ガチャ103回目:力の強さと心の強さ

 2人のステータスを見せて貰ったけど、一言口にするなら凄かった、だ。

 たぶん、ステータスの成長率だけでみれば、2人はアイラより潜在能力が上なのだろう。それに、『器用』や『運』の増加具合から見ても『SP』は最高値の8なのも間違いない。彼女達が受付嬢をやらずに冒険者として活躍していたら、きっとこの国の頂点付近に昇り詰めていたとしても、何もおかしくはなかった。

 そんな力を秘めた彼女達がなぜ、冒険者をやらずに受付嬢に身を置いているかは気にはなるけど……。まあ、それは2人が話してくれるのを待つとして、今はこれを見せてくれた意味を考えなきゃな。


「ショウタ君。ど、どうだった?」

「どうって……。うーん、思ってたより強いんだなー。とか?」

「そ、それだけですか?」

「あとは……意外と大きいんだなとか?」


 何がとは言わないけど。


「「……」」


 2人が何か言いたそうにしてるけど、口を噤む。

 まあ……うん。言葉を濁しても仕方がない。この際、俺の考えはハッキリと言っておこう。


「冗談だよ。2人の成長値は、俺を圧倒するほどの力を持っている。それを俺が目の当たりにして、ショックを受けてしまわないかと考えて、気に病んでくれてたんでしょ?」

「うん……」

「はい……」

「でもそれは、今の俺にとっては些細な事だよ」

「「些細な事?」」

「そ。今はこの『レベルガチャ』のスキルがあるから、この先いくらでも強くなれると思うし、たとえ昔にそれを知っていたとしても、俺は俺で、他は他だと割り切ってたと思う」


 多少の嫉妬は覚えたかもしれないけど。

 まあ、もしあの時『レベルガチャ』がドロップしなくて、その先何年かけても『虹色スライム』を拝めず何の成果も得られないままズルズルと過ごしていたとしたら……。そんな中でアキが、俺より遥か格上だと知ってしまったら、間違いなく心が折れていただろうけど。

 でもそれは、仮定の話だ。


 今の俺は『レベルガチャ』を得て、『運』が上がった事で、俺には勿体ないほどに綺麗で魅力的な、最高のパートナー達と出会えたんだ。

 だから、もしもを気にする必要はない。


「だから、2人の成長率やステータスがどれだけ高かったとしても、2人が俺にとって、かけがえのない存在であることは、何も変わらないって事。むしろ、ちょっと前まで俺の方が弱かったのに、それでも好きになってくれた事の方が嬉しいよ」

「馬鹿。相手を好きになるのに、力の強い弱いは関係ないわよ」

「そうです。どんなに大変な目に合っても、全力で楽しんでいるショウタさんだから、好きになったんです!」

「……ありがとう」


 でも、改めて思い返すと、やっぱ色々と恥ずかしいな。

 前回のデートの時、強い所を見せようと必死に『黄金蟲』と戦ったけど、あの時のステータス、間違いなく俺の方が低かったよな……?

 彼女達に比べて俺が弱かったから、見守るにしても、危ないところもあってハラハラしたと思うし、格好悪い所みせちゃってたよなぁ……。


「でも、そんなに強いなら、一緒に戦う事も出来そうだったのに」


 そういうと、2人の顔が曇ってしまった。


「あっ、戦いが嫌だったなら忘れて。受付嬢やってるのも理由があるんだろうし」

「ううん、いいの。こうなった理由には色々とあるんだけど……。まあ簡単に言うと、あたし達は同世代と比べて、強すぎたのよ」


 受け取り方によっては嫌味に聞こえるが、実際このステータスをみたら納得出来る。

 成長値の平均が2の人と比べた場合、彼女達の成長値は平均4だ。前者の2回分のレベルアップが、彼女達にとっては1回分で済んでしまう。そして冒険者になりたての頃なんて、数日あれば、何度も簡単にレベルアップが出来てしまうだろう。

 だから……。

 

「必要な経験値は皆同じだけど、成長率が違い過ぎてレベルアップするたびに格差が生まれるってことだよね?」

「そう。だから普通は、成長値の平均が、同じくらいの人とチームを組むのよ。けど、あたしとマキはそんな都合の良い人ってのがいなくてさ。それで無理言ってもらって、極力近い人と組ませてもらったんだけど、レベルが上がるにつれて、トラブルのもとになったの」

