ガチャ087回目:王の次は
『キングゴブリン』の死体を飲み込み、膨張を続けていた煙は、再び収縮し、人型のサイズへと収まった。
そして中から、身長175cm程度の男が現れた。……いや、肌の色は緑だし、眼は赤く光っている。だが、スラリとした肉体は、完全に人と同じと見間違うほどの骨格をしていた。
『ギギャ?』
ああ、ゴブリンだった。
*****
名前:エンペラーゴブリン
レベル:55
腕力:580
器用:450
頑丈:440
俊敏:380
魔力:3000
知力:400
運:なし
装備:皇帝の魔剣、皇帝の魔鎧
スキル:剛力Ⅱ、怪力Ⅱ、鉄壁Ⅱ、城壁Ⅱ、剣術Lv1、王の威圧Ⅲ、統率Ⅲ
ドロップ:ランダムボックス、ランダムな装備
魔石:特大
*****
「デカいデカいと言い続けたら、今度は等身大でくるか」
しかもなんなんだ、このスキルのラインナップは。
『剣術』を覚えたモンスターだって? ステータスも俺とほぼ同等値。これは、苦戦しそうだ。
でもまあ、相手が1人なら、なんとか……。
『ゲギャ! ゲギャギャギャギャ!!』
「!? ご主人様、周りを」
アイラの言葉を受け、周りに目を向けると、そこかしこから雑魚モンスターが湧いて出て来ていた。その数、10や20ではない。30、40。どんどん増えて行く。マップを見ればゴブリンが俺達を囲むように出現していた。
しかもその中には、当然『ジェネラルゴブリン』もいるわけで……。
*****
名前:エンペラーゴブリン
レベル:55
腕力:1276 (+696)
器用:990 (+540)
頑丈:968 (+528)
俊敏:836 (+456)
魔力:6600 (+3600)
知力:880 (+480)
運:なし
装備:皇帝の魔剣、皇帝の魔鎧
スキル:剛力Ⅱ、怪力Ⅱ、鉄壁Ⅱ、城壁Ⅱ、剣術Lv1、王の威圧Ⅲ、統率Ⅲ
ドロップ:ランダムボックス、ランダムな装備
魔石:特大
*****
おいおいおい、なんだこいつは!
『統率』の重ね掛けで、どんどんステータスが増していくぞ!?
「アイラ、ジェネラルを最優先!!」
「承知しました!」
「『ストーンウォール』!」
俺と『エンペラーゴブリン』を囲うように、『元素魔法Lv2』で覚えた土の壁を何枚も出現させる。ここは集落のど真ん中。となれば、当然集落には住居があり、全体を覆う壁が存在している訳で。それを利用しつつ土の壁を乱立させることで、横からの茶々は、しばらく防げるはず。あとは全力でこいつを倒すだけだ!
「『剛力Ⅱ』『怪力Ⅲ』『金剛力Ⅱ』『俊足Ⅲ』『迅速Ⅱ』『鉄壁』『金剛壁Ⅱ』『紅蓮剣』」
『ゲギャ?』
「ふぅー。バフスキル全起動だ。行くぞ!!」
『ガギィン!』
『エンペラーゴブリン』が持つ剣と、燃え盛る2本の剣が激突した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぜいっ! おらっ!」
『ゲギャ! ゲギャッ!!』
あれから、何合打ち合ったか。
一時、奴の平均ステータスが2倍以上の4桁に達した時は、圧倒的膂力の前に死ぬかと思ったが、アイラが頑張ってくれてるお陰で奴のステータスはどんどん下がっていった。
『エンペラーゴブリン』にかかる『統率』の数が減って行く事で、こちらにも余裕が出来、反撃の機会は増えていった。序盤は奴からの攻撃に必死で耐え、危険な攻撃は『金剛外装Ⅱ』で凌ぎ、無敵時間中に反撃してを繰り返していたのだが、あまり効果が無かった。
なぜなら、困ったことに、どこからともなく無数の『回復魔法』が飛んで来て、削り切る前に全快されてしまうからだ。
『ゲギャギャギャギャ!!』
しかも倒しても倒しても、奴が叫ぶ度にモンスターは湧いて出るのだ。その度奴は強化され、支援が飛んでくる。終わりの見えない戦いに辟易していると、壁の外で雑魚を狩り続けているアイラから朗報がもたらされる。
「ご主人様! 呼び出しで出てくる敵の数が減っています!」
