
顔を赤らめるアヤネとは正反対に、アイラは咳払いをして何事もなかったかのように振舞う。
「ご主人様、そろそろ狩りを再開しましょう。強化体まであと100匹ですし、休むのはそれからでも――」
「最近、照れ隠しで真顔を貫こうとするアイラも、可愛く見えてきたんだよなー」
「なっ!?」
「まあ、旦那様。わたくしと同じ楽しみを見つけられたのですわね。混ぜてくださいまし」
「もちろん」
「お嬢様まで!」
その瞬間、アイラのポーカーフェイスは崩れ落ちた。
そんな彼女に追い打ちをかけるように、俺とアヤネで畳みかける。
「実は喜んでる時のアイラって、普段より1度か2度ほど目尻が下がるんだよね」
「そこに気付くとは流石旦那様ですわ。わたくしがそれに気付くのに、数か月はかかりましたのに」
「これも直観力かな?」
「いいえ、旦那様。そこは愛ですわ!」
「愛か~。愛なら仕方ないな」
アイラをちらりと見ると、彼女はそっぽを向いていた。どうやら顔を見られたくないらしい。
珍しい反応をする彼女に追撃を仕掛けるべきか悩んでいると、アヤネがモジモジしながら見上げてきた。
「で、では旦那様。わたくしの事も何かありまして?」
「ん? そうだなー……。今は抱き着きたくて仕方がないけど、我慢してる、とか?」
「せ、正解ですわ! なぜお気付きになられたのですか?」
何故ってそりゃ、いつもの事だし。
でも俺は、それを口には出さず、頭を撫でる事で誤魔化した。
「今からまたモンスターを狩るからって、遠慮してるんだろ? それが終わったら、また甘えに来て良いからな」
「えへへ、はいですわ!」
「それじゃ、もう100匹狩ろうか。沸かせる場所はここで良いだろ」
2個目のトロフィーは、もう目の前に迫っていた。
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