ガチャ110回目:ひたすら遊んでひとやすみ

 水着に着替えるといっても、男が着替えに掛ける時間なんて一瞬だ。

 全部脱いで、海パンを穿く。それで終わりだ。


 脱いだものは、放っておいてもあとでアイラが多分畳んでくれるだろうけど、どうせ女性陣を待つことになるんだから自分でやってしまおう。そうして外に出てストレッチすること数分。

 最初に出てきたのはアヤネだった。


「旦那様ー! いかがですか?」


 そう言ってくるりと、目の前で回ってみせた彼女が着ていたのは、明るいチェック柄の、セパレートの水着だった。

 彼女の体型と性格的に、攻め攻めのビキニか、謎のテンプレに従って学校指定水着とかで来るんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだが……。うん、普通だ。いや、普通で良かったけど。


「普通に可愛いぞ」

「えへへ、旦那様~」


 アヤネといつものようにスキンシップをしていると、次に出てきたのはアイラ。

 彼女は宣言通り、紺色のバイオラバースイムを着ていた。身体のラインがハッキリと出る為、アイラのスタイルだとそれだけでもう歩く凶器だと思う。あんまりジロジロと見るものではないが、コレ、水系のダンジョンで普通に着て行ってるって話だったよな……?

 チームに男は居なかったんだろうか? こんなのが近くで戦っていたら、視線が吸い寄せられるぞ。


「どうですかご主人様」

「うん……。なんというか、その……」

「胸に熱い視線を感じますね。触ってみますか?」

「……さわりません」

「ふふ、ご主人様ならいつでも歓迎しますよ」

「むぅ。わたくしも、アイラくらい欲しいですわ!」

「ご主人様に愛でて頂ければすぐにでも大きくなるかと」

「旦那様……!」


 そんな目でこっちを見ないでくれるかな……。

 アイラとアヤネの誘惑を無視して、姉妹を待つ。


「……それにしても遅いな。中々出てこない」

「ちょっと様子を見てきますわ」


 そう言ってアヤネが小走りでテントに入っていく。

 しばらくして、アヤネに押される形で2人が出てきた。


「おお……」


 アキは黄色いチューブトップで、マキは白いワンピースの水着だった。2人とも胸元にフリルがついていて、頭にはお揃いのコサージュ。

 なんだこの光景は。2体の天使が、浜辺に舞い降りた?


「アキもマキも、すっげー可愛い」

「そ、そう。良かったわ……」

「あ、ありがとうございます……」


 そこからは、さながらプライベートビーチのように、周りを気にせず遊んだ。水の掛け合いをしたり、気ままに泳いでみたり。

 ちょっと気になったことがあったので、彼女達に一言伝えてから、どこまで行けるのか試してみた。そうすると、100mくらいの位置で見えない壁に激突した。多分この階層は、島を中心にこの見えない壁で覆われているんだろう。

 この位置までくると、水深もかなり深い。相変わらずモンスターは居ないようだが、危ないので俺は波打ち際に戻り、再び彼女達との遊びに興じた。

 その後も水辺で遊んだり、ビーチバレーをしてアイラに完封されたり、砂のお城を作ったり。

 そんなこんなで、恋人達と夏のひと時を満喫したのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それは昼食を終え、テントで涼を取っている時の事だった。


「ショウタさん」

「うん?」


 目を開けると、双丘の向こうにマキの天使のような笑顔があった。俺は今アイラの発案により、日ごろの疲れを癒すという名目のもと、マキに膝枕をしてもらっていた。

 他の3人はまだ外で遊んでいる。まあ、アイラははしゃぐ2人を見守る役目だろうけど。


「楽しかったですか?」

「ああ、とっても。青春ってこういう事を指すんだろうなぁ。って感じてた」

「ふふ、良かったです。気の知れた仲間と遊ぶのって、楽しいですよね」

「ああ、そうだな」


 時間を忘れて友達と遊ぶのって、こんな感じなんだろうな。小学生の低学年頃は、ステータスなんて無かったから、誰もそんなの関係なく遊んでいたような気がする。けど、ダンジョンが出現した10年前から、俺達を取り巻く環境は激変した。

