ガチャ098回目:黄金の羽化

「99……100。よし」


 目の前の煙が膨張したのを確認した俺は、一足先に出現地点へと向かった。そして俺を追うような形で煙がやって来て、少し遅れてアヤネとアイラがやって来る。


「アヤネ、カメラの準備は?」

「バッチリですわ!」

「相手は遠距離攻撃をしてこないから、俺が一撃入れたら2人も一発入れといて」

「はいですわ」

「承知しました」


 膨張した煙の中から、ズルリとその巨体が現れた。

 こいつを見るのも久しぶりだな。


「き、金ピカですわー!」


 アヤネが目を輝かせていた。


「それじゃ……よっと」


『ガンッ』


 小石を投げて『金剛外装』を引っぺがした俺は、急接近して一太刀を入れる。


『ズバッ!』


『シュルル!?』

「ははっ、随分柔らかくなったじゃないか!」


 メイン武器が『御霊』から『ミスリルソード』に強化されたことに加え、今の俺の『腕力』は前回の3倍以上だ。

 これなら、スキル無しでも簡単に倒せてしまえそうだ。


「アヤネ、アイラ」

「はい! ファイアーボール!」

『シュルルル!?』

「……ふっ!」


 火の玉をぶつけられた『黄金蟲』は、嫌がる様に身をよじり、その隙を突くようにアイラが刺突する。

 うん、2人ともしっかり一撃入れたみたいだし、トドメを刺すか。


「せいっ!」


『斬ッ!』


 途中、アヤネの攻撃辺りで『黄金蟲』がスキルを使ったように思えたが、守り重視といえどこいつのステータスは知れている。スキルを使った所で危なげなく倒すことが出来た。

 俺も、あの時と比べてかなり強くなったな。


【レベルアップ】

【レベルが4から40に上昇しました】


 うーん……。まーた、微妙に足りないな。

 でも、4から40か。以前『マーダーラビット』をレベル4の時に撃破した時は、上昇は25までだった。そして『マーダーラビット』のレベルは20だった。

 対して、『黄金蟲』はレベル18しかない。今までは、なんとなくそうなんじゃないかと考えてはいたけど、やっぱり得られる経験値は、相手のレベルもそうだけど、モンスターのレア度にも左右されるんだろうな。


「レベルが上がりましたわー!」

「おめでとうアヤネ。これで55か」

「はいですわ。やっぱり旦那様と狩りをすると、簡単にレベルが上がっちゃいますわね」

「まあ、レアモンスターが主体だからね。貰える経験値が凄いから。……おっと」


 勢いよく飛びつこうとするアヤネを掴み、静止させる。

 抱擁を拒絶されたと思ったのか、アヤネは少し悲しげな顔をした。


「旦那様……?」

「アヤネ。抱き着くなら、頭のカメラを外してからにしなさい」

「はっ。そうでしたわ!」


 慌ててカメラを外したアヤネを、改めて抱きしめる。よしよし。

 数分ほどかけて彼女を甘やかしてから、もう1度カメラを装着させた。


「ご主人様、もうなのですか?」

「ああ。前回は確か6分くらいだったから、もう間もなくだな」

「では離れますわー」


 アヤネが小走りで、森の近くまで退避した。

 アイラは俺とアヤネの間に立ち、俺は『ミスリルソード』の柄に手を置く。


 少しの静寂のあとに、それは起こった。


「……来た」


 霧散していた煙が再び一カ所に集まり、膨れ上がる。

 この瞬間は、いつもワクワクするな。


 煙は『黄金蟲』の死骸を飲み込むと、ゆっくりと浮かび上がる。そして中から、金色に輝くアゲハチョウが現れた。


*****

名前:黄金鳳蝶

レベル:45

腕力:200

器用:200

頑丈:200

俊敏:800

魔力:400

知力:800

運:なし


装備:なし

スキル:金剛外装Ⅲ、魔導の叡智、風魔法Lv4、魔力回復Lv1

ドロップ:黄金の種(大)、黄金の蜜、黄金香

魔石:特大

*****


「強化体よりも格上だと?」


 今まで相対してきた第二種は、強化体よりも下のレベルだった。

 今まで出会った強化体は、全てが通常種の2倍のレベル。そして第二種は、大体その中間くらいだと思っていた。だから他もそうなんだろうと思っていたが、どうやらこいつに、それは当てはまらないらしい。


