ガチャ094回目:他の種の今は
俺達は、前回の事もあってここに所属している上位の受付嬢さん達とは面識がある。すぐに話を通してもらい、一番奥の会議室へと通してもらった。
「アキ、マキ」
「うん?」
「なんでしょう」
「別荘と車だけど、2人はどう思う?」
「ん-、新居を買ったばかりだから、別荘を新たに買うってのは、結構ぶっ飛んだ話よね」
「そうだね」
「普通の上位冒険者であれば、拠点が複数あるというのは普通の事ではあるんです。よく行くダンジョンの近くに拠点を構えていた方が、何かと楽ですから」
「ただショウタ君の場合、どこか一つに限らず色んな所を掛け持ちしたいって事よね。スキルの兼ね合い的にも」
「うん、なるべく色んなスキルを集めて、臨機応変に対応できるようにしておきたい。だから今後も、『初心者ダンジョン』だけじゃなく、色々と手を出していきたいな。今までもちょっと考えてはいたけど、前回の『上級ダンジョン』を経験して、より強くそう思うようになった」
「なら、もうどうしたいかは決まってるじゃない」
「そうですね。では、私の方でこの近辺で立地の良いペントハウスを探しておきます。Aランク冒険者の肩書がありますから、即日で押さえられますよ」
「じゃ、あたしは足の方ねー。アイラさん、免許持ってるんだったよね」
「はい。第一種であれば」
「おっけー。じゃ、良い感じの探しておくわ」
そう言って2人は、端末に必要になりそうな情報を、片っ端からインストールをし始めた。
恐らくは、ダンジョン内である程度の当たりを付けて、外に出たときに契約する為なんだろう。
その様子を黙って見守っていたアヤネは、気合を入れた。
「サポートの分野では力及ばずですが、ダンジョンで役に立ってみせますわ!」
「ああ、よろしくな」
「お待たせー……って、随分と仲良いわね」
ガチャリとノックもなしに入って来たのは、ハートダンジョン支部長ことヨウコさん。俺を見るなりため息を吐いたけど、元気そうで何よりだ。
まあ、俺の状況はやっぱり変だよな。両手に美人姉妹、背後にはメイドが立ち、最後に俺の膝の上にはちょこんとアヤネが陣取っている。このポジショニングが、彼女達が『婚約者会議』とやらで決めたスタイルなのだそうだ。
まあ、日替わりで隣に座る人間がコロコロと変わるよりも、定位置にいてくれた方が俺としてもありがたいけど……。外食の時とか、アヤネはどうするんだろ。流石にその位置にずっといられると、食べにくいぞ??
「ヨウコ先輩、おひさー! 元気してた?」
「久しぶりと言っても、数日前に会ったばかりだけど……。ま、大きな騒ぎはあったけど、君たちのおかげですぐに状況は落ち着いたし、元気にしてるわよ。そっちも色々あって楽しそうね」
「はい、お陰様で」
「それで、今日はデート? それともレアモンスター?」
「一応、両方です」
「デートと狩りを両立するカップルは、いないことはないけど……。そういえば前回もそうだったわね。それじゃ、見張りの子達には連絡しておくから好きにやりなさい。一応あの四隅周辺は元々のデートコースからは大きく離れてるから、今のところ事故は起きていないわ」
それは良かった。
「あと、ミキさんから聞いてるけど、レアモンスターの次が観測されたみたいじゃない。もし可能なら、『黄金蟲』の次も、情報をなるべく持って帰ってくれるとありがたいわ」
「それなんですけど、アヤネに任せようかと」
「はい、頑張りますわ!」
昨日、ダンジョン休みという事もあって、久々に掲示板を見ていたら、レアモンスター戦の動画情報が欲しいという投稿を見かけた。あれば便利なのは確かだし、見た目だけじゃなく、動きも公表できるのならもしも不慮の事故で出会っても対処する手段を事前に考えられるのは大きい。
そう思って、すぐに彼女達に相談をした。
すると、今までは狙って出現させることが出来ず、そういった準備が整っていないとのこともあり、それを率先してくれるのであれば協会としても嬉しいとの事だった。
チームメンバーの構成上、俺とアイラは動き回る事が多いが、アヤネは固定砲台だ。その為、カメラ役はアヤネが担う事が決定した。アクションカメラは昨日の内に注文し、これもまたAランク冒険者特権とやらで、今朝の内に届いていた。
動画が流れる事で、戦闘者の情報が世間に流れるデメリットはあるだろうけど、そこはまあ、編集の力でなんとでもなるらしい。ただ、いつかその内バレる事だとは思うし、覚悟は出来てる。
要らぬ諍いに巻き込まれるかもしれないけど、それまでに力は蓄えておこう。
「『黄金蟲』に関しては、一般には非公開ですけど、一部の高ランクには開示されるんですよね? 前回撮った録画だけだと数が少ないですし、テスト用に何戦かやってみます」
「それで、あたしとマキで良い感じに編集して、先輩に提出するわ」
「へぇー、面白い試みね……。わかったわ、楽しみにしてる」
「あ、それとヨウコさん、つかぬことを伺いますが、以前持ち帰った『黄金の種』はどうなりました?」
「あー、あれ? うちの冒険者達に譲ってくれたものよね。1つしか出なかったから、あれは希望者が持ち帰って植えてみたらしいんだけど、成果は芳しくないかな。2日経っても変化が無くて、3日目に突然腐敗したらしいの。レアモンスターからのドロップだし、扱いは難しいみたいね」
やっぱりか。
俺は『黄金の種』を育て、成長アイテムを獲得するには、何らかの条件があるんじゃないかと感じていた。
理由としては、2つ。まず1つは『黄金の種』で得た結果が、均一では無かったからだ。
そして、こんな大当たりアイテムが出たとなれば、騒がしくなるはずの『ハートダンジョン』周辺は静かなものだったからだ。なんのアクションもないのは、失敗しているのではないかと考えていた。
「そうなんですか」
「その反応からして、まだ植えてないのかしら? いい結果が出たら教えてね」
「わかりました」
彼女達もそうだけど、俺も大げさに反応しなかったからか、ヨウコさんは良い感じに勘違いしてくれたようだった。そして、一般の冒険者が失敗したことを受けて、俺は仮説の通りであった可能性に満足感を得ていた。
各『黄金の種』は『鑑定』で見る限りどれも同一の存在であり、植える間隔や、あげる水滴の量も全て同じにした。にもかかわらず、収穫の結果に違いが出てくるとすれば、育成者の『運』が絡んでいるのは間違いないだろう。であれば、実が成るまで育てるのにも、それなりの『運』が求められるはずだ。
レアモンスターの出現確率ですら相当な『運』が求められる『黄金蟲』なのだ。アレを育てるには、相応の条件を求められてもおかしくはない。
『運』さえあれば割と簡単にブーストアイテムを量産できる。これは、世に出すと混乱を招きかねない情報だし、しばらく黙っていようと思う。今度の情報こそ、このダンジョンに人が殺到しかねないからな。
これは、彼女達全員が了承済みだ。
まあ、あれらは彼女達を強化するために使うから、俺に直接的なメリットは無い。
けれど、塵が積もればなんとやら。アヤネとアイラが強くなることで、今後の俺の攻略の助けにはなるのは間違いない。狩れるだけ狩ろう。
……あっと、そういえば今日はデートも兼ねてるんだった。
忘れないようにしないと。
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