 実際にダンジョンに入れずとも、ステータスはその人を表す大事なパーソナリティとなり、初期ステータスが強いほど人気者になった。逆に、低ければ低いほど学園のカーストは下がっていったのだ。

 これは努力で変えられるようなものではなく、産まれも育ちも関係ない。才能と一言で片付けるには、あまりにも残酷な存在だった。俺の場合、完全に『運』から見放されたとしか言えない状態だった。


「子供の頃でも、2人は人気者だったんじゃないの?」

「どうなんでしょう。姉さんはいつも周りに人がいて、私は姉さんの後を追ってばかりでしたから……。それに、すぐあの事件が起きましたし、良い思い出はあまり……」


 マキが言っているのは、ダンジョンブレイクの事だろうか。


 ダンジョンが出現した最初の年は、混乱の年だった。

 全人類にステータスが表示され、突如として世界に100ヵ所のダンジョンが現れた。そのどれもが、人々が多く集まる場所にだ。

 現状把握に人類は奔走し、内部が危険と分かると調査を希望する声と、封鎖を希望する声が世に溢れた。


 そうして出現から1カ月後。ダンジョンにいるモンスターを倒す事でレベルが上がり、ステータスの上昇だけでなく未知の資源となる『魔石』を得られることが分かった。それは新たなエネルギー源として活路を見出されたが、それでも一般開放されることは無かった。

 その理由としては、ダンジョン内には危険が伴う為というのもあるが、ダンジョンの総数が少なかったからだ。大きい国なら1~3個だが、小さい国ではほとんどの場合0個だった。そういうこともあり、ほとんどの国が自国が持つ軍だけで対処出来るという認識だった。

 まだその時は、新たな資源の採掘場が到来したのだと、人類は馬鹿みたいに喜んでいた。2年目が来るまでは。


 ダンジョンが出現して1年が経過した日。また新しく100個のダンジョンが世界に現れた。

 そこでようやく、人類は危機感を覚えたのだ。この調子で毎年のようにダンジョンが増えていけば、そのうち……と。

 その予想は、近いうちに別の形で的中した。2年目に出現したダンジョンは、1年目よりも難易度の高いダンジョンが多かったのだ。その為、ダンジョンの入口が封鎖され、数ヶ月以上放置されるダンジョンが急増。そして内部のモンスターが溢れかえり、外へと飛び出すダンジョンブレイクが世界中で連鎖的に発生してしまった。


 その際、数多くの人間が亡くなった。軍属の人間も、一般人も関係なく。そして3年目以降にもダンジョンが増える事を見据えて、一般開放が始まった。その際、ダンジョン協会が設立されたり、冒険者という呼称が広がったり、政府が秘匿していたスキルなども公開されたりもした。

 一般の人を呼び込むための措置として、冒険者として活躍してランクを上げる事で、様々な施設でのVIP対応や優遇措置。果ては一夫多妻などの許可が降りたりなど……。


 色々とあって、今に至る訳だが……。

 あのダンジョンブレイクは、今でも世界中に爪痕を残している。ダンジョンに対処できる人員が整わず、未だモンスターの国と化した街や島なども存在しているらしいし、ランクが上がればそういうところにも派遣されるんだろうか?