無限にも思えたその出現は、アイラ曰く限度があるらしい。最初は50体ほどだったが、2回目は40体、3回目は35体と、数を徐々に減らしているらしい。
後で気付いたことだが、これは恐らく残りの魔力量に依存しているんだと思う。『統率』によって全ステータスが増えたが、『魔力』は恐らく最大値が増えただけで、最初の『魔力』はそのまま減少していってるんだと思う。奴に回復手段は無さそうだし、使えば使うほど『魔力』は枯渇していっているはずだ。
「数が減ってるのは助かるが、決定打には欠けるな」
『ゲギャギャ!』
『ギャギャ!』
『ゲギャ!』
相手は何も目の前のエンペラーやステータスを底上げしてくるジェネラルだけじゃない。前衛職は全てアイラに群がっているとしても、炎魔法や弓矢は、彼女や壁を飛び越え、俺に向かって飛んで来ているのだ。
普通ならそれすらも、死に直結しかねない状況だが、俺のスキル構成は普通ではない。危険な香りを察知して、ガチャを回したことで得た、『予知Ⅱ』のスキルが大活躍したのだ。
今までは、視界内の攻撃が既知であればあるほど、攻撃の動線を予測して回避が可能となるというスキルだった。だが、『Ⅱ』に上がった事で、死角からの攻撃でも
それにより、『エンペラーゴブリン』と激戦を繰り広げながらも回避することに成功していた。
けれど、避けれるからと言って、ずっと続けるのは当然疲れる。
アイラもこちらに気を使って、『ジェネラルゴブリン』の次に遠距離持ちを率先して倒してくれているが、いつまでもこんな消耗戦を続けられはしない。
特に金剛シリーズには、一定時間経過後のデバフタイムがある。そこまで戦闘が長引いてしまったら、雑魚が減っても危険度が跳ね上がるだろう。
それまでに、なんとしてでも始末をつけたい!
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、幾度かの叫びを経て、『エンペラーゴブリン』も『魔力』が尽きて来たのか、肩で息をするようになっていた。
ステータスも最初ほど脅威ではなくなっているし、そろそろか……?
「アイラ、数!」
「ジェネラル1、ヒーラー0です!」
「よし、今から集中して倒す! 邪魔をさせないでくれ!」
「はい!」
「『剛力Ⅱ』『怪力Ⅲ』!」
俺は効果時間の切れた2つの火力バフを掛けなおし、攻勢を仕掛ける。
「おりゃ!」
『ゲ、ゲギャッ!』
こいつの動きはもうだいぶ見切った。『剣術』スキルがあるせいで、きちんとした型がある分、隙は中々見せないが、代わりに剣のクセを見つけた。あとは『予知Ⅱ』で動線を予測し、そこに得物を持っていけるように誘導すればいい。少し前までは剣の扱いは素人だったが、今では俺も『剣術Lv3』だ。これくらいの事は出来るようになっている。
こっちは『二刀流』があり、攻撃魔法も持っている。対して相手は1本の武器のみ。
手数が違う以上、こちらが一気に攻勢に出れば、相手の傷はどんどん増えて行く。
「うおおおおっ!!」
『ゲギャッ! ゲギャギャッ!?』
『斬ッ!』
そしてついに、燃え盛る『ミスリルソード』が、奴の首筋を貫いた。
その瞬間、奴の身体がビクンと震え、血の代わりに煙を吐き出し霧散した。それと同時に、奴が呼び出していた周囲の雑魚ゴブリンも、同じく煙となったのだった。
【レベルアップ】
【レベルが18から82に上昇しました】
目の前にはいくつものスキルオーブやアイテムに加え、金色に輝く宝箱と、銀色に輝く宝箱が出てきた。
連戦に次ぐ連戦の果てに、激戦を2回も終えた俺は、ふっと息をつき、地べたに座り込む。頭が痛いのは、恐らく土の壁を維持し続けたからだろうか。
石の壁を瓦礫に変えつつ、俺は、1つの事を考えていた。
低レベル補正、やば。
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