ガチャ133回目:海中探索
「『統率Ⅲ』2個の効果もあるけど、それよりも最近成長しすぎて全ステータスが2000を越えたよ」
「すごい。すごいですわ!」
「ふふ、あっという間に抜かれてしまいましたね」
「あうぅ、このままでは旦那様のお役に立てなくなってしまいますわ……」
「私もお役御免でしょうか」
二人が示し合わせたように落ち込んだ。
いや、アヤネは本気だろうけど、アイラは違うよね? 分かってて言ってるよね?
「何言ってんのさ。俺がどれだけ強くなっても、アイラの事は頼りにしてるし、アヤネがいないなんて考えられない。悪いけど、2人の事は手放さないから。脱退なんて幻想は諦めて」
結局どれだけ強くなったところで、1人で出来る事には限界があるのだ。
魔法やスキル、戦い方だって、自分1人で思いつくことは、自分の世界で思い描けることだけだ。それに、彼女達が置いてけぼりになる事はない。俺のおさがりにはなるだろうけど、今後もスキルは与えていくし、『黄金の種』だってある。
それに、まだ活動範囲の問題で見れていないダンジョンや未知のスキル、それにアイテムが世界には眠ってるはずだ。だから、実のところ彼女達の実力が足りなくなるといった心配はあまりしていなかったりする。
「はい、旦那様っ!」
「誠心誠意お仕えいたします」
「うん。それじゃ、改めて獲得したスキルを見直すか。まずは触覚が来るかと思ってたんだけど、五感シリーズは味覚で止まっちゃったのかな?」
視力、聴覚、嗅覚、味覚と来たら、次はそうなると思ってたんだけど……。読みが外れたか?
「旦那様、実は感覚強化のスキルは、現状その4つしか発見されていないのですわ」
「え、そうなの?」
「四感では語呂が悪いので、これらのスキルで五感スキルと称されていますが」
「ですので旦那様、『魔力回復』と合わせて『圧縮』できないか試してみませんこと?」
「おお、そうだった。また忘れてたよ……。ありがとうアヤネ」
ガチャを回し過ぎたせいか、色々とスキルを覚えすぎて頭の整理が追いつかないんだよな。
こういう時、恋人達が代わりに整理してくれるのほんと助かる。
【スキル圧縮を使用しますか?】
「使用する」
【該当のスキルを確認中……】
【該当のスキルを確認】
【該当のスキルを圧縮中……】
【該当のスキルを圧縮成功】
【SRスキル『視力強化』『聴覚強化』『嗅覚強化』『味覚強化』を圧縮。URスキル『知覚強化』に圧縮成功しました。以後、該当スキルは元のランクからは出現しません】
【該当のスキルを圧縮成功】
【SSRスキル『魔力回復LvMAX』を圧縮。URスキル『魔力超回復Lv1』に圧縮成功しました。以後、該当スキルは元のランクからは出現しません】
「わぁお」
俺は覚えたスキルを2人に説明した。
やっぱり、どちらのスキルも未発見スキルだった。2人は喜んでくれたけど……。
最近になって思う事だけど、いくらなんでも未発見スキルが多すぎるんじゃないか?
