ガチャ111回目:弓の練習会

 海パンを脱いで身体を拭き、私服に着替えてその上に鎧を纏う。

 『金剛外装Ⅲ』がある以上、鎧は要らないかもしれないけれど、一応初見の相手だ。油断はしない。

 それに、もしそれが原因で怪我を負ってしまったら、マキが悲しむ。それだけは避けたい。


 外に出ると皆が待機していた。

 まあ、完全武装は俺だけで、皆水着だったけど。……ああ、アイラはこれも戦闘衣装だったか。


「おまたせ。とりあえず、敵が見える位置まで移動しようか」


 皆が頷き、俺の後ろをついてくる。

 どうやら、アキとマキも少し離れた位置で見守ってくれるようだった。……そういえば『統率』の有効範囲ってどれくらいなんだろうか? 端末にも特に情報は無かったし、それも実験してみようかな。


 そんな風に考えていると、第二層に生息するモンスターが視界に入った。


*****

名前:シザークラブ

レベル:11

腕力:80

器用:40

頑丈:100

俊敏:10

魔力:100

知力:10

運:なし


装備:なし

スキル:なし

ドロップ:シザークラブの甲殻

魔石:小

*****


 何がいるんだと思ったら、純白の貝殻を背負った、赤いヤドカリだった。

 いや、貝殻は縦も横も1m近くはあるし、一目見ただけでモンスターと分かるサイズ感なのだが、片方のハサミが異様にデカイ。あれに襲われ挟まれでもしたら、ひとたまりもないんじゃないか?

 なるほど、それでハサミを意味するシザーか。


 そんなシザークラブが、至る所にいる。10~20程度の群れが十数カ所にだ。

 ついさっきまでは、遠くに何かいるな~程度だったが、ここまで近づくとちょっとした恐怖を覚える。存在感の大きいハサミもそうだけど、数が尋常ではない。

 これは確かに、Cランク以上とするのも納得かもしれない。レベルは低めだけど、こんなに群れてるんだもんな。それに、厄介な点があるらしいし。


「マキ、ここに来るとき協会員の人が、なんか特徴あるみたいなことを言ってたけど、それってどんなの?」

「はい。近づくと襲い掛かって来る点は普通のモンスターと同じですが、目がよくありません。その代わりに音に反応してやってくるそうです。また、1匹が攻撃を受けたり、敵性存在を感知すると、その周囲のモンスターも反応してまとめて襲ってきます」

「うわ」

「幸い、連鎖的に反応はしないそうなので、手前のモンスターに遠距離攻撃を仕掛けて、やってきた複数のモンスターを狩るといった形がベストだと思います。こういった特性持ちのモンスターは他のダンジョンにもいますので、アイラさんなら慣れているかと」

「はい。この手のモンスターの場合、こちらから突っ込めば要らぬ被害を生みかねません。ですのでマキ様が仰った通り、慎重に手前にいる相手から呼び寄せ、順番に討伐するのが通例です」

「なるほど」


 なら、尚の事コイツの出番だな。

 背負っていた『カイザーヴェイン』を手に持ち、矢を引き絞る。


 まずは一発。


『ドシュッ!』


 矢はシザークラブの頭を貫通し、一撃で煙を噴きだした。

 そして奴の煙が晴れると、貝殻を落としたのだが……。周囲のモンスターは微動だにしなかった。


「……あれ?」


 振り返るも、皆不思議そうな顔をしていた。観察していたマキが、思いついたことを口にする。


「もしかすると、一撃で倒すと反応しないのではないでしょうか」

「え、じゃあやりたい放題じゃん」


 そうして、続けて手前にいるシザークラブを5体連続で射貫く。

 彼らは皆、脳天に突き刺さった矢を知覚することなく煙に変わり、周囲にいる仲間たちは相変わらず反応すら見せなかった。


「これはらくちんだわ。けど、1つの塊を討伐しきるまでは、アイテム回収が面倒だな」

「ご安心を。私であれば連中に気付かれず回収可能です」

「まじで? ほんと優秀だな。それじゃ、このまま続けて狩るよ」


 そうして俺は、その場から一歩も動くことなく弓矢を放ち続けた。

 時たま、脳天からわずかにずれたり、デカイ鋏に激突したりして、倒しきれずに複数のシザークラブが襲ってくることはあった。けど、連中は『俊敏』から見てわかる通り非常に足が遅く、落ち着いて1匹ずつ撃ち抜けば、こちらに辿り着く前に問題なく処理できた。

 俺の弓は『魔力』さえあれば弾切れすることはない。その上『魔力回復』のスキルもあるので、実質無制限に矢を放てるのだ。ほとんど動かない相手だし、的は腐るほどいる。最高の練習環境だな。


 そうして練度を高めている内に、いつのまにか結構な数のシザークラブを射抜いていたらしい。アイラが報告をしてくれる。


「ご主人様、あと2匹です」

「ありがと。しっかしほんと、こんな簡単で良いのかって感じだな」

「それだけショウタ君の技量が凄まじいってことよ」

「そうですわ。こんな事、旦那様じゃないと出来ませんわ!」


 はしゃぐアヤネを宥める。ちらりとシザークラブの方を見るが、奴らは反応らしい反応を示さなかった。

 こいつらの狩りをしていて気付いたのだが、どうやら連中、足音や仲間が発する警戒の音にこそ反応はするのだが、人間の声には反応しないらしい。

 道理で、午前中あんなに騒いでたのに1匹たりともやってこなかった訳だ。


「この貝殻、どの工房に回せば良いかな……」

「結構硬いみたいだし、匠第一と第二にそれぞれ連絡してみよっか」

「うん、そうね。甲殻系の素材を扱ってる部門があったはずだし、探してみよう」


 姉妹のそんな会話を聞きながら、付近にいた2体のシザークラブを打ち抜く。

 そして、100匹目の死骸から煙が吹き上がった。


「お、さっそく来たか」


 アヤネとアイラには『運』が低すぎて煙は見えていないらしいが、アキとマキには薄っすらとだが知覚出来ているらしい。やっぱりこの煙が見えるかどうかで、沸かせる資格があるかないかが振るい分け出来そうだよな。


 そう思っていると、煙は膨張した。


「ここで湧くのか! アキ、マキ」

「「はい!」」


 2人が距離を置くのを確認し、俺とアヤネは戦闘準備をする。


「『金剛外装Ⅲ』」

「『金剛外装』!」


 何が来るか分からない以上、初手から外装を使っておくことで安心感が増す。

 そうしているうちに、煙の中からソレは現れた。


 見た目は全身青色になったシザークラブであるが、その身体は全体的に肥大化しており、鋏は人間なんて簡単に挟めるほど巨大になっていた。貝殻もゴツゴツしていて非常にいかつい風貌だし、これは強そうな見た目だな。

 体高は2mほど。横幅も3mはあるだろう。強敵の予感がする……。

 

『ギギギッ』


「『鑑定』」


*****

名前:デスクラブ

レベル:30

腕力:350

器用:100

頑丈:500

俊敏:80

魔力:600

知力:100

運:なし


装備:なし

スキル:剛力、怪力、鉄壁、城壁、統率

ドロップ:デスクラブの大殻、デスクラブの大鋏、デスクラブの肉

魔石:中

*****


 ……あれ?

 怖いのは見た目だけで、ステータスも保持スキルも、なんだか普通だな。

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