ガチャ109回目:砂浜と境界線
俺達は海の家を出ると、真っ直ぐに北東にある砂浜の切れ目へと向かった。途中、『鷹の目』を駆使してマップを更新しようとしたが、この砂浜は見通しが良すぎるためか、最初からすべて見えていたらしい。使ったところで、北側の砂浜の情報は何も更新されなかった。
2人の情報通り、ここには人間を表す白い点しか表示がなく、赤色も緑色もない平和な場所のようだ。
外の季節は春が終わる頃であり夏までもう少しといった過ごしやすい気候なのだが、この階層は常夏の気候に設定されているらしい。例え冬場に訪れようとも、夏シーズンの海水浴を堪能できるそうだった。
季節関係なく楽しめるのは良いけれど、身体の感覚がバグりそうだよなぁ。
「お待ちを。ここから先は一般の方は入ることができません」
そう言って立ち塞がるのは、ライフセーバーを着た見張りの協会員だった。
おっと、暑いからと鎧を脱いだ時に、一緒に冒険者バッジも、アイラのバッグにしまっていた。
いそいそとそれを取り出す。
「俺達はAランク冒険者チームです。ヨウコさんから聞いていませんか?」
協会員の顔を見るが、知らない人だった。前回の『黄金蟲』騒動の時には見かけなかったという事は、やっぱり階層ごとに担当が違うのかな?
「ああ、あなた方が支部長の仰っていた……。失礼しました、お通り下さい」
「ありがとうございます。ところで、こっち側に人が来ることってあります?」
「この先のモンスターの特性が知れ渡って以降、訪れる者はほとんどいませんね。稀に命知らずな冒険者がやって来ますが、Cランク以上必須としているため、ここを使うのは相当な物好きか……あっ、失礼しました!」
「いえいえ、お気になさらず。俺も初めて来ましたから、危なそうなら大人しく戻って来ますよ。お勤めご苦労様です」
そう告げると、見張りの人が横に逸れてくれたので、封鎖されていた洞窟を歩く。
洞窟といってもすぐ向こう側が見えているため、陽射しもあるため中は明るい。そのままズンズンと進んでいくと――。
『ブンッ』
「……?」
洞窟を抜けた瞬間、妙な感覚を受けた。
まるで薄くて見えない空気の壁を通り抜けたかのような……。この感覚には覚えがある。ダンジョンに入場した時や、ダンジョンの階層を上り下りする時のような……。
なぜこんなところに?
振り返る俺を、皆が不思議そうな顔をする。
「どうしました?」
「いや、なんかこの辺に変な膜みたいなのがあるんだけど……。まるで、ダンジョンの階層を移動したときのような……」
手を伸ばせば、洞窟と砂浜の境界線付近に何かがあるのは分かった。けど、見ることは叶わないし、掴む事はできない。まるで雲を掴むような感覚に、違和感だけが残った。
「確かに、なーんか違和感を感じるわね。ショウタ君ほどじゃないけど」
「そうですね……。私達は、階層移動の時は、特に何かを感じた事はありませんけど……。ここは、本当に微かに……」
それは俺だけじゃなく、アキやマキも感じているようだった。
3人で何度か触れては離し、触れては離しとしていると、アイラは心当たりがある様子だった。
「ご主人様達が知覚されているのは、恐らくエリアの境界線でしょう」
「ああ、それかー! じゃあ、やっぱり北側はセーフエリアなのね!」
合点がいったとアキが手を叩く。
「セーフエリア?」
「ダンジョンには、先ほどまでいた北側の砂浜のように、モンスターが湧かず、絶対に寄り付かないとされる空間がいくつか存在しています。その境目には知覚できないバリアのようなものが張られているのでは、という仮説があるのです。ですが、勘の鋭い冒険者以外には、その存在を知覚できないとも言われているのです。実際、その方々が発見したエリアではモンスターは寄ってこず、そこに逃げ込めばモンスターが逃げ出すそうです」
「へー」
ダンジョン内に生成される安全エリアか。
モンスターは階層を越えられないという話もあるけど、それは階段にその境界線があるため。そしてこの第二層には、北側の砂浜を囲むように、その境界線が引かれている……と。
「ご主人様は鋭敏な感覚をお持ちですから、この様な違和感もハッキリと分かるのでしょう」
「旦那様、すごいですわ!」
飛びついてくるアヤネを撫でつつ、話を続ける。
「ふむ……。アキやマキもなんとなく違和感を感じているのは、『運』がそれだけ育ってるからか」
「恐らくは」
「それで、そのセーフエリアに北側が包まれている以上、こっち側でモンスターをいくら狩ったとしても、向こうにレアモンスターが湧かない……。ってことで良いのかな?」
「そういうことになるのかと。そしてセーフエリアは知覚できない以上、第二層の安全も『前例がないから』という理由のものでした。ですが、ご主人様が明確にあると感じた以上、今まで以上に北側の安全は確立された訳ですね」
「でもそれ、立証のしようが無いよね?」
「残念ながら、そうですね」
それじゃあ意味ないじゃん。
でもま、今回は第一層のようにレアモンスターチェックに奔走しなくて済むから、良いのか。
「このセーフエリアを覆う壁、消えたりはしないの?」
「ダンジョンブレイクの時は機能を失うそうですが、それ以外で問題は起きていないそうです」
「了解。なら、安心だな」
改めて、東側の砂浜に目を向ける。
視界はハッキリと反対側まで見えている為、マップにはしっかりと東側海岸の全景が書き込まれた。事前の情報通り、モンスターの赤い点は南側に集中していて、海の中にもチラホラとその存在は認識出来た。
その数は数えるのが億劫になるほどにひしめき合っているが、海の中は数が少ない。
それでも、砂浜に200ほど。海に80~100前後といったところか。砂浜と海とでは、別のモンスターになるのか、それとも同じモンスターなのかはわからない。いかんせん、砂浜の敵も遠すぎて姿形がよく見えないんだよな。
まあ、近寄らなければ無害なのは間違いないだろう。
「ではご主人様、着替えはこちらでなさってください。水着も中に入れてあります」
そういってアイラは、テントを指さした。
「あれ、いつのまに!?」
「ショウタ君が考え込んでる間に、とんでもない速さで組み立ててたわよ」
「アイラさん、本当になんでもこなせて凄いです」
「アイラは優秀なのですわ!」
「恐縮です」
見れば、俺のテントだけでなく、女性陣が着替える用の大き目なテントも隣にあった。
考え込んでいたといっても、せいぜい2、3分くらいだというのに。その短時間でテントを2つも建てるとか、ほんとなんなんだ、このメイドは。
楽し気にテントに入っていく女性陣を見送り、改めて俺用のテントを見る。正直、これくらいの広さなら十分に眠ることも出来るよな。
……第二層のレアモンスター次第だけど、寝泊まりしてもいいならしてみたい気もする。
おっと、また考え込んでしまった。
「とりあえず、着替えるか」
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