ガチャ112回目:ひたすら狩る
『デスクラブ』のステータスもスキルも、ありきたりな物ばかりで、特にこれと言って特徴はなかった。
「なんか、拍子抜けだな」
「それは旦那様が、色んなレアモンスターと遭遇してるからですわ。普通は、あんな大きなヤドカリを見たら緊張しますもの」
「アヤネは緊張してる?」
「えっと……。昨日の『黄金蟲』や『黄金鳳蝶』と比べると、少し……拍子抜けですわね」
「でしょ?」
「ですが、あの鋏による攻撃は危険である事に変わりありません。そして『統率』効果で、周辺のシザークラブも強化されているでしょうし。ご主人様、油断はなさらぬよう」
「はーい」
チラリと、アキとマキを見る。
しかし彼女達は首を横に振った。やっぱり要らないか。
昨日彼女達と話したのだが、今後もレアモンスター戦の経験値は、必要ないらしい。日常使いでもステータスがあった方が何かと便利だとは思うんだけど、マキは戦いから距離を置きたいらしいし、ごめんなさいされてしまった。
まあ無理強いする訳にもいかないし、今後は彼女達の方から言ってこない限りは、俺からも確認するのはよそう。まあでも、良さげなスキルがあったら強引に送り付けるけどね。
「アヤネ、アイラ。とりあえず一発攻撃を入れてくれる? その後はアイラが前衛として引きつけてくれ。その間、寄ってきた雑魚は、俺が弓で刈り取る」
「承知しました」
「はいですわ! ファイアーボール!」
アヤネの魔法が着弾するよりもはやく、アイラは『デスクラブ』に攻撃を仕掛けた。
その結果、アヤネの魔法を受けても『デスクラブ』はアイラに攻撃を仕掛け続けていた。それに、周辺のシザークラブもアイラに向かってにじり寄っているようで、アヤネの方には見向きもしなかった。
『デスクラブ』は身体が大きい分、威嚇音の範囲が広いのか、10匹近い数のシザークラブが反応していた。
「うーん」
あの数は脅威なのかもしれないが、いかんせん、『統率』で1割上昇したところで、元の移動速度が低すぎて全然アイラに辿り着けていない。
やはりヤドカリはヤドカリ。ノロマだった。
「ほい、ほい、ほいっと」
近寄る先から射抜いて行けば、1分もしない内に全て片付いてしまった。素早いヒルズウルフに集まられた方が、まだ厄介だったな……。
「さっさと倒すか。『紫電の矢』」
『バシュンッ!』
一応レアモンスターという事もあって、即座に『紫電の矢』を再準備しようとしたが、どうやらそれは過剰だったらしい。紫の光に頭を貫通された『デスクラブ』は、前のめりになって倒れた。
その動きも非常に鈍かった為、生きているのではないかと疑ったが、奴が地面に激突した瞬間全身から煙を噴きだしていた。
どうやら終わったらしい。
【レベルアップ】
【レベルが31から35に上昇しました】
「弱すぎる……。いや、この武器とスキルが強いのか?」
周辺にシザークラブがいないことを確認し、アイラが戻って来る。
「すべて、かと。ご主人様の武器もスキルもステータスも、あの程度の相手では物足りないレベルにまで成長していると思われます。それに、あのモンスターの魔石は、『中魔石』でしたからね。魔石の大きさでもある程度の強さはわかるものです」
「そういえば、『ボスウルフ』もコイツも、魔石は中サイズで、その2匹よりもレベルの低い『黄金蟲』は大サイズだったな」
「はい。魔石のサイズが大きいほど、保有スキルやステータスに影響を与えますから」
「……なるほどなぁ。けど、さっきは注意するよう言わなかった?」
「それはそうです。物足りない格下であろうと、モンスターである以上は得意とする武器があります。それに対する注意を怠れば、怪我ではすみませんからね。慢心してはいけませんよ」
「そっか。……それもそうだな、気をつけるよ」
そうだよな。今回、楽が出来ているのは弓を安全に使えるようにと、アイラが危険な前衛部分を担当してくれているからだもんな。逆に、俺が剣で前に出ていたら多少なりとも苦労するだろう。あの装甲を相手に、剣で戦う場面をイメージするが、数回の攻撃では突破できそうにない。
だって、今いる場所は普通の草地や岩場じゃなくて、砂浜なんだから。
こんな足場では体重を乗せた攻撃は難しいし、回避も砂に足を取られてしまえば、ダメージを受ける原因になりかねない。俺とアヤネは役割上、ほぼ棒立ちで済んでいたけど、前で戦うアイラの負担は相当だろう。それを棚に上げて、敵を舐めるのはよくないよな。
「アイラ、前で戦ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「今後の為にも、俺も前に出て戦った方が良いよな?」
「その向上心は素晴らしい事です。ですが、いくら『金剛外装』があるとはいえ、ぶっつけ本番はあまりお勧めできませんね」
「そっか」
じゃあどうするか……。
「……そうですね、今度この砂浜で、私と鬼ごっこをしましょう。私を捕まえる事ができたら、免許皆伝です」
「ええ……? 砂浜じゃなくても、捕まえられる気がしないんだけど」
「勿論手加減はします。ですが、それを無事こなせるくらいの練度になれば、足場が悪い場所でも問題なく戦っていけるでしょう」
「それはそうかもしれないけど……。じゃあ、今度お願いしようかな」
「ところで私が今着ているこの水着ですが、実はお腹の所に穴が開いていまして」
「……うん?」
急になんか不穏な空気になったぞ?
