ガチャ095回目:隠された物

 その後、水着をレンタルするかという話になったが、結局別荘を購入する流れになったわけだし、今日は第一層を満喫することにした。そして、明日に第二層に向かう事になり、水着は今日の帰りに買いに行くことになった。


 協会を後にし、再び様々な視線を集めながら『ハートダンジョン』へと入場する。今日もこのダンジョンは大盛況のようで、右を見ても左を見てもカップルだらけだった。

 逆に、女の子を複数侍らせているのはどうやら俺だけのようだった。結婚可能な人数が2人に増えるのは、『初心者ダンジョン』卒業とされるCランクから。そう考えるとこの制度、割と緩い気がするんだけど……。

 実際に、複数の子と関係を掛け持ちする人って少ないのかな?


 そして前回来た時はあまり意識していなかったが、やはりここにも黒い柱が建っていた。これが電波塔のような機能を果たしているんだな。

 その近くには前回利用させてもらった協会の通信機器と、協会員の姿があった。多分あそこは、四隅のレアモンスター待機場所で見張りをしている人達と連絡をしているんだろう。

 こういう通信機の設置は、好戦的なモンスターのいない『ハートダンジョン』だからこそ出来るんだろうな。


 一応『上級ダンジョン』でも入り口には電波塔が建ってたけど、警備のための協会員と思える人達が警護していた。けど、今目の前にあるようなサイズの通信機は、流石に常時設置するのはコストばかり嵩んで、得られるものがほとんどないんだろうな。


「綺麗な所ですわね!」

「お嬢様、ここで『炎魔法』は厳禁ですよ」

「わかってますわ!」


 初めて訪れたのか、アヤネは楽し気だ。確かに、観光地であるこの場所で、草花や森を燃やしかねないアヤネの『炎魔法』は厳禁だろう。けど、ダンジョンには『構造物修復作用』というのが働いてるみたいだし、レアモンスターの周辺だけなら好きにぶっ放しても大丈夫だと思うけど。

 雑魚に関しては、襲われる心配は無いから彼女達が相対する事はまず無い訳だし、アヤネにはアキとマキと一緒にお留守番しててもらおうかな。


 そう思ってると、両腕を引っ張られた。


「ショウタ君、今日は何処から行くの?」

「ん? そうだなー」

「ふふ。今日もショウタさんの格好良いところ、沢山見せてくださいね」

「はは、なるべく見せられるように頑張るよ……ん?」


 四隅の状況をマップで確認しようとしたとき、以前訪れた時と、違う点がある事に気が付いた。

 いや、が増えていた。赤と白以外の、別の光点が。


 まさかとは思ったが、彼女達からその話が出た事は無い。

 しかし、マップには確かに、合計7個の新たな点が見えている。全て森の中だが……。


 ひとまず、俺達が居るところはまだ入り口近くだ。ここで確認しては周りに聞かれかねないし、一番近くにある光点を目指そう。


「皆、ちょっとついてきて」

「は、はい」

「わかったわ」

「如何しまして?」


 俺の面持ちに姉妹は緊張しながらついてきた。アヤネはいつも通りだったが。

 そして周囲に人気が無くなったところで、俺は口を開いた。


「ちょっと気になるものがあったんだ。何も聞かずに、このまま森の中へとついてきてくれ」


 皆が頷いたのを確認し、剣を抜き放つ。


「アイラ、近くにいるモンスターは倒すから、ドロップの回収を頼む」

「お任せを」


 森という見通しの悪い場所の為、弓を使う事は出来なかった。初陣はもう少し先になりそうだなと思いつつ歩を進めて行くと、1本の巨木へと辿り着いた。


「大きいですわー」

「ここに何かあるの?」

「ここの、はず」


 マップを確認するも、例の光点は、この木の中心部で光っていた。

 だが、周囲をぐるりとまわっても、それらしき姿は無い。足元の根っこの間や洞の中などもないか確認するも、そういった空間らしきものもなかった。

 となれば……。


「上、か」


 見上げても、木の天辺は緑に覆われて見えない。掴めそうな凹凸は本体には見当たらないが、しっかりとした太い枝は何本も生えている。足場には困らなさそうだ。


「ちょっと登ってみる。アイラ、ついてきてくれるか」

「喜んでお供します」


 彼女達には鎧を外すのを手伝ってもらい、身軽になった俺は大きく飛び上がり枝にしがみ付いた。木登りなんてしたことは無かったが、人間離れしたステータスに加え、『身体超強化』と『体術』があるのだ。不安定な場所でバランスを取る事も、宙ぶらりんの状態からよじ登る事も、苦も無く行える。