「あー……」


 冒険者や受付嬢を輩出するスクールでも、一般的な学校でも、最初は初期ステータスを参考にして簡易的なチームが出来上がる。そしてレベルアップした者から次のステップに進んで、成長値が近い人達で集まっていく仕組みだった。いくつものチームがそうやって団体行動を覚えて、レベルアップを重ねていく。そうしてスクールを卒業する頃には、最低でもレベル10とか20くらいにはなっていて、そのまま冒険者や受付嬢。肌に合わなければその能力を生かして他の職業に就く。

 でも、俺は成長率以前に初期能力が低すぎて、誰もチームを組んでくれなかったんだよな……。その上、苦労して何匹かのゴブリンを討伐して、レベル2に上昇した時の残念ステータスが知れ渡った時には……。もう誰からも見捨てられていた。

 その後は、高校では一度もダンジョンに入れず色々と道に迷ったけど、結局は卒業と同時に教習所に行って、スライムの所へと向かったんだよな……。懐かしい。


「ある程度の能力があれば、冒険者でも受付嬢でも引く手数多なんだけど、あたし達は能力値が高すぎた。だから、周りから冒険者に強く推奨されてたの。あたしとしても冒険者として戦うのは性に合ってたんだけど、人間関係でゴタゴタしてねー。学生の頃にはこのレベルに達していたけど、3年前に引退してね。一応受付嬢の勉強も並行してたから、あたしはこっちの道に進んだの」

「そっか」


 俺みたいに弱すぎるのも問題だけど、強すぎても問題があるのか。大変だな……。


「……」


 マキも辛そうな顔をしている。

 彼女から直接聞いた訳ではないが、マキは冒険者の死に何度も立ち会ってきているはずだ。それは、受付嬢として見送った人達だけでなく、冒険者として共に戦った仲間も含まれているんだろう。


 こういっては失礼だけど、アキは好戦的だから性には合っていただろう。けど、マキはそうではないと思う。彼女の場合はアキと違って、成長率の高さから周囲の期待が集まって、断れない空気になってしまい、ズルズルと冒険者になってしまったのかもしれない。


 彼女が負ってきた不幸を想うと、胸が痛い。……だけど、過去は過去だ。

 今は俺が傍にいる以上、同じ苦しみを彼女達に合わせることはしない。


「マキの苦悩は俺の努力で何とかするとして、アキの悩みなら問題なさそうだけどね。俺のチームでは、アイラが一番ステータスが高いけど、その内俺が追い抜いてしまうと思うし。2人の成長率を咎める奴は誰もいないよ」

「……うん、ありがとう」

「あと、一応言っておくけど、いくら俺が強くなったとしても、アイラを解雇することもありえないからね? アヤネもアイラも、大事なチームメンバーだから。これからも一緒に成長していきたいと思ってる」

「はい、旦那様!」

「これからも、お供させてください」


 アキは少し考えた後に、申し訳なさそうな顔をした。


「んー、せっかく誘ってくれてるのに、ごめんねショウタ君。ちょっと考えさせて。3年間まともに前線に立ってないから鈍ってるのもあるけど、それ以上にあたし、ショウタ君の専属業務も気に入ってるのよねー」

「そっか。まあ無理強いはしないから、やりたくなったら気楽に言って」

「ん」


 アキが嬉しそうに微笑むので、頭を撫でる。


「ショウタさん、ごめんなさい。私は冒険について行けません」


 マキの決意は固いらしい。


「私は今でも、ショウタさんをダンジョンに見送るのが怖いし、辛いです。さっきも、ショウタさんが怪我をしているところを目撃しただけで、胸が張り裂けそうでした。もし、戦いについていって、目の前で傷つくところを見てしまっても、同じく耐えられないと思います」

「マキ……」

「私は……臆病なんです。だから、ごめんなさい」

「ああ、わかった。マキのやりたいようにやって欲しい。冒険には危険がつきものだけど、マキが待っているのなら。君が、帰りを待っていてくれるのなら。俺は必ず、君の所に帰ると約束する」

「……はい、待ってます」


 マキを抱きしめる。

 彼女の為にも、生き延びるための力をもっと磨かなければ。


 第一目標は怪我をしない事だな!

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