ガチャ105回目:検証検証

 結局、元々予定していたよりも長く彼女達と過ごしたため、続けて狩りをするにも微妙な時間になっていた。かといって、帰るにしては早すぎるし、デートを続けるにも正直何をすればいいかわからないというのが本音だった。

 花畑でのデートなんて、寝転がるか、景色を楽しむか、イチャイチャするかしか浮かばないんだけど……。一応全部やったよな? 他に何かあるのか??

 困った俺は、明日の事を考える事にした。


「アイラ、この辺で水着を買える場所ってあるのか?」

「勿論ございます。協会でも貸し出しをしているというのも、あくまで設立当初に試していた頃の名残ですし、殆どの方は協会の隣に建設されたショッピングモールで買い求めるでしょう。第一層用のレジャー、第二層用の海水浴、第三層のハイキング。それらの需要に応じた店が集まっております」

「その店、営業時間的にどんな感じ?」

「ここのダンジョンの営業時間より長く設定されていますから、もう少しここで狩りをしても問題はないかと」

「うーん、そっか……」


 現在の時刻は15時手前。ダンジョンの閉園は20時。

 確かにもう少し『黄金蟲』や『黄金鳳蝶』、あとは2度目の強化体なんかを狩りたい気持ちはある。なんだかんだで、あと2回でガチャ更新だしな。

 けど、それをこなしてしまうと、十中八九、ダンジョン閉園のギリギリになってしまうだろうし、この後別荘やら車の調達なんかも控えてる。……うん、今日はもうこの辺にして、新スキルの検証を軽くしたら、のんびり過ごして帰るとしようか。

 一応俺達、デートしに来たんだもんな。うん、忘れてないぞ俺。


「今日の狩りはやめとこう。ダンジョンを出た後も予定がある訳だしね。だから、新スキルの検証を軽くして、それから皆で買い物をしようか」


 皆が頷いたのを確認したので、最初の検証から始めよう。


「まずは新技いくよー」


 『カイザーヴェイン』を構え、森から顔を出していた綿毛虫に狙いを定める。


「『紫電の矢』」


 スキルを唱えた瞬間、矢は紫色の光へと変質した。光はバチバチッと、電気が弾けるような音を響かせるが、持ち手である俺に対して、ダメージなどは発生しなかった。

 構えている俺も、それを見守る皆も、その光景に驚愕していた。


「俺、今……光を掴んでいるよな?」


 皆がコクコクと頷いた。

 物質化した光を掴むという、頭の処理が追いつかない状況から目を逸らし、改めて綿毛虫に狙いを絞る。


『バシュン!』


 手を放すと、光は紫色の帯を残し、一瞬の内に綿毛虫を貫いていた。紫電の光はそこで止まることはなく、背後にあった木に大穴を開けた。


「わぁ……!」

「すっごい威力!」

「その分、魔力の消費も激しそうですわね!」

「レアモンスター戦で、大いに活躍しそうですね」


 今までの矢もかなりの飛翔速度で対象に飛んでいったが、このスキルは速度も威力もケタ違いだな。これなら、風魔法の障壁と、高速で移動する『黄金鳳蝶』にも当てられそうだ。というか、この威力なら、もう『黄金蟲』相手なら、近付く必要すらないかもしれない。

 弓でのレアモンスター戦か……。かなり楽が出来そうだが、あまり怠けると近接戦闘の勘が鈍りそうだな。けど、たまにならアリかもしれない。


「次はこれだな。『金剛外装Ⅲ』」


 唱えると、俺の周囲をいつもの金色の膜が覆った。

 見た目に変化は無いが、無印や『Ⅱ』とは違うのは既に分かっている。


「皆、順番に攻撃を頼めるか?」

「おっけー」

「はいですわ!」

「お任せを」

「あ……私は、やめておきます」


 3人は快く返事をしてくれたが、マキだけは棄権した。


「ん、わかった。代わりに観察と計測を頼めるかな」

「はいっ」


 そうして攻撃を何度か受け、3回目の『金剛外装Ⅲ』が消滅した辺りで検証は完了した。


「ふむ。……つまり、合計3回まで攻撃を反射して、1回反射するごとに3秒間の完全無敵状態になれるスキルのようだね」

「何よこのスキル、強すぎでしょ」

「そうだねー。さすが、出現させるだけでもかなりの『運』を要求されるだけの事はあるね」

「少なくとも1000は必要になりそうですからね。そして『黄金蟲』だけをいくら狩っても、ご主人様の能力が無ければ『金剛外装Ⅲ』は絶対に手に入らない……」

「旦那様、『魔力』の消費はどうでしたか?」

「……たぶん、あと1、2回使ったら倒れそうな気がする。消費『魔力』200ってとこかな? それを思うと、全員『魔力』の条件は満たしているから、皆の分を用意しておきたいな。俺の大事な彼女に、傷を付けたくないし……」


 俺はそう、無意識に口走ってしまっていた。

 その事に気付き、恐る恐る周りを見ると、皆から熱い視線が飛んできていた。


「……」


 その視線と空気に耐えられなかったので、次の検証に移ることにした。


「んんっ! ア、アヤネ」

「はいですわ!」

「『風魔法Lv4』を得た事で、君のスキルは足し算されて『風魔法Lv6』になったわけだけど、どうかな? 新しい魔法、使えそう?」

「あ、そうでしたわ! 試してみますわ」


 アヤネが言うにはLv3は『知力』450。Lv4は『知力』700必要だという。

 そして今のアヤネの『知力』は、『統率』を抜きにした場合590あり、『統率』を入れた場合826ある。Lv4魔法が使用できるかどうかで、『統率』スキルの有用性が変わってくるわけだが……。


