ガチャ082回目:おじ様へのご挨拶
「ショ、ショウタ君。それ……」
「スキルを、合体させたんですか!?」
その場にいた全員の視線が、俺の手の上を転がるスキルオーブに集約されていた。
この現象には、流石のアイラも普段のポーカーフェイスが剥がれ落ちていた。そんな彼女が珍しくてぼーっと見つめてると、目が合った。すると恥ずかしかったのかそっぽを向いてしまった。今日は、色んなアイラが見れるな。
「いやー、やってみるもんだね」
「軽っ!?」
「こんなこと、誰にも出来ませんよ……? あっ」
2人の視線がアイラに向いた。その時にはもう、いつもの表情だった。
「ああ、心配しなくていい。アイラからは情報が飛ぶ心配はない。サクヤさんからそう命令を受けてるらしい」
「はい。ご主人様の不利益になる事は致しません」
「ほっ……」
「良かった……」
「それにしても、ご主人様。またとんでもない事を仕出かしましたね」
「そうだね……」
今回の件、『圧縮』を使わなくても、結局同じ個数のスキルを使用してしまえば、獲得できるスキルは同じだ。だが、『俊足』4個と、『俊足Ⅱ』1個では、とある違いが起きる。
それは、既に『俊足Ⅱ』を覚えている場合。そこに『俊足Ⅱ』を追加で3つ使用すれば『俊足Ⅲ』にレベルアップ出来るが、ただの『俊足』が何個あったとしても、同じことは出来ない。
現在『Ⅲ』になっているのは『怪力』だけだ。これは、『怪力Ⅱ』を直接ドロップするレアモンスターと運よく遭遇できたからに過ぎない。
探せば他のスキルの『Ⅱ』や『Ⅲ』持ちに出会う事は出来るだろうが、その分敵は強力になっていくだろう。けど、簡単に集められる無印をひたすら集めるだけで、『Ⅲ』にも『Ⅳ』にも強化出来るというのは、とても楽に強化が進められるのだ。
『圧縮』は、ただカンストしたスキルを上位スキルにコンバートするだけのスキルだと思っていた。それだけでも十分強力だったけど、ここに来て新たに効果が見つかるとは。
これは、『レベルガチャ』並みに凶悪なスキルのように感じる。流石URスキルだな。
「さて、残りの『俊足』は、13個か。じゃあこの12個を『圧縮』して……。そこから『俊足Ⅱ』を3つ使用して『俊足Ⅲ』にして、と。うん、これで残りは『俊足』が1個、『俊足Ⅱ』が1個だね」
「綺麗に残り2つまで減ったわね」
「そうだね」
「ショウタさん、これはどうしましょう?」
「んー……。せっかくだし、そのおじさんへの贈り物にしよっか」
2人にとっても信頼できる人なら、スキルオーブを手土産に挨拶するのも良いだろう。
「あはは、ショウタ君ったら。随分と豪華な贈り物だね」
「スキルオーブの贈り物なんて、結納品になるくらい高価なんですよ?」
「そうなんだ? でも俺としては、数十分程度で用意出来ちゃう品物だから、贈り物としては妥当かなと思うんだけど……」
「ふふ、ショウタ君の場合ならね。ほんと、規格外すぎでしょ。でも、ちょっと待ってね」
そう言ってアキは端末を操作する。
「……うーん、やっぱり『俊足Ⅱ』はドロップ情報が無いわね。ま、『Ⅱ』自体、先日ショウタ君が見つけたばかりだから、あるとは思えないけど」
「ショウタさん。今回の件、一度お母さんに相談しても良いですか? たぶん、ハナさんも知る事になるかもしれませんが……」
「その2人ならいいよ」
「ありがとうございます。少々お待ちください!」
そう言って、姉妹は慌てて出て行った。
そして約10分後、支部長とハナさんを連れて戻って来た。
「アマチ君。今回の件、協会長に伝えても良いかしら?」
協会長というと、アキやマキのお爺さんか。
だいぶ大事になってきたな……。
「いいですよ」
「ありがとう。それじゃハナ、私は今から本部に行ってくるわ。留守の間はお願いね」
「わかりました、支部長。皆さん、バスの用意が出来ましたよ、案内しますね」
