ガチャ088回目:初めてのお宝

 目の前には金と銀の宝箱が1つずつ。早く開けろと言わんばかりに、自己主張するように輝きを放っている。箱の大きさは幅、奥行き、高さともに50cm程度の小箱だ。金銀財宝ザックザクな宝箱とはイメージが違ったが、その輝きには目を奪われる。

 肉体的にも精神的にも疲れていたが、その光景を見ていると疲労が吹き飛んでしまうんだから、困ったものだ。


 そして、ふと気になって周囲を見渡すと、アイラも俺の近くで座り込んでいた。流石の彼女も、今回の騒ぎには疲労を覚えたらしい。


「アイラ、お疲れ様。援護助かったよ」

「お役に立てて光栄です。それにしても、ご主人様の側にいると、未知の体験が多くて飽きませんね」

「そりゃ良かった」

「ですが、お嬢様にはまだ早いかもしれませんね」

「そうだね……」


 アヤネは瞬間火力は高いけど、打たれ弱いところがあるからなぁ。でもアイラが守りに入ると殲滅力が落ちるし……。どうしたものかな。


 まあそれはおいおい考えるとして、マップで周囲の状況を観察すると、2つの発見があった。まず1つが、集落周辺から完全にゴブリンの気配が消えていた事だ。

 王に続いて皇帝が死んだ事で、しばらく湧かない状態になっているんだろうか?

 気にはなるが、居残りして見守るほどの元気はないな。


 そしてもう1つが、マップに緑色の光点が2つ発生していた。位置的にも数的にも、この光は宝箱を指しているんだろう。

 今回は、ドロップの宝箱に反応しているようだが、もしも自然と出現するタイプの宝箱にも影響が出るのなら、この効果は計り知れないな。

 協会に載っているスキルリストにも、『自動マッピング』は存在しなかった。チームを組む時はマップを確認するマッパーと呼ばれるポジションが必要とされるらしいが、俺はスキルが勝手にやってくれる上、モンスターや周辺の人間の動きすら手に取るようにわかるのだ。非常に便利なスキルと認識していた。

 けど、宝箱の位置すらも表示してくれるのなら、このスキルの有用性は更に跳ねあがる。それこそ、URスキル並みに活躍してくれそうだ。この宝箱表示は、『自動マッピングⅡ』の効果なんだろうか?


 さて、ガチャも宝箱も、すぐにでも確認したいところだが……。


「アイラ、宝箱って持って帰れるのか?」

「はい、可能ですよ。ただ、中身を取り出すと箱は消失してしまいます。それはダンジョンの外でも中でも同様です」

「そうなのか。綺麗な見た目してるから、飾ったら映えそうなのに」

「取り出しさえしなければ消えませんから、中身を見て大した事なければ、そのままインテリアにしてしまう人もいらっしゃいますよ。ただ、出現させたのはご主人様ですし、それも金の箱ともなれば、それ相応の中身になると思います」

「そっか。じゃ、今日は疲れたから撤退しよう。それで彼女達と一緒に中身を見る事にするよ」

「承知しました」


 アイラは立ち上がると、疲れを感じさせない動きでアイテムの回収を始めた。どうやら、アイラが倒したモンスターからも、いくつかドロップはあったらしい。まあ、100匹近く倒してたみたいだし、アイラの『運』でもいくつかは出るか。

 けどまぁ、そっちは魔石や装備品だけらしいけど。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺達は帰還してすぐ、専属用のカウンターに話を通してもらい、彼女たちの待つ会議室へと向かった。

 中では、恋人達とリュウさんが談笑していた。


「ただいま」

「あ、おかえりショウタくん」

「おかえりなさい、ショウタさん。……あの、もしかしてお疲れですか? きゃっ!」


 心配して駆け寄ってきたマキを抱きしめて深呼吸する。あぁ、今日は久々に抱き枕してもらおうかな。もうこのまま寝ちゃいたい気分だ。


「ショ、ショウタさん?」

「ええい、イチャイチャしおって!」

「む、マジで疲れてるっぽい? ショウタ君こっちおいで」


 アキに手招きされ、装備を全部脱がしてもらってから、ソファーに腰掛ける。目の前には砂糖たっぷりの紅茶と洋菓子が置かれ、アキが肩を揉んでくれるし、マキは手をずっと握りっぱなしだ。うーん、至れり尽くせり。


