ガチャ083回目:どこかの王子様
スキルオーブの塊から顔を上げたリュウさんは、怪訝な顔をしていた。
「『俊足Ⅱ』を持つモンスターの情報なんぞ、ワシは知らんぞ。先ほど『ボスウルフ』の情報は更新しておったが、それとは別なのか?」
1時間ほど前に更新したばかりの『ボスウルフ』の情報を把握しているのか。すごいな。リュウさんは、もしかして日夜更新されるモンスターの情報全てを把握しているんだろうか?
もしそうなら、支部長って凄いんだな。2人が慕うのも分かる気がする。
「おじさん、このスキルなんだけど、実は正確にはドロップ品じゃないの」
「ショウタさんが、『俊足』4つを材料に作っちゃったんです」
「な、なんと!? 圧倒的な『運』だけでなく、そんなスキルまで有しておるとは。……これを、ミキちゃんはどう言っておったんじゃ?」
「秘匿性が高い能力であると判断したので、なるべく公表せずにと。お母さんはお爺ちゃんにどうするか直接相談するって。あと、おじさんは信頼できるから大丈夫だって」
「あの子からの信頼は嬉しいのう、つい頬が緩むわい。そうじゃな……外部、それも特に、サクヤちゃんに知られるのは不味いかもしれんのう。あの子は、そこのメイドクラスの傭兵を何人も抱えておるし、彼らを強くすることにひどく貪欲じゃ。その上、凄まじい情報収集能力を持っておる。協会の通信回線すら、あの子の前では不安がよぎるしの。であれば、この様に直接面と向かって相談した方が良いじゃろう」
俺としては、強敵と戦わずして強力なスキルをゲット出来るから、ラッキーくらいに考えてたけど……。どうやら、職員や協会長視点では違うものが見えているらしい。
あと、サクヤさんってそんなにヤバイ人なのか……。でも、まだ会ってないけど、そこまで危ない人には思えないんだよな。
「オークションには出さない方が良いんですかね」
「うむ。やめておくべきじゃろう。もし出すのなら、直接ドロップする相手を見つけてからじゃな」
「なるほど」
まあ便利なスキルだし、あればあるほど強くなれる以上、売るよりも自前のスキルをカンストさせた方が良いよな。いくつまで上がるのかは知らないけど。
「じゃあ、このプレゼントも余計なお世話でした?」
「……うむ、惜しいが返そう。これはまだ世に出してはならん。代わりに『俊足』は、ありがたく受け取っておこう」
「わかりました。じゃあアイラ、『俊足Ⅱ』だけしまっといて」
「承知しました」
◇◇◇◇◇◇◇◇
リュウさんとはその後、姉妹の思い出話で会話を楽しんだ後、付属の販売店に顔を出した。
そこには最低金額が100万から始まる装備品が所狭しと並び、高額商品の群れに目がチカチカしてしまった。あまりにも慣れない光景を落ち着きなくきょろきょろと眺めていると、アキとマキに引っ張られて色んな装備を試着させられた。あーでもない、こーでもないと着せ替え人形のような状態になってしまった。
まあ、行きのバスの中で、性能もそうだけど、メンバーの迷惑にならないよう、見栄えも良くしたいって伝えておいたから、彼女達は楽し気だった。邪魔するのもなんだし、大人しく人形になっていよう。
結果、まず防具は一新され、武器に関してもメインの武器を新調。御霊をサブウェポンに移動した。なんだかんだで『御霊』は、名前も見た目も使いやすさも、全部気に入ってるんだよな。
そして今まで身に着けていた『魔鉄』シリーズは、防具が一式と武器が揃っている事もあり、それらは認知度上昇のためにも、纏めて次のオークションに出品することにした。
現在の装備はこうなった。
メイン武器:ミスリルソード
武器レベル:26
値段:1億5000万
サブ武器:第六世代型・御霊三式
武器レベル:17
値段:4000万
防具:ミスリルプレートアーマーセット
防具レベル:20~22