そして慌ただしい空気の中、俺達は『上級ダンジョン』への直通バスへと乗り込む。
『圧縮』の件は想像以上に協会を巻き込む騒ぎに発展してそうだ。けど、今の俺は『上級ダンジョン』の事で頭がいっぱいだった。直接入りはしないけど、どんなところなんだろうか……。
楽しみだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
バスに揺られる事1時間。
バスを降りた俺達の目の前には、とてつもなく巨大な壁がそびえ立っていた。
「壁……?」
「これはな、ダンジョンブレイク対策に建てられた物じゃよ」
唖然と見上げる俺に、貫禄のある初老の男が答えた。彼はいつの間にか俺の隣にいて、その目には万感の想いが籠められているようだった。
「ここのダンジョンに出現するモンスターはあまりにも凶悪じゃった。だから誤って入ってしまわぬ様、人類は封鎖を選んだ。最初は封じ込めが出来ると考えていたが……。その結果が、あの騒ぎに繋がったわけじゃ」
封鎖……。
確かに、よく見ればこの壁は、何かを包むようにドーム状に広がっていた。恐らくあの中に、『上級ダンジョン』があるんだろうな。
「おじさん!」
「おじ様!」
「え、この人が?」
おじさん呼ばわりされた彼は「ニカッ!」と笑う。姉妹を優しい瞳で見ている様子を見るに、まるで孫を溺愛する本物のお爺さんのようだった。
そんな彼から一瞬、怒りに近い感情を向けられた気がした。もしかして、俺嫌われてる……?
「えーっと、初めまして。天地翔太です」
「うむ。ワシはこの協会を管理しておる
「は、はい!」
彼を追って、俺達は『上級ダンジョン』に隣接している、ダンジョン協会第128支部へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーむ。直接会うと分かるが、やはり2人共美人になったのう!」
「えひひ、そうー?」
「ふふ、ありがとうございます、おじ様」
「しかし、いつもなら2人に囲まれとるのはワシなのに、そこに別の者がおると腹立たしいのぅ……」
リュウさんの鋭い眼光が、またしても俺を貫く。さっきの感情もこれだったか。理不尽だが、2人が別の男と仲良くしてたら、俺だって嫌な気になる。ここはグッと我慢しよう。
「おじさん、うちのショウタ君をいじめないでよね」
「わかっとるわい。それで、ミキちゃんからは遊びに行かせるとしか聞いておらんが、何の用なんじゃ? いや、遊びに来てくれるだけでワシは嬉しいんじゃが」
あれ、目的伝わってなかったのか。
「うん、一番の目的はここのショップで買い物させてほしいの。上位の冒険者が身に着ける装備があれば、ショウタ君にも箔がつくと思って」
「今日、
レッドカラー……。
確か、今朝のような連中を指した協会用語だったかな。意味は文字通り、レッドカードでの退場並みに、悪い事をしでかしてる連中の事を指すらしい。
「あそこの利用許可か。少年のランクは今朝Aに上がっておったな。それなら、ワシの方から許可を出しておこう。あとで行ってみるといい」
ああ、『上級ダンジョン』付属協会ということだけあって、一見さんお断りだったのか。
知らずに入店してしまうところだった。
「ありがとうございます。あの、リュウさん。これ、『お願い』の件と、俺からの気持ちです。つまらないものですが」
俺はマキが梱包してくれたスキルオーブ入りの箱を手渡した。
「なんじゃ、気が利くのう……んん!?」
リュウさんは中身を見て固まってしまった。
内訳は『お願い』の品『怪力』『迅速』『迅速』と、オマケの『俊足』『俊足Ⅱ』なんだけど。多かったかな?
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