ガチャ134回目:魚狩り

『オッオッ!』


 俺のキモイ発言に怒り心頭といった様子で、人面魚がまっすぐこちらに向かって泳いできた。

 その速度はお世辞にも早いとは言えないが、ここは水中であり、相手は魚だ。本来なら対処に苦労したはずだろう。


 だけど今、俺達は『泡魔法』の力を使う事で、地上と同じとは言えないが、ある程度動けるようになっていた。更には、先ほどガチャで取得した『水流操作』のスキル。これが大活躍だった。

 このスキルは、自分の周囲にある水であれば、意のままに操る事を可能とするらしく、直接攻撃には使えないが、水中を移動したり、武器を振り回す際には地上と同じくらいには、抵抗をなくすことが出来たのだ。


 その結果、人面魚は一太刀であっさりと撃破出来た。


「うん、いい感じだ」

「あの顔……。なんだか、夢に見そうですわ……」


 いなくなった人面魚がいた空間を、アヤネが何とも言えない表情で見つめていた。


「ほんとそれだよな」

『オッ!』

『オッオッ!!』

「しかも耳に残るしな……」


 仲間がやられたのを察知したのか、周辺の人面魚が集まってきた。どうやら感知範囲は、シザークラブより上なのかもしれない。


「入れ食いなのは、呼ぶ必要が無くて楽なんだが、なっ!」


 突っ込んできた人面魚をぶった切る。

 『水流操作』は使ってみた結果、俺の身体を中心とした一定の範囲でしか有効に働かないらしく、弓を放っても勢いが良いのは最初だけ。思っていた以上に飛ぶ事はなかった。ただ、他の遠距離手段としての魔法は、『水流操作』なしでも発動することを確認した。

 『炎魔法』は言うまでもない結果となったが、『風魔法』はしっかりと発動するらしく、水中でもアヤネは活躍出来そうだった。


 魔法が水中でも通用するのなら、『紫電の矢』も同じ領分だと思うし、使える気がするんだが……。

 あれ、一応雷撃を束ねたようなスキルだよな? か、感電したりしないだろうか?


「武技スキルは術者には影響を及ぼさないかと。それに、私達もバブルアーマーが間にございますので、直接感電するとは思えませんが……」

「でも、もしもがあるからなぁ。使う時は、細心の注意を払いたい」

「承知しました。」

「何の話ですのー?」

「何のって……。あれ? 俺、そもそも口に出していたか?」

「アイラが突然話し始めたのですわ。わたくしにも教えて下さいまし」


 どうやら、またアイラが表情を読んだ上で話を振ってきたらしい。あまりに自然すぎて違和感感じなかったぞ。


「むぅ。わたくしも早く旦那様のお心が読めるようになりたいですわ」

「筒抜けすぎるのも恥ずかしいんだけど……」

「精進あるのみです、お嬢様。それで先ほどの話ですが――」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして俺は、2人が見守る中、人面魚を狩り続けた。

 感知範囲はシザークラブより広いとはいえ、敵は南側の海に大きく散らばっている。密集度が薄い上にこちらも足が遅い。その為、どうしても時間がかかり、100匹倒すのに1時間ほど掛かってしまった。

 そして、100匹目の人面魚から、待望の煙が溢れ出し、その場で膨張した。


『ギョ?』


 中から現れたのは、人間のような手足の生えた、二足歩行する人面魚だった。


*****

名前:人面魚人

レベル:35

腕力:360

器用:250

頑丈:100

俊敏:200

魔力:0

知力:30

運:なし


装備:魚人の槍

スキル:怪力、身体強化Lv1、槍術Lv2、水泳Lv1、水魔法Lv2

ドロップ:魚人の鱗、魚人の種

魔石:中

*****


 モンスターの種類が変わっても、顔はおっさんのままだった。

 いや、人相は多少違うかもしれないが、おっさんはおっさんだった。


「やっぱキモい!!」

『ギョギョギョー!!』


 こいつも人面魚と同じように、キモいという言葉に反応しているのか、怒り狂ったように槍を振り回してきた。本来ならこのステータスに加えて水中というアドバンテージがある以上、苦戦は必至だっただろうが……。今の俺では大して苦戦する相手でも無かった。

 アヤネとアイラに攻撃を入れさせたあとは、片方の剣で槍を弾き飛ばし、もう片方で突き刺す。たったこれだけで、『人面魚人』は煙となって消えた。


【レベルアップ】

【レベルが28から40に上昇しました】


「私と出会った頃であれば苦戦を強いられていたでしょうが……。今のご主人様の敵ではありませんでしたね」

「旦那様はとっても強くなられましたわ!」

「ありがとう。そうだな、これくらいならもう相手にならないな」


 そんな風に時間を測りながら、人面魚系列のキモさっぷりを話題にしていると、煙は集まることなく霧散して消えてしまった。どうやら、元となったレアモンスターのレベルが高い分、こっちもレアⅡの出現率はだいぶ低いらしい。

 水中でも変わらない回収速度で戻ってきたアイラは、こっちの考えを読んだのか、微笑みながら聞いてきた。


「出てほしかったですか?」

「そりゃね。でも、少なくとも次に出てくるのは『甲殻騎士』と同等かそれ以上の奴だったはずだ。そんな相手と水中で戦う羽目になるのは、正直言って少し怖い。アイラにも負担をかけてしまうだろうし……。まあこれも、『運』が良かったのかもな」

「流石旦那様ですわ!」


 ドヤ顔を決めるアヤネを抱き寄せると、2人のバブルアーマーが混ざり合い一塊となる。どうやらバブルアーマーを使える者同士は、いつでも分離したり、結合したりと出来るらしい。

 今回は俺とアヤネ、2人分のバブルアーマーとなった事で、俺達を覆う膜は一回りか二回りほど大きくなっていた。


「えへへ、旦那様~」


 アヤネはいつものように背中に回り込み、負ぶさって来る。最初は遠慮がちだったが、何度も接近を許している内に、今では戦闘をしていない時は頻繁に甘えてくるようになった。定位置に辿り着いた彼女は、絶対に離れまいと全力でしがみ付いてくる。

 どうにも彼女は、まるで温もりに飢えているかのように、ダンジョン内や家ではこうやって、くっついてくるんだよな。


 俺も抱き着かれるのは嫌じゃないし、むしろ嬉しいからアヤネの好きにさせてるけど、彼女には兄や姉がいるって話だったよな? その人達には、あんまり甘えられなかったんだろうか?


「うぅー。やっぱり、鎧越しだとひんやりしていて、抱き着き甲斐がありませんわ……」

「はは、そうだね。んー、今日はもう戦いをするつもりはないし、鎧は脱ごうかな。2人とも、水中でも着脱できるか試したいから手伝って」

「はいですわ!」

「お任せください」


 そうして引っ付きあって、バブルアーマーを一塊にした状態で、鎧を脱ぎ捨てる。ちょっと狭いけど、3人分のバブルアーマーが混ざった事で、小さく円が作れる程度には空間が広がっていた。これ、人数やレベルが上がればどうなるんだ?


「では旦那様、このあとは東の海岸に戻られますか?」

「いや、その前に北側一帯に『人面魚人』の箱がないか探しておきたい。人面魚が遊泳しているこの付近には無さそうだったから、東と同じくちょっと離れた位置にあると思うんだよな。その確認を終えたら、そこから北経由で東の宝箱を開錠しようと思う」

「承知しました」

「では、これからお散歩ですわね!」


 アヤネの希望により彼女を中心として手を繋ぎ合い、俺達は海底の探索を開始した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


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