 初めての経験という事もあって、多少及び腰ではあったが、無事大木の天辺へと辿り着くことに成功した。ちなみにアイラは、後から出発したにもかかわらず先に到着してた。流石アイラだ。


「これが、ご主人様が探していたものの正体、ですか」

「ああ。……やっぱり、あったか」


 目の前には、『鉄の宝箱』が鎮座していた。

 大木の天辺は、まるで人が登ってくることを想定したかのように平らになっており、また外部から見えないよう緑で覆われていた。


「これのレア度としてはどのくらい?」

「ランク2ですね。一番下は『木の宝箱』です。ダンジョンの難易度に応じてレア度が変わる事を考えれば、ここで宝箱が出たとしても木製になるはずですが……。置いてある場所が場所ですから、レアリティの高い物になった可能性があります」

「なるほど。中身は下で見るとして……。ひとまず、持っておりようか」

「ご主人様」

「ん?」


 いつになく真剣なまなざしで、アイラが問うてきた。


「1人で、降りられますか?」

「え……」


 足元を覗き込む。

 緑が溢れていて地面が見えないが、登ってきた長さから言って軽く見積もっても10メートル以上はあるだろう。

 登るときは上ばかり見ていたので気付かなかったが、俺、これからここを降りて行くのか。……ちょっと不安になって来たぞ。


 行きはよいよい、帰りは怖い。


「ちょっと確認だけど、『頑丈』が500を越えてる場合、10メートルの高さから落ちても平気かな?」

「死ぬ事はまずありません。ですが、足元が見えない状態で飛び降りるのは、変な落ち方をしてしまい危険です。それに、万が一奥方様達が下にいらっしゃったら……」

「うん、やめとく」


 それは最悪だ。

 マップで位置の確認ができるとはいえ、彼女達が動かない保証はない。


「ふふ。抱えて降りましょうか?」

「それは……ちょっと恥ずかしい」


 逆ならまだしも、アイラに運ばれる姿は想像しただけで死にたくなるな。

 しかし、高所恐怖症というわけでもないはずだが、足場が不安定なまま一気に飛び降りて行くのは不安が残る。勢いあまると踏み外して転げ落ちてしまいそうだし、この木は掴めるものがほとんどない。

 ほんと、登るときは何にも考えていなかったんだな、俺。


「……ゆっくり降りてみる」

「畏まりました。ではせめて、安全に降りるルートくらいはお伝えいたしますね」

「よろしく」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 登るときの数倍時間を掛けつつ、俺はゆっくりとだが着実に地面へと降りてきた。地上で待たせていた彼女達の顔が見える距離に辿り着くと、緊張が解れる。

 ちなみに先導するアイラは、片手に宝箱を抱えた状態でヒョイヒョイと降りて行っていた。機敏だな……。俺も、あんな風に動けるだろうか。


 ……とりあえず、次の機会があってもアイラに任せようかな。


「おかえりー」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいですわ!」


 彼女達からの熱烈な抱擁を受けると、それだけで頑張って良かったと思えた。我ながら単純だな。


「それで、これがショウタ君の見つけた物なのね」

「そう。このダンジョンに、宝箱の出現情報はあるか?」

「……ない、はず」

「いえ、姉さん。第一層から第三層まで、発見報告はありません」

「そっか」


 やっぱり発見報告は無かったか。まあでも、普段人が入らない森の木の上だもんなぁ。

 他のポイントがどうかは分からないけど、そもそもあると分かっていなきゃ、普通は登らないからな。見つけようがない。


「ご主人様、開封をお願いします」

「おっけ」


 『鉄の宝箱』をパカリと開ける。

 中に入っていたのは、薬入りの瓶だった。


「これは……『ポーション レベル2』か」

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