ガチャ096回目:ポーションと魔法
宝箱から出てきたものを、皆で囲むように見つめる。『鑑定』を終えたマキが、代表して知っている情報を教えてくれた。
「ポーションですか。それもレベル2の青色なら、最低でも30万はしますね」
よくみれば、確かに手元のポーションの中身は青い液体だった。そういえば同じポーションでも、液体の色が青と赤の2種類あるんだっけ。確か、青が肉体的な怪我を治療して、赤が病気を治療するんだったか。
「ダンジョン産のポーションって、高価なんだね」
「そりゃね。市販のポーションなんて、青色の『ポーション レベル1』を真似てみせただけの劣化版だもん。オリジナルの方が効能は高いし、相応の値段がするわ」
「市販品では、患部に塗る事で擦り傷程度ならゆっくりと治療していきますが、本物は即時回復です。そしてレベル2なら裂傷。レベル3なら単純骨折にも対応しています」
そりゃすごい。
それらの怪我が即座に治るのならその値段はわからないでもない。けど……。
「でも、ポーションなんかにお金を払わなくても、『回復魔法』があればそれで良いんじゃないの?」
「……もしかしてショウタ君、魔法は覚えれば無条件で使えるとか思ってる?」
「……え? 違うの?」
アキが、驚いたような顔をしていた。
「学校で習わなかった? 魔法は確かに便利だけど、使い手はレベルに応じた『知力』がないと使えないのよ」
「……まじで?」
「マジマジ」
知らなかった。
魔法なんて、覚えたら誰にでも使えるし、手に入れたらすぐにでもレベルMAXまで上げてしまえば、あとあと便利だろう思ってたけど……。そんな万能じゃないのか。
……ああ、でもそうか。
お金があるはずのアヤネが、『炎魔法Lv3』で止まってるのは、そういうことなのか。
「姉さん。魔法を扱う為の知識は、基本的に『知力』の成長率が高い人だったり、魔法を取得してる人に教えるものであって、一般的な前衛向けの冒険者には、あまり教えていないんじゃないかな」
「あ……。それもそっか。あたし達は受付業務の延長で覚えたけど、普通はそうじゃないよね」
2人は言葉を濁してくれたけど、学校に通ってた頃の俺のステータス、全部2~4だもんな。
あの時の俺には、誰も何の期待もしていなかった訳で。そりゃ、教えるだけ無駄だと思われてもおかしくはないか。
「と、とりあえず、ここから離れませんこと? モンスターが再出現しては、ゆっくりお話も出来ませんわ」
空気が若干重くなったのを察してか、アヤネが気を利かせてくれる。
俺はあんまり気にしてないけど、気遣いは嬉しかったので頭を撫でておく。
「それじゃ、前回と同じところに行こうか」
皆を連れて、マップ左下付近の広場へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
森を出たことで周囲の安全は確保できたわけだし、気になってることをいくつか聞いておくか。
「それじゃ、アヤネ。歩きながらでいいから、魔法の使用条件を教えてくれる?」
「はいですわ! まず攻撃魔法ですが、Lv1の魔法に使用条件はありませんの。条件が出てくるのはLv2からですわ。Lv2は『知力』が100。Lv3は『知力』が300。Lv4は『知力』が500と言われていますわ」
「へー」
Lv2の魔法を使う場合、成長が早い一般的な人ならレベル10前後あれば達成できるって事か。割とすぐなんだな。
……まあ、『レベルガチャ』無しの時代の俺が使おうとした場合、レベルが100必要になるんだけど。
「次に『回復魔法』は、レベル1で『知力』が50も必要になりますの。そしてレベル2で『知力』200。レベル3で『知力』450。レベル4で『知力』700と言われてますわ」
「要求の上がり幅が、だいぶエグイね」
「そうなんですの! 大変なのですわ!」
アヤネは両手を、大きく広げて、どれだけ大変かを身振りで説明してくれる。
俺ならその内到達できるだろうけど、そうなると本職のアヤネは大変だな。やっぱり、『黄金の種』は頻繁に回収しなきゃな。
「ちなみにアヤネの『知力』だけど、『統率』効果で今は700を超えてるよね。その場合でも条件は満たせるの?」
「……どうなのでしょう? 要求ステータスより遥かに上のスキルを取得する事は珍しいですし、更には『統率』スキル自体出回っていませんから……。ごめんなさい、よくわかりませんわ」
「そっか。もし使えるようになるのなら便利だから、先んじて覚えておくのも良さそうだよね」
今は『統率』効果で、俺とアヤネはデフォルトのステータスからみて1.4倍になっている。
ブースト分もステータスとしてきちんと参照されてるから、たぶんいけると思うんだよな。アヤネの『回復魔法』はレベル2だから、4までは上げさせたいところだ。
「そういえば、『回復魔法Lv4』って、どんな治療が出来るの?」
「えーっと……」
言い淀むアヤネの代わりに、マキが答えてくれた。
「ショウタさん。まず前提知識からお伝えしますね。『回復魔法』で施せる治療は、ダンジョン産のポーションと、同じレベルの効果が期待できます」
「となると、『回復魔法Lv3』は骨折の治療が出来るのか。……あれ? でもアヤネ、この前骨折した冒険者を治療していなかったか?」
「それでしたら、『魔導の叡智』の効果ですわ。あれは、魔法の効果を1段階高めてくれますの」
「なるほど」
『回復魔法』の効果は1段階高まり、攻撃魔法は次のレベルが使えない代わりに、威力や範囲が大きくなると。なるほど、かなり強いスキルだ。
「それと魔法には、青や赤といった概念がありません。ですのでアヤネちゃんの場合『回復魔法Lv2』ですから、青色のレベル2と赤色のレベル2。それぞれに対応した魔法が使えます。彼女なら骨折までの治療と同時に、毒や痺れなどの状態異常にも対応できるんですよ」
「ふふーんですわ!」
毒か……。浅い層の攻略しかしてないから今まで縁が無かったけど、その内、この身に受ける事になりそうだな。
「そして『ポーション レベル4』ですが、火傷や凍傷に効果があるそうです」
「火傷か……」
そういえば、ゴブリンが『炎魔法』を使ってきてたもんな。あの時は避ける事ができたけど、当たったらタダじゃすまないよな。
うん、彼女達の肌に傷は残したくないし、早めに確保しておきたいな。
「もっと強くなって、早めに『上級ダンジョン』の第一層で狩りをするべきだな」
「お供します」
「頑張りますわ!」
話している内に、目的の広場へと到着した。
アキとマキが、レジャー用のシートを広げ始めた。
「さて。それじゃ早速狩りを始めようと思う。ただ、アヤネには悪いけど、しばらくここでお留守番ね」
「ガーンですわ!」
アヤネは大げさなリアクションでショックを受けていた。いや、割とガチ目に驚いていた。
うんまあ、気合を入れてたところ悪いんだけど、綿毛虫は基本的に森の中だ。さっくり100匹倒すだけなので、彼女はついてきたところですることが無いのだ。
「代わりに、アキとマキの手伝いをしてあげてくれ。新居と車、どっちも大事だからさ」
「わかりましたわ!」
「アキ、マキ。行ってくるね」
「はーい」
「いってらっしゃい、ショウタさん」
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