「綺麗ですわ……」

「ええ、本当に……」


 『黄金鳳蝶』はその場でゆっくりと羽ばたき続けている。不思議な事に、羽ばたきの速度は遅いのに、落ちる事なく宙に浮き続けていた。身体が相当に軽いのか、それとも『風魔法』の力を併用しているのかは不明だ。

 鱗粉すら黄金に輝くその様は、幻想的で思わず見惚れてしまうほどだった。


「確かに、これは綺麗だな……」


 こいつは『黄金蟲』と同じく、非アクティブらしい。この近距離で俺達が見上げていても、襲ってくる様子はなく、ただただ羽ばたき続けている。鱗粉を撒き散らしながら。


 ……その光景を見れば見るほど、俺達は夢中になっていった。

 まるで、視界が狭まり、『黄金鳳蝶』の姿しか見えなくなるような……。


「こんな綺麗な存在を倒すなんて……。わたくしには、出来ませんわ」

「そう、ですね……」

「ああ……」


 こんな美しい存在を倒すなんて、俺には……。

 この光景は、守らなくちゃいけない……。

 

「旦那様、帰りましょう」

「ああ、そうだな……」


 ゆっくりと踵を返し、アヤネのところまで歩いて行く。

 アイラはアヤネを連れて行こうとするが、彼女は未だ恍惚とした表情で『黄金揚羽』を見上げていた。


「……?」


 ふと、何か硬い感触が、手の中にある事に気が付いた。

 見れば、俺の手はしっかりと『ミスリルソード』の柄を握り込んでいた。


「……」


 手を放そうとしても、動かすことが出来ない。まるで接着剤のように、指がひっついて離れない。

 ……そういえば、俺はさっきまで、あのモンスターを狩るつもりだった。


 それは、なぜだ……?


「旦那様?」

「ご主人様、行きましょう」


 急に立ち止まった俺を心配するように、彼女達がやって来る。引っ張ろうとするが、俺は微動だにしなかった。


「俺がここに来た目的……」


『ザァァァ……』


 背後から、強めの風が流れて来る。羽ばたきの音も、強くなったような気がした。

 だが、それでも俺は動かない。


「俺の、戦う目的……」


 それは……。


「……そうだ。俺は……!」


『バキッ!』


 ほぼ無意識に、空いていた手が己の顔を殴った。

 口の中に、鉄の味が広がる。


 だがこれで、目が覚めた。

 俺がダンジョンに潜り、レアモンスターを倒すのは!


「ダンジョンの秘密を、解き明かす為だ!!」


 叫ぶとともに己に活を入れる。声に出すことで、俺の意識が戦いへとシフトする。

 ここから立ち去ろうとする不自然な俺の意識を消し飛ばし、再び前を向いた。


「アヤネ、アイラ!」


 俺に呼ばれた2人は、ビクリと身体を震わす。


「ご、ご主人様?」

「ふぇ? ……???」


 アイラは目をぱちくりとさせ、アヤネは突然の出来事に混乱したように取り乱す。


「ご主人様、私は一体……はっ!」


 アイラは即座に状況を把握したのか、慌てて口元を手で塞ぐ。そして袋から、人数分のマスクを取り出した。


「ご主人様、これを! あの鱗粉は、攻撃です!」

「なるほど、そういうからくりか」


 急いでマスクを装着して、振り返る。


 改めて『黄金鳳蝶』を見ると、最初見た時ほどの、見惚れるような衝撃は無かった。確かに綺麗だが、討伐を中止するほどのものではない。スキルばかりに目が行きがちだったが、『エンペラーゴブリン』のように表示されない技能を持っているのかもしれないな。

 そこへ、アイラに介抱されていたアヤネも、気を取り戻した。


「だ、旦那様!」

「アヤネ、眼は覚めたか?」

「はいですわ! わたくしを夢中にさせるなんて、100年早いですわ! わたくしが真に魅了され、夢中になっているのは、あんなモンスターではなく、旦那様なのですから!!」

「……お、おう?」


 その言い回しは気になったが、今は優先すべき対象を間違えないようにしよう。こいつは搦め手を得意とする厄介なモンスターだ。最初から加減は抜きだ。全力で行く。

 『ミスリルソード』と『御霊』を抜き放つ。炎を纏ったその剣は、近寄ってきた鱗粉を灰へと変えた。


「さあ、反撃だ!!」

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