ガチャ141回目:あの頃と今と

 俺の提示した内容に、支部長は思うところがあったのか考え込んでいたけど、答えが出たのか顔を上げた。


「わかりました。ただし、公開する範囲はあくまで対象のレアモンスターが出現した協会のみとします。各々の端末や外部への公開及び録画は不可とし、履修用の教材として使わせるようにします。これで良いかしら」

「はい。大丈夫です」

「なら、講習用に使っている会議室があるわ。そこの一室を使えるように改修しておきましょうか。1日あれば個人での閲覧用と、チームでの閲覧用の2つを用意できるでしょう。ヨウコちゃんにも、この旨は伝えておくわ」

「ありがとうございます」


 支部長は備え付けの受話器を取り、今話した内容をどこかに連絡し始めた。電話先はハナさんかな?

 受話器を置くと、支部長が雰囲気を変えた。


「……それで、に何か報告があるんでしょう?」

「アイラ、あれを」

「はい」


 アイラは袋から例の宝箱を取り出した。『ホブゴブリン』の模様入りの特殊宝箱だ。


「こ、これは……!?」

「わ、ゲット出来たんだショウタ君!」

「おめでとうございます」

「ありがとう。支部長にお聞きしたいのは、こういう特殊な宝箱をご存じかどうか、です」


 過去一神妙な顔になった支部長が、じっと宝箱を見つめている。『鑑定』でもしているんだろうか。


「……あるわ。ただ、実物ではなく写真でだけどね」

「それはどこで?」

「サクヤに見せて貰ったのよ。だから、私はその宝箱の情報を知らないの。ごめんなさいね」


 サクヤ……。アヤネのお母さんか。

 やっぱりその人に色々と聞いてみるのが良いのかもしれないな。


「それなら、例の歓迎会の時に聞いてみますよ」

「アマチ君、気をつけるのよ。あの子は強かな所があるから、知らない間にペースを握られないようにね。それと、どんな誘い文句で口説いてくるか分からないから、そこも気をつけるように」

「わかりました。……それじゃアイラ、この宝箱写真だけ撮っておいてくれる? もう開けちゃおうと思うから」

「承知しました」


 アイラが宝箱の正面、上面、背面と、多方向から何枚も写真に収めたところで直接俺が触れる。すると、錠前が輝きと共に消失し、自動的に蓋が開いた。

 そして中にはいっていた物が輝きながら俺の中へと飛び込み、宝箱と共に輝きは消失した。


 一連の流れを黙って見ていた支部長は、色々と言葉を飲み込んだ様子で口を開く。


「……どうやら、私の考えていた以上に色々とやってるみたいね?」

「あはは、お陰様で」

「まあ良いわ。アマチ君、この後は第二層で暴れまわるのよね? せっかくだから、昼食はここで食べて行きなさい。私はさっきの『ホブゴブリン』ラッシュの後処理で席を外すから、ごゆっくり」


 そう言って支部長は出ていった。

 いいのかな? ここはいつもの会議室じゃなくて、支部長室なのに。


「良いのよショウタ君。お母さんもそれだけ君を信頼してるってことだから」

「はい。英気を養って、後半戦に備えましょう!」


 ちょっと慣れない空間での食事だったが、マキとアイラの手料理の味が損なわれることはなく、心休まる時間を過ごせた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 第二層に降り立った俺達は、第一層に続いてキラーラビットを狩ることにした。邪魔になりそうなゴブリンはアイラとアヤネに任せて、俺はひたすら狩り続けた。

 第一層と違って、こっちの平原はゴブリンとキラーラビットの比率はほぼ同数と言って良いだろう。その上、壁なんて物がないから不慮のエンカウントを避けられるのも大きい。


 そうして数十分もしない内に最初の煙が出現。そのまま近くにあった無人の林へと飛び込んで行き、『マーダーラビット』が出現した。


*****

名前:マーダーラビット

レベル:20

腕力:180

器用:200

頑丈:80

俊敏:280

魔力:300

知力:20

運:なし


装備:なし

スキル:迅速

ドロップ:マーダーラビットの捻じれた角、マーダーラビットの毛皮

魔石:中

*****


 あんなに苦戦した相手は、こんなステータスだったのか……。

 確かにあの頃を思えば苦戦するのも当たり前だよな。どう見たってコイツは格上だろ。


 けど、今となっては……。


『ギウゥ……!』

「アヤネ」

「バッチリですわ! あれ、消えましたわ!?」


『がしっ!』


 俺はおもむろに、横へと回り込んでいたコイツの角を掴んだ。

 『予知』の効果も相まって、どうやらもうコイツは、俺の敵ではないらしい。目を瞑ってでも……は言い過ぎだけど、それでも問題なく勝てそうだな。


『ギゥゥ!』


 角を握られ、ジタバタともがく『マーダーラビット』を見て、アヤネはぴょんぴょん跳ねた。


「旦那様、凄いですわ!」

「こらこら、カメラ役が飛び跳ねないの」

「あわわ、ごめんなさいですわ……」

「俺がコイツよりも弱かった頃に倒したからな。こいつはもう脅威でもなんでもないんだ」


 そう言って俺は、そのまま『マーダーラビット』を反対側へと投げ飛ばした。受け身を取れずに打ち身をした様子だったが、それでも奴は頑なに、何度も何度も突っ込んできた。馬鹿正直に正面からだったり、側面からだったり。

 最初は死の危険を感じたそれも、今となってはこいつの一芸しか無い攻撃方法に、憐れみすら感じてしまう。


「そろそろ良いかな」

「はい。十分かと」


 再度突撃してきた『マーダーラビット』の眉間に、『ミスリルソード』を叩き込む。それだけで、奴は地に伏し煙を噴き出した。


 そして待つ事7、8分。煙は凝縮し、新たな獲物が出現した。


*****

名前:キリングラビット

レベル:35

腕力:300

器用:350

頑丈:200

俊敏:450

魔力:400

知力:150

運:なし


装備:なし

スキル:俊足Ⅱ、迅速Ⅱ、暗殺術Lv1、二刀流

ドロップ:アサシンナイフ、キラーブラッド、キリングラビットの毛皮

魔石:大

*****


 体長180cmほどの、二足歩行のウサギが現れた。


『キキキキ……』

「これは、それなりに骨がありそうな相手だな」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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