10年経って得られた情報が、いくらなんでも少なすぎる気がするんだよな。それだけ『レベルガチャ』が異質と言われたらまあそうなんだけど、それほど難易度の高くないダンジョンでドロップするスキルが未発見っていうのも、なにやらもにょる。
意図的に情報が閉ざされているような気さえする。
そう思った事を口にすると、アイラが微笑んだ。
「流石ですね、ご主人様。『直感』ですか?」
「いや、どちらかというと所感なんだけど……。そう言うってことは、つまり?」
「はい。この端末に乗っている情報のほとんどは、全て国内限定の物になります。それも自主的に報告があった物に限られますね。国外情報は差し障りのない一部しか端末情報に入っていませんし、協会で調査中のスキルもここには非掲載です」
「協会の事情はわかるけど、なんでそんなことに……」
「ご主人様、人間はどこまでいっても欲深い生き物なのです。10年前、世界中にダンジョンが出現し、その後氾濫して総人口の1割が失われました。その時、モンスターは世界共通の敵として認識された訳です。ですが、そんな悲惨な出来事も過去の話。今ではほとんどがそれを乗り越え復興し、各国は力を取り戻しつつあります」
「うん」
「いつまでも手を取り合って協力し合うのが理想ではありますが……。我欲に囚われた国もまたある訳です」
「……だから、見つけた情報を秘匿する国が多い、と?」
「そうなりますね」
個々人やチームで隠し事をする程度だと思ってたけど、国が一丸となって隠蔽体質なところもあるのか。なんというか……。
「馬鹿みたいだな」
「世界とはそんなものです。いずれダンジョン騒動が平定した後の事を考えているのでしょう。独占した知識と力で何をするつもりやら」
「10年という節目で止まる保証など、何処にもありはしませんのに……。悲しいことですわね」
「……もしかしてアヤネのお母さんって、そういう折衝とかのお仕事してる?」
情報通って話だったし、国外のダンジョン関係各位との協定とか、そういう裏のお仕事をしててもおかしくはないよな。
「お母様は色々とやってますわ。旦那様が考えている事も含めて、色々と」
「……そりゃ、『運』を重視する訳だよな」
思っていたよりもすごい人みたいだし、会った時に失望されないように、頑張るとするか。
恋人達の為になるのなら、そのお仕事とやらを手伝うのも吝かではないし。
「さて、『圧縮』で得たスキルは、魔法みたいに具現化は出来ないから『真鑑定』は不可能だし、そこはおいおい検証するとして……。あ、『圧縮』で思い出したが、アイラのスキル『LvMAX』が2つあるし、進化できるか試して良いか?」
「勿論です」
「んじゃ早速……『圧縮』」
アイラに手を伸ばしてスキルを行使するが、反応はしなかった。
念のため直接触れながら行使しても無反応。やはりこのスキル、自分かオーブを対象にしない限り効果は発揮されないらしい。
「駄目か」
「残念ですわ」
「致し方ありません」
「んじゃ、残るは『水流操作』か……。丁度、やってみたかったことでもあるし、このまま海に入ろう。2人とも、自分の『泡魔法』でついてきてくれ」
「はいですわ!」
「お供します」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで旦那様、試したい事というのは?」
アヤネの声が、泡を通して伝わってくる。
やっぱり、『泡魔法』同士で意思疎通ができるみたいだな。
「まず1つ、こっちの西側海岸にも宝箱があるかどうかの確認。それから、海の中にちらほら見えているモンスターの確認と、可能であればレアモンスターの討伐だな」
「そういえば、海にも南側に近付くとモンスターがいるのでしたわね。シザークラブとの戦いでは、一度も姿を見かけませんでしたわ」
「だいぶ深い所にいるみたいだからなー。アイラ、水中戦闘の経験あるんだったよな。どう? 『泡魔法』の使い心地」
「かなり良いですね。『魔力』を消費し続けるというのは欠点ではありますが、消費速度はご主人様によって解明されましたし、この分なら1時間潜りっぱなしでも問題はないかと」
技巧系スキルだと直視出来ないから上手くいかないが、魔法系スキルの場合は『真鑑定』が通る為、その能力の詳細がわかる。だから、新発見の検証がされていないスキルでも、簡単に効果がわかるのだ。
『泡魔法』のバブルアーマーは、10秒につき1消費するだけの、コスパの良い魔法だった。俺とアヤネは『魔力回復』のおかげでそれを上回る回復量だし、今後の事を考えて、次はアイラにも覚えさせなきゃな。
「お、あれか?」
俺達の周囲を、優雅に泳ぐ魚達。その中に、明らかに異彩を放つモンスターの姿があった。『知覚強化』のお陰か、だいぶ遠くにいる時点でも目視することが出来たその身体は、やはり周囲の小魚と比べて、とても大きい。目算、シーラカンスくらいありそうだな。
マップで見ても、やはりあれがモンスターなのは間違いない。
「ビンゴ。さて、どんな面かな」
まだ試せていないが、もしかしたら視野が広がったことで『自動マッピング』の有効距離も伸びているかもしれない。
俺の声に気付いたのが、そいつはこちらへとゆっくり振り向いた。
『オッ?』
*****
名前:人面魚
レベル:15
腕力:120
器用:100
頑丈:70
俊敏:100
魔力:0
知力:10
運:なし
装備:なし
スキル:なし
ドロップ:人面魚の血石
魔石:小
*****
『オッオッ!』
シーラカンスの胴体に、おっさんの頭がくっついていた。
鳴き声も独特だし、なるほど。これは確かにモンスター……。
「いや、普通にキモイな!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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