ガチャ108回目:青い海、白い砂浜

 アキとの一夜を明かし、目を覚ますとそこにはもうアキは居なかった。温もりはまだ残っていたので、俺より先に目覚めて、恥ずかしくて抜け出したのかもしれない。


 そうして部屋から出てアキと対面するもどこか余所余所しくて、更には朝食の時も、気まずそうに目を合わせてくれない。けれどそんなアキが可笑しくて、ニヤニヤが止まらなかった。そして、マキとアヤネが昨日の事を知りたがっていたので、俺が懇切丁寧に説明すると、その度アキが変な声を上げて悶絶していた。

 弄り過ぎたのか、その後アキが拗ねてしまったが、彼女は欲望に忠実だった。ちょっと撫でてあげればすぐに元通り。実にチョロい。そこがまた可愛いんだけど。


 そんな感じで賑やかな朝食を終えた俺達は、ハートダンジョンに向かう為にそれぞれ出発の準備をしていた。


「ん? なんだか騒がしいな」


 自室で鎧を着用していると、リビングの方から、アキとマキの声が聞こえてきた。駆け寄ってみれば、どうやら端末を見て驚いているようだった。


「どうしたの?」

「あ、ショウタさん、見てください!」

「この前取った『王の威圧』! 良い値段で出品する事が決まったよー!」


 ああ、そういえば完全に忘れてたけど、オークションって4日周期なんだっけ? 前回『金剛外装』を2つ売ったのが4日前か。それで、俺が得たスキルでオークションに出品したのは、これで3回目な訳だ。

 ……それを思うと、マキと出会ってからまだ10日も経っていないんだったな。更には、アヤネやアイラも、3日しか経ってないんだよな? 昨日アキとも話したけど、本当に3人とは運命的な出会いだったんだな……。一気にここまでの関係性に進展するくらい、互いに惹かれ合うなんて。

 愛の深さに時間は関係ない。なんて言葉は聞くけど、本当だな。


「『怪力』は2回目という事もあって4000万予想です。一応、定価の3000万で出品しました」

「前回の5800万は久々だったからね。2回目となれば落ち着くでしょ」

「これが参加者のリストですのね? 皆さん、目にしたことのある人ばかりなのですわ」

「今後もショウタ君は大量に出品するだろうから、価格の上昇は落ち着くと思う。今度から出品する時は、元の価格よりちょっと安く出品してみましょ」


 ぼーっと思いを馳せていると、彼女達の話題は次のスキルへと移ってしまっていたので、俺は慌てて彼女達が見ている端末を覗き込んだ。


「『王の威圧』3500万か……。叫ぶことで敵をスタンさせるっていう分かりにくい効果の割に、結構強気な値段で出品してるね」


 今回のスキルの価格設定に関しては、前例がなかったから値段はアキとマキだけじゃなく、ヨウコさんやリュウさんも関わってるんだっけ。

 あの2人が間に入ってくれている以上、この値段は適正なんだろうけど……。それでも高くない??


「そうねー。ま、スキル名が格好良いってのもポイントなんじゃない?」

「ええー? そんなもん?」

「スキルなんてそんなもんよ。有用性の他にも、目立つ名称のスキルを持っていた方が箔が付くもの」

「『鑑定』されたときの見栄えか……。考えた事も無かったな」


 そりゃ確かに『王』なんて単語がついてるスキル、中々無い上に格好良いもんな。

 『二刀流』と同じ空気を感じる。


「私達は全員、『鑑定妨害』で隠していますからね」

「オープンな方々がいらっしゃるのですわね」

「見栄えですか……。そういう意味では、ご主人様のスキルはゴチャゴチャしていますね」

「うっ……」


 スキルが多くて統一性がない事、ちょっと気にしてたのに。


「それを使いこなせる旦那様、流石ですわ!」

「ああ、ありがと」

「えへへ、褒められましたわ」


 何でも持ち上げてくれるアヤネを撫でて可愛がると、何故かアイラまで嬉しそうな表情を浮かべていた。もしかしたら、先ほどのアイラの失言は、アヤネを撫でさせるための策略かもしれない。そう思うと、ついもう片方の手がアイラの頭へと伸びていった。


「あっ、ご主人様……」


 全力で堪能するアヤネと、困惑しながらもまんざらではなさそうなアイラ。そんな2人を撫で続けていると、今度は姉妹が物欲しそうな顔で見てくるわけで……。


「「じーっ……」」


 結局、1人を撫で始めたら理由なんて無く、他の子達も撫でるハメになるのが、最近覚えた事だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんな感じで、日課となりつつある朝の一幕を終えた時の事。

 準備が終わり、家を出ようとした時、リビングのブラインドを落としているアイラに目が行った。


「なにしてるの?」

「ご主人様、お忘れですか? 前回『黄金の種』は1日で実が成っていました。今回も恐らく、今日の夕方くらいには実が成っているはずですし、暗くなったら外から輝きが丸見えです。このペントハウスは、周辺より高い場所にあるとはいえ、あの輝きが外に漏れでもしたら何事かと注目を浴びてしまいますよ」

「そういえばそうだった。ありがとうアイラ、気にかけてくれて」

「いえ。ご主人様のサポートが、私の業務ですから」


 ほんとこのメイドは頼りになるなぁ。俺が忘れている事を、しっかりとカバーしてくれている。

 彼女と出会えなかったら、俺は一週間もしない内にヘマをして、秘密が周りにバレてしまっていただろうな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんなこんなで準備を終え、そのまま『ハートダンジョン』に突入。第一層を突っ切り、第二層への階段を降る。