「ご主人様はお疲れのようですし、私が代わりに報告しましょうか?」

「頼む」

「では、僭越ながら。この度レアモンスターの『キングゴブリン』と戦闘しました」

「おお、やはりか!」

「そこまでは想定内でしたが、その後第二のレアモンスター『エンペラーゴブリン』が出現。激闘の末なんとか撃破しました」


 アイラは確認出来ていたステータスを、いつの間にかメモしていたらしい。机に置いて見せてくれた。


「レベル55!? そんな化け物が現れたの?」

「ショウタさんが戻って来てくれて、何よりです」

「どこも怪我はしてないのよね!?」

「うん、ただひたすらに疲れただけ……」

「「良かった……」」


 喜ぶ彼女達とは反対に、リュウさんはまだ渋い表情だった。


「確かに第一層で考えれば、とんでもない強さのモンスターじゃ。だが、アイラをもってして苦戦したとはどういう事じゃ? お主なら、この程度の相手、造作もなかろう」

「奴には、『鑑定』で見破れぬ特殊能力がありました。第一層に出現するゴブリンの軍団召喚です。1度目は50匹、2度目は40匹と、呼ぶたびに数は減っていきますが、その中には『ジェネラルゴブリン』が何体も混じっていたのです。そのせいで、一時はステータスが軒並み1000を超えました」


 『統率』の効果は5人までチームメンバーを強化する。これは5人までしか強化が出来ないという制約がある。俺はそう考えていた。……だけど、さっきの『エンペラーゴブリン』を見て、その考えは誤りだったと気付いた。


 それは、この制約は強化を掛ける側のものであり、強化を受ける側には人数制限は無いという事だ。

 その為、10体以上の『ジェネラルゴブリン』から、『統率』の効果を受けた奴は2倍以上のステータスとなり、ステータスが4桁の域へと突入したのだ。


 あれは本当に化け物だった。放っておけば、通常ポップの『ジェネラルゴブリン』も合わさって、手が付けられない事になっていただろう。


「それは……。なんとも地獄のような光景じゃな。よくぞ、たった2人で捌き切った」


 リュウさんが労いの言葉をかけてくれる。その言葉に嬉しく思っていると、今度は明るい調子で手を叩いた。


「それで、ドロップはどうだったのじゃ?」


 ワクワクを抑えられない、童心に帰ったかのような表情の変化に、俺は一瞬呆気にとられた。


「まずは『キングゴブリン』からは全てドロップしました。装備からは『キングゴブリンの魔鉄剣』『キングゴブリンの魔鉄鎧』。スキルからは『剛力』『怪力』『鉄壁』『城壁』。激レアの『破壊の叡智』と『王の威圧』まで。その他、銀の宝箱に、王冠、『大魔石』」

「おほぉー!!」


 アイラが1つ1つ取り出して説明していくと、リュウさんは楽し気だ。

 でもそうか、辛いことがあっても、こうやってドロップアイテムで盛り上がらないと支部長なんてやってられないよな。彼は気が落ちたりしないよう盛り上げてくれているのだ。


「すっごいのうー!!」


 ……たぶん、きっと。


「次に『エンペラーゴブリン』からも、『鑑定』で見ていた全てのドロップが確認されました。装備からは『皇帝の魔剣』『皇帝の魔鎧』。スキルからは『剛力Ⅱ』『怪力Ⅱ』『鉄壁Ⅱ』『城壁Ⅱ』『剣術Lv1』『王の威圧Ⅲ』『統率Ⅲ』。その他、金の宝箱と『特大魔石』」

「す、素晴らしいのう!!!」


 ……。


「『キングゴブリン』の装備品は数が少ないですが情報があります。『魔鉄』の名は入っていますが、その強度は通常の『魔鉄』装備とミスリル系統の中間に位置するようですね」


 そこでマキが補足を入れてくれた。彼女の言う通り、それらの装備は既に『真鑑定』してある。レベルは18ほどだったし、中級卒業くらいだろうか。


「対して、こっちの『エンペラーゴブリン』の装備となると、未知の領域だわ。第一層ということもあるからアーティファクト級ってほどではないだろうけど、ミスリル級であることは間違いないわね」


 アキが言うように、これらの装備も『真鑑定』で見ていた。結果は、レベル25。ミスリルソードの1個下だったが、鎧に関してはこっちの方が上みたいだ。

 性能は良いけど……。見た目が武骨なんだよな。ここで乗り換えでもしたら、あの時の二の舞だ。うん、このままミスリルで行こう。


 その事を2人にこっそりと告げると、恋人達は俺の言葉に同意してくれた。


「おじ様。ショウタさんはミスリル装備で十分だそうです。なので、これらの装備は売ってしまって構わないようです」

「おじさん、どうするー?」

「ううーむ。少年は、可愛い2人が専属につくほどの逸材じゃしのう……。うちで適正価格で買い取るとしよう。そして直接見て、少年の可能性がはっきりと分かった。今後も『お願い』を聞いてくれるのなら、少年が探索で得たアイテムの権利を、当協会は関与しないと契約をしてもよいぞ」

「ほんと!?」

「おじ様、ありがとうございます!」

「じゃが、『初心者ダンジョン』では手に入らんアイテムが多かろうから、オークションに出品する時だけは、ワシの名義を使いなさい」

「リュウさん、ありがとうございます」


 これは、『ハートダンジョン』と同じく大盤振る舞いだな。

 それだけ、期待されているという事か。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る