値段:頭/2500万 胴/4000万 籠手/1500万 脚/2500万
姿見で自分の恰好を見てみるが、全身をエメラルドグリーンの輝きに包まれた、困り顔の男がそこにいた。
うーん、鎧に着せられてる感が半端ないな。
「格好良いです、ショウタさん!」
「うんうん、王子様みたい!」
「あはは、王子様は言い過ぎじゃない?」
ま、彼女達が喜んでくれてるし、これなら舐められることは無いかもしれない。
ちなみに恋人達にこっそりと聞いてみたところ、『真鑑定』というスキルについては情報がないらしい。
なので、店内にある各種装備品のレベルを教えていき、どういった違いがあるのか詳しく聞いて行くと、思わぬ発見があった。
どうやら世間一般的に、レベル10以下が初心者用となり、10台が中級者用。そして20以降が上級といった扱いに近い事がわかった。店に並んでいない30以降と思しきものは、特注品等を除けば、ダンジョンから得られる宝箱や強いレアモンスターからのドロップ品になるんだとか。
となると、アイラの武器はかなり高性能なんだろうな。
ちなみに『魔鉄』は防具レベル12~14で、アイラのメイド服をこっそり見たところ、レベル33だった。恐ろしいな、メイド服。
そうして俺の事を王子様と呼ぶ彼女達をお姫様扱いをして、ごっこ遊びをすることにした。跪いて手の甲に口づけをしたり、お姫様抱っこをしてみたりと。そうしてイチャついていると、渋い顔をしたリュウさんがやって来た。
「お主ら、仲睦まじいのは結構じゃが、そういうのは人がいないところでやってくれんか? 買い物客から生暖かい目で見られておるぞ」
「「!?」」
一見さんお断りの上級者専用のお店とはいえ、しっかりと人はいるのだ。俺は知っていたし、気にも留めて無かったけど、恋人達は違うようだ。その事実を思い出したのか、一瞬の内に茹で上がってしまった。
そんな2人を微笑ましい目で見たリュウさんは、俺達を会議室の1つへと案内してくれた。
「すみません、リュウさん。さっきはご迷惑おかけしました」
アキとマキは、顔を手で覆っていて、まだ戻って来れていないようだった。
「この子達は昔からそうじゃった。夢中になると周りが見えんくなる。まったく、可愛らしい子達じゃて。そしてアマチ少年。全身をミスリル装備にしたか。ふむ……高い買い物じゃったろうが、それに見合った性能をしておる。しっかり使いこなすんじゃぞ」
「はい!」
「折角じゃ。今から『上級ダンジョン』に入ってみんか?」
「えっ!?」
まさかのお誘いだった。
「俺、未だに『初心者ダンジョン』の第二層で戦っている身なんですけど……」
「それは聞いておる。じゃが、あそこのレアモンスター相手に連戦できる実力があるのなら、第一層くらい平気じゃ。例え、レアモンスターが出てもな」
『上級ダンジョン』のモンスターに、レアモンスター。
気にならない訳ではないが……。
そこに、深呼吸して戻って来た姉妹も話に加わる。
「ショウタさん、ここのダンジョンなら、例え第一層であっても宝箱が出ますよっ!」
「そうだね、フィールドに落ちてるタイプと、モンスターがドロップするタイプ、両方が備わってたはず!」
「そうなんだ。俺も気にはなるけど、2人は入る事に賛成なの?」
「はい。第一層のモンスターのレベルは15前後です。レアモンスターは30ほどだったはずなので、今のショウタさんなら大丈夫かと」
「それに、ショウタ君が強くなる為には、ここの第一層はいい塩梅だと思うよ」
「そうなんだ。2人がそう言うなら……。アイラ、案内を任せても良い?」
「お任せください。ここのダンジョンなら熟知しております」
「そういうことなら……。行ってみようかな」
『上級ダンジョン』に宝箱か……。楽しみだな。
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