 そして新しい階層に着くと同時に、視界は一変した。


「「「「おお~」」」」


 青い海、白い砂浜、眩しい肌色に、照り付ける太陽。まさにここは南国ビーチの様相だった。

 まあ、違和感があるとすれば、この場所でもフルフェイスの全身鎧姿の冒険者がいる事だったが。……と思っていたら、彼らは一カ所に集まり鎧を脱ぎ出した。そして中から出てきたのは、ライフセーバーのような恰好だった。

 

 どうやら護衛の彼らは、鎧などの装備は入り口付近に置いて、あの恰好で監視して回るらしい。まあ、あの格好じゃぶっ倒れそうだもんな。

 ダンジョンの開場時間から少し出遅れての到着だったけど、何人もの護衛が準備するくらいには、一般の人達で賑わいを見せていた。

 このダンジョンは、毎日この調子なのか……。そりゃ運営も大変だよな。


「それにしても、海があると聞いてはいたけど、いざ目の前にしてみると景色の変化に頭が追いつかないな……」

「急激なステージ構成の変動があるダンジョンは、ショウタさんも初めてでしたね」

「うん。今までは洞窟か草原かのどっちかだったからね……」


 まあ『上級ダンジョン』は、あと数階層降れば別の様相が拝めたらしいけど。


 そんな調子で周囲を観察していると、ありえないものがそこにあった。驚き固まっていると、アヤネも同じように驚き、目を丸めていた。


「え、これって……」

「え? え?」

「ふふ。ではショウタさん。この階層の簡単な説明をしますので、こちらへ」


 への説明の為でもあるのか、俺はマキに引っ張られるように手を繋ぎ、協会が建てたと思われる建造物へと向かった。その様相は……明らかに海の家だった。

 どうやらここと第三層では、デートコースの一部として、ダンジョン内にお食事処として使える店舗が設立されているらしい。

 第二層が海の家なら、第三層は茶屋かな……?


 外は賑わっていても店内はまだガラガラだった。奥の一室を借りた俺達は、ジュースで喉を潤しつつ今日の予定を決めて行くことにした。


「本当なら、こういう事は事前に決めてから行くべきところなんだけど、今日は全員初めてだったからねー」


 そう言ってアキは、テーブルに第二層のマップを広げた。

 そこには、海に囲まれた丸い島が描かれていて、東西南北に半円型の砂浜があった。今いるのは北側の砂浜で、それぞれの砂浜の間には、×印のような形で壁で隔たれており、壁は海の上にも続いていた。どうやら、そう簡単には隣の砂浜に入れないようだった。

 海の家に来るまでにチラリと見たが、この壁は第一層でも見かけた、ダンジョン壁と同種のものだった。あれを登頂するのは不可能に近いだろう。だとすれば、どうやって隣の砂浜に行くんだ……?


「この階層は他では中々見られない特徴的な作りになっています。ショウタさん、分かりますか?」

「それってこれの事でしょ?」


 俺はマップのとある箇所……。第一層の入り口の隣を指した。

 そこには、第三層への入り口があった。


「はい。正解です!」

「ショウタ君とアヤネ、振り向いた時驚いてたもんねー」

「いやだって、まさか隣に並んでいるとは思わないでしょ」


 今まで見てきた次層への階段は、マップの対角線上にあった。けれどここでは目と鼻の先だった。あまりの違和感に最初はそれが次層への階段だと思わなかったくらいだ。


「さてショウタさん。次にこの階層のモンスターですが、見てわかる通り、この北側の海岸には1匹たりともいません。その代わり、南の海岸にはモンスターが群れを成しているらしく、東と西の海岸は、南側に近付くほどモンスターとの遭遇率が増すようです」

「北側にはほとんど寄り付かないから、冒険者なら通っても良いことになってるの」

「へぇ。完全に北側が安全地帯なのか……。それで、ここのモンスターも、積極的に攻撃は仕掛けてこないの?」

「そのようですね」

「ただ、厄介な特性もあるし、モンスターが近くにいたら安全に楽しめないから、一般の人達は護衛有りでも立ち入りは禁止されてるようねー」

「ふうん?」


 だから護衛の人たちも、ラフな格好に着替えていたんだな。元の格好で動き回ったら、熱中症で倒れてしまいそうだし。


「そして隣の海岸への移動方法ですが、この海岸の両端にあります。この壁は海の中まで延びているのですが、砂浜と海の境界線付近に、隣へ移動できる小さな洞窟があるそうです。そこ以外はやっぱり横断は不可能みたいですね」

「なるほどねー」

「それで、どうしますか? このまま北の海岸で遊ぶこともできますし、東や西の海岸の、北側で遊ぶこともできます」

「うーん」


 外の様子を思い出す。少し出遅れたとはいえ、開園1時間もしないうちにあの混み具合なのだ。昼頃になればもっと人が増えるだろうし、何より……。


「……皆の水着姿は独占したいな」

「「「!!」」」


 ぼそりと無意識に呟いた言葉に、皆が歓喜の表情を浮かべる。


「よし、東に行ってみようか」

「「「はい!」」」

「……これは良い傾向ですね」


 アイラも小さく呟くが、俺の意識は新天地と、皆の水着姿へと思いを馳せていたため届く事は無かった。

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