「あ、旦那様! いけそうですわ。わたくし、ウィンドストームが使えそうですの!」

「おっ! じゃあ、どんな感じになるか試しにやってみようか。向こうの森を目掛けてみて」

「はいですわ! ……ウィンドストーム!」


 アヤネが発した風の塊は、無数の刃となって目の前の森を切り裂いてみせた。森はズタズタに切り裂かれ、緑色の力が通った後には無残な森の痕だけが残っていた。煙も見えるし、何匹か綿毛虫を巻き込んだな、あれは。

 威力は同じくらいだが、範囲としては、『黄金鳳蝶』より少し大きい気がする。アヤネの方が多少ステータスが高いというのもあるが、装備による補正もあるだろうからな。


「おおー。すごいな」

「も、ものすごい威力ですわ……」

「これなら、『エンペラーゴブリン』が呼び出した軍勢相手でも、余裕で捌けそうだね」

「そうですね。お嬢様の戦闘能力が、侮れないレベルにまで成長したようで、感慨深いです」

「アヤネ、一気に中級魔法使いへランクアップしたんじゃない?」

「アヤネちゃん、すごいわ」

「えへへ、ありがとうございますわ!」


 さて、と。

 もう1つ気になってることがあるんだよな……。


「なあアヤネ」

「はい、旦那様!」

「レベル5の魔法って、どのくらいの『知力』が要求されるんだ?」

「は、はい。恐らく、900とか1000って話を聞きますわ。アイラなら知っていると思いますの」


 アヤネがアイラを見ると、彼女は思い出すように考えていた。


「……そうですね。私の記憶が確かなら、900だったはずです」

「900か。アヤネのステータス的に足りていないのは、80ほどだよな……」


 よし、それならいけそうだな。


「アイラ」

「はい」

「売りに出す予定だった『統率』が2個あったよな」

「はい、ございます」

「アキ、マキ。頼めるか」

「「……えっ!?」」


 呼ばれると思っていなかったのか、2人が驚いたように声を上げる。


「ショ、ショウタ君? 流石にそれは勿体ないわよ!」

「そうです! 姉さんはともかく、私はダンジョンには……」

「まあそうだけど、レベル5の魔法が気になるじゃない?」

「いやいやいやいや、そうかもしれないけど、別に今じゃなくたって!」

「そうです。実際にアヤネちゃんが成長してからでも遅くはないはずです。いくらなんでも、私達が覚えたところで、使う場面が……」

「でも協会内で、俺達が居なくても互いに『器用』のボーナスを与え合えられるでしょ? 仕事上便利になるんだし、別に無駄にはならないと思うけど」


 別にメリットがないわけじゃない。

 そう思って提案して見たけど、なぜか困ったような顔をされた。……なんでだ?


「旦那様にとって、10億円よりも、検証の方に価値があるのですわね……。ストイックですわ!」


 ああ、そういえば『統率』って単価5億だっけ。簡単に手に入るから忘れていたな。まあ、それくらいの価値はあるスキルだよな。うん。

 でも、あまりに簡単に手に入るから、実感が湧かないんだよなぁ……。


 そんな価値のあるスキルを、ドブに捨てる……って程ではないけど、戦場に出ない予定の専属2人に取得させようとしてるんだから、遠慮されるのは仕方がないか。けど、デメリットは金銭的な部分だけで、メリットもちゃんとある以上、使わせるつもりだけど。


「ショウタ君……。本気、なのよね?」

「当然。2人のおかげでお金には困ってないし、やろうと思えばいくらでも量産できるんだから問題ないよ」

「で、ですが、何個か『圧縮』していく事で、このスキルはショウタさんはもっと強くしてくれる鍵になるんですよ?」

「それはそうだけど、でもアヤネのパワーアップで、『エンペラーゴブリン』と安全に再戦する為のピースは揃いつつある。『Ⅲ』を獲得できる目途が立ちつつあるんだから、無印の『統率』に、さほど未練はないかな」

「……はぁ。ほんっと、ショウタ君は規格外なんだから」

「はは、ごめんね」


 姉妹は顔を見合わせ、溜息をつかれたが渋々とスキルを使ってくれた。

 そして俺達をすぐさまチームメンバーとして認識してもらい、アイラは全ステータスが1.4倍。それ以外の4人は1.6倍に跳ね上がった。


 お、『腕力』がついに4桁。他もほとんど4桁間近だ。

 常にこれの恩恵は受けられないけど、それでも夢が広がるよなー。


「アヤネ、どう?」

「はい、今ならレベル5も撃てますわ!!」


 アヤネは、マップの角に向かって杖を突きつける。


「サイクロン!!」


 巨大な竜巻が森を巻き込むように発生し、モンスターも木々も関係なしに全てを飲み込んでいく。

 竜巻は1分ほど続き、吹き飛ばされたいくつもの木々は、モンスターと同じように粒子へと変わった。あれもダンジョンの自浄作用だろうか。

 圧倒的な暴力で、森が削り取られた影響により、ここからでもレアモンスターが出現する広場がよく見えていた。


「これがレベル5魔法……。まるで災害だな」


 確かにすごい威力だし、大量のモンスターに囲まれたときには便利なのは間違いないだろう。

 けど、こんな規模の攻撃……。もしモンスターが使ってきた場合、防ぐ手立てがあるのだろうか?

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