ガチャ084回目:お気軽挑戦

 恋人達にお勧めされたのもあるが、宝箱の存在にやる気になった俺は、アイラを連れて上級ダンジョンのゲートを潜った。といっても、そのゲートというのはダンジョンを囲む様に建設された大型ドームの物で、中に入れば野球場くらい広々とした空間が広がっていた。

 そしてその中央にぽつんと、ダンジョンへの入り口が、口を開けて待っていた。


「ドームからダンジョンまでの間って、何にもないんだね」

「ここは以前、ダンジョンブレイクを起こした場所ですからね。その時の経験上、ここに迎撃用の装置を設置しても、邪魔にしかならない事が判明しました。その為、今では完全に撤去されましたね」

「そうなんだ。でもこのドーム、天井まで覆う必要あるの?」

「はい。ご主人様はまだ対面していませんが、『上級ダンジョン』には飛行型のモンスターがいますから。それらが飛んで街に行かないようにしているのです」

「飛行型……。鳥とか?」

「ワイバーンやドラゴンとかです」

「……教科書でしか見たことがない名前だな」

「『上級ダンジョン』でも第十層や第二十層辺りまでいかないとお目にかかれない相手ですからね。前回のダンジョンブレイクで出てきたのは1体だけでしたが、それでも十分脅威でした」

「そんなのが出てくるのか……」

「ご安心を。ご主人様の今日の相手は第一層のモンスターですから」


 そう言って、アイラは端末を見せてくれる。

 そこに載っているのは、ここのダンジョン第一層で目撃されているモンスターの情報だった。


「『ファイターゴブリン』『レンジャーゴブリン』『アーチャーゴブリン』『ヒーラーゴブリン』『メイジゴブリン』『ナイトゴブリン』『ジェネラルゴブリン』……。通称ゴブリン軍団か」

「はい。第一層にはこいつらしかいません。そして、最低3体。最大12体で徒党を組んで襲って来ます。装備は前衛系はほとんどが『鉄』装備。『ジェネラルゴブリン』だけは確実に『鋼鉄』ですが、今のご主人様の敵ではありませんね」

「ふーん……、最大12か。中々大変そうだけど、その中で目を引くのは、やっぱりコレだよな」


 俺は端末の、ある部分を指でなぞった。

 それは、全てのゴブリンが、スキルを持っているという事だ。


 ファイターは『剛力』。

 レンジャーは『俊足』。

 アーチャーは『弓術Lv1』。

 ヒーラーは『回復魔法Lv1』。

 メイジは『炎魔法Lv1』。

 ナイトは『鉄壁』。

 ジェネラルは『統率』。


「レアモンスターに比べるとドロップ率は相当落ちるようだけど、この第一層だけでほとんどの基礎的なスキルは獲得出来そうだ」

「はい。……ふふ、ここから出るときはどれくらい増えているか想像出来ませんね」


 『初心者ダンジョン』の第四層に出てくる『ジェネラルゴブリン』は『統率』がなくて『剛力』だけみたいだけど、ここのダンジョンに現れる『ジェネラルゴブリン』はレベル20に近いからか、スキル構成が違うようだった。

 その上、『ジェネラルゴブリン』は結構な割合で徒党の中にいるらしく、多い時は2体3体と出てくるらしい。これは、『統率』が得られるチャンスかもしれないな。


「それじゃ、行くか!」


 そうして俺たちは、『上級ダンジョン』へと足を踏み入れるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 各地に発生しているダンジョンには名称がついているが、これらは全て、危険度や種類を表す為に協会が用意した通称に過ぎない。そんなダンジョンを大まかに区別すると、2種類になると言われている。


 1つは、『レベル制ダンジョン』。これは、第一層から最下層まで、潜るごとに一定のレベルで強くなっていくタイプのダンジョンで、『初心者ダンジョン』『中級ダンジョン』『上級ダンジョン』などが挙げられる。

 そしてもう1つが、『コンセプトダンジョン』。『アンラッキーホール』や『ハートダンジョン』などの、特殊なダンジョン。その他『深層ダンジョン』と呼ばれる、初心者から上級者まで入れるが、一定の階層ごとに強さの幅が跳ね上がるという不思議なダンジョンも存在している。


 そしてここ『上級ダンジョン』は、第一層から相当な強さのモンスターが、群れを成して襲ってくるベテラン向けのダンジョンだった。

 中に入ってみれば、一目見ただけでベテランだと思える人達が多く集っていた。全部で5チームくらいか。


 そんな彼らの視線が、新参者を確認するように俺へと集まり、そしてアイラへと向けられた。


「おい、あれってもしかして……」

「ああ、『赤い死神』だな。久々に見た」

「最近は宝条院家の令嬢に従っていると聞いたが、鞍替えしたか?」

「宝条院家っていうとあそこだろ? 簡単にやめられるとは思えねえよ」


 赤い死神? アイラのことだよな?

 ちらりと彼女の顔を伺うが、いつものすまし顔だった。


 まあアイラの腕前なら有名なのも当然か。なんといったって、レベル170だし。


「ご主人様、行きましょう」

「ああ」


 俺はアイラに示されるままダンジョンを進む。ここの第一層は、『初心者ダンジョン』の第二層にある平原が延々と続き、所々に木造の集落らしきものが見えた。


「基本的に、ゴブリンの集団は集落に近いほど数が増します。先ほど最大数は12とお伝えはしましたが、それは1つの集団の数であり、複数の集団が併合することも有り得ますので、集落に近付く際は注意が必要です」

「了解」

「まずは、あそこで屯している4匹のゴブリンから挑戦していきましょう」


 アイラが指し示した先には長剣を装備したファイターが2体、短剣を装備したレンジャーが1体、弓を装備したアーチャーが1体いた。ファイターは鉄製、他2種は革で出来た鎧を身に着けていた。


「それじゃ、まずはスキル無しでやってみるか」


 『ミスリルソード』だけを抜き、ゴブリン達に駆け寄る。


『ギャギャ!』


 まず気付いたのはアーチャー。何かを叫びながら弓を射掛けてきた。その腕前は、例の盗人女と同じくらいか。まだ距離があったため、軌道上に剣を置く事で防ぐ。すると今度は、正面から長剣が、側面から短剣が襲ってきた。

 長剣は身体を捻って躱し、短剣は蹴り上げて上空へと飛ばす。そして、躱した力を利用して、そのまま回る様に2匹纏めて切り裂いた。


『グギャッ!?』


 残ったファイターが慌てて剣を振りかぶるも、がら空きになった胴体に剣を突き立て、背後に隠れていたアーチャーもろとも串刺しにする。連中はすぐに煙と化し、いくつかのドロップアイテムを落として消えた。


 うん、『鉄』製の鎧が相手でも問題なく戦えるな。

 あと、バリエーション豊かな敵と戦うのは初めてだから、ちょっと楽しい。


「お疲れ様です、ご主人様。問題ないようですね」

「ああ、こいつらとは初めて戦うけど、基本はゴブリンとそう変わらないんだな。それに、俺には『予知』がある。戦えば戦うほど、こいつらの動きは手に取るようにわかっていくだろう。『二刀流』も補助スキルも、あとは普段あまり使わないけど魔法もある。集団戦はここで戦って鍛えてみるか」

「お供します、ご主人様」


 さーて、スキルの荒稼ぎをしますかね!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る