「私を捕まえる事ができれば、ここに手を入れる権利を差し上げましょう」
「……」
興味がないと言えば嘘になるが……。でもアイラ、普段からグイグイ来るし、そんなことしなくても触らせてくれそうではあるよな。口にしないけど。
「私としては、いつでもウェルカムですが」
「まだ何も言ってませんけど!?」
「旦那様、わたくしもいつでも歓迎ですわ!」
「あーはいはい」
「むぅ~。本気ですのにー」
誤魔化すようにアヤネへと手を伸ばそうとして、黄金の膜にぶつかった。
「おっと」
『金剛外装』は攻撃の意思関係なしに、そもそも触れる事が出来なくなるんだったな。
ならここは、一旦軽く叩いて……と。よし、なでなで。
「えへへ」
「それはそれとして、次が湧くかもしれないから一応臨戦態勢ね」
「はい」
「はいですわ~」
討伐から約10分後。
こちらの思惑とは裏腹に、煙は完全に霧散してしまった。
「む、ハズレか」
「残念ですわね」
「ご主人様の『運』でも出ないのですか……。これは些か厄介ですね」
「そうだね、普通の人じゃまず湧かせられないだろうね」
ドロップはアイラに任せて、アキとマキの下へと戻った。
「ショウタ君、お疲れ様!」
「ご無事で何よりです!」
「んー、雑魚もレアモンスターも、ワンパンだったから不完全燃焼だよ」
「「ふふっ」」
せっかく膝枕から復帰したっていうのに、まさかあんな簡単に倒せてしまうとは。拍子抜けも良いとこだ。
「ご主人様、お待たせしました」
「どうだった?」
「スキルもアイテムも、全て出ました」
「どれどれ……」
名称:デスクラブの大殻
説明:デスクラブが背負っていた巨大な殻。とても頑丈であるが元が何なのかは不明。
名称:デスクラブの大鋏
説明:とても鋭利なデスクラブの鋏。その切断力は、人間を容易く断ち切るほど。
名称:デスクラブの肉
説明:珍味として優秀なデスクラブの肉。可食。
「……?」
何だ、この説明は。
そこに小さな違和感を覚えるが、ひとまず可食と記載されているのなら問題ないだろう。あるとすればその量だ。あの馬鹿でかい身体から得られたと考えれば少なく見えるが、それでもブロック肉がドロップするとは……。
このサイズなら、軽く見積もっても数kgはあるだろう。
噂ではヤドカリは甘エビみたいな味って聞くし、量に目を瞑れば割と良いドロップなのかも知れないな。
「この肉、食べれるみたいだ。アイラ、小さく切って醤油出して」
「はい、用意してます」
アイラは当然のように机を出して肉を置き、既に俺の分だけ一口サイズに切り分けていた。更には、割り箸と醤油入りの小皿までも用意されていた。
流石すぎてもう何も言えない。
「俺、もしかしてわかりやすい?」
「ふふ」
「ショウタさんは顔によく出ますから」
「うー、あたしまだ半分くらいしか読めないのにー」
「わたくしは全然ですわ……」
「……」
どうやら半分以上に、思考回路がバレバレらしい。
まあそれは置いといて、せっかく気を利かせてくれたみたいだし、一口頂くか。
「もぐっ」
……旨い。
甘い独特の味わいと、海の風味が口の中いっぱいに広がった。これほどの濃い味なら、醤油の量は少なめでも十分楽しめてしまうな。うん、たしかにこれは甘エビだ。量が尋常ではない事を除けば。
「もう俺にとって、デートダンジョンが、甘味処ダンジョンへと評価を改めつつあるんだが……」
「そ、そんなに美味しいの?」
「皆も食べてみて」
アイラによって人数分の割り箸と小皿が用意され、皆が思い思いに口に運ぶ。
彼女達がその味わいを堪能する中、俺は今日の予定を計算していた。
今回の戦いで31から35に上がった事を考えれば、あと2、3回で41を超えてくれるはず。ドロップも『統率』があるし、アイラに前を任せれば連戦も楽にできる。可食可能な肉も悪くないし……。移動はせずに、今日はこのまま連戦をするか。
そうして俺達は、連続で『デスクラブ』を狩るのだった。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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