「ダンジョンブレイクか……」

「はい。私達、あの事件の時、近くに住んでいたんです」

「そうなのか……」

「そこで色々あって、私も姉さんも、スクールに入ると同時にダンジョンに関わって来ました。だからこういう風に、誰かと一緒に遊ぶって事には、あまり縁がなかったんです」

「俺も、マキほど壮絶な経験はしてないけど、色々とあってこんな時間は過ごした事なかったな」


 な部分はマキも想像がつくだろうけど、お茶を濁しておく。


「ショウタさん……。私、今とても幸せです」

「俺も。この時間もこの瞬間も最高に幸せだよ」


 マキと見つめ合う。

 ああ、幸せを感じる。……そう思っていると、マキはいつものように受付嬢の顔へと切り替えた。


「ですけど、そろそろ夢から覚めないといけないですよね。幸せな時間を作るためには、強くならないと安全は手に入りませんから」


 マキは遊びの時間は終わりだと告げ、俺に狩りをするよう提案してくる。

 けどなぁ……。


「……たまには、こんな風に息抜きし続けるのも良いんじゃないかって思うんだよね」

「え、ショウタさん……? いつもなら、狩りになると目を輝かせるのに……。どうしちゃったんですか? さっきまで、遊びたいけど狩りにも行きたいって顔をしてたじゃないですか」

「そんな顔してたの?」


 ちょっと恥ずかしいんだけど。


「……いや、マキの膝枕気持ち良すぎて、蕩けそうなんだよね。動きたくないっていうか」

「そ、そうなんですか?」

「うん。……柔らかいし、良い匂いするし、気持ち良いし、天使がいるし、絶景だし」

「も、もう。ショウタさんったら……」


 マキが顔を赤らめていると、アキがやってきた。


「ショウタ君、話は聞かせてもらったわ!」


 アキはずんずんとやって来て、しゃがみ込むようにして俺の顔を覗き込む。

 ……これまた絶景なんだが。でもアキは、俺の視線に気付かずいつものように揶揄い混じりに聞いてきた。


「ねえねえ、そんなにマキの膝枕が良かったの?」

「んー、控えめに言って最高」


 景色は2倍で最高。


「おおー。ショウタ君の狩り欲求を抑えるなんて、凄いわねマキ」

「うぅ……」


 真冬にコタツに入ると動けなくなるが、真夏はマキの膝枕だな。

 ダンジョンの外はまだ春先だし、この気持ち良さがまた味わえるのは嬉しいポイントだ。身を預ければ預けるほど、動く気力がなくなっていく……。


「私だって、ショウタさんをこのまま甘やかしていたいです。けど、それは帰ってからにしましょう?」

「えー……」

「今日頑張ったら、明日は一日中甘やかしちゃいますから。ね?」

「それは、水着で?」

「えっと……。ショウタさんが、望むなら」

「なんなら、今日見せなかった過激な奴でサービスしちゃうわよー」

「ね、姉さん!?」


 ああ、それで出てくるのに躊躇ってたのか。どっちを着るか的な。

 でもまあ、人目があるかも知れない場所だから、普通に可愛いタイプの水着でよかった。


「じゃ、それを糧に頑張るかな」

「ふぁいとー!」

「こうなったら、姉さんも着てくださいね!」

「えー? 残念だけど過激水着はマキの分しか買ってないよー?」


 アキがケラケラと笑う。


「こうなるかもと思って、姉さん用の面積少なめの水着も買ってますから!」

「ええっ!?」

「恥ずかしい思いをするなら、姉さんも道連れです!」

「くっ、やってくれたわね!」

「……先に出てるね」


 そんな可愛らしい応酬をする2人を置いて外に出ると、準備万端といった様子のアヤネとアイラが待っていた。


「今日の狩りも、頑張りますわ!」

「ご主人様、いつでもいけます」


 2人とも水着のままだったが、しっかりと武器は持っていた。俺もこのまま水着で……とおもったけど、流石に海パン一丁でモンスターと戦うのは避けたいな。『金剛外装Ⅲ』があるとはいえ、万が一ということもあるし、それに見た目的に……ね。

 カメラで映像を撮るわけだし。


「俺はちょっと着替えてくる」

「お手伝いは要りますか?」

「ナニを手伝うんだよ……。一人で出来るって」

「残念です」

「残念ですわ」

「……」


 この2人なら覗いてきかねないな。

 早く着替えてしまおう。

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