ガチャ081回目:上手な在庫処分
俺達にお礼を告げて、支部長とハナさんは出て行った。
改めてアキとマキが両隣から引っ付いて来たので、宥めつつ成果を伝える。
「あー、それじゃ、ヒルズウルフのレアモンスターが出たので情報共有をするね。ステータスとドロップはこんな感じで、出現位置はこのクレーター中央部」
「早速ね。情報ありがとう、うちのデータベースに反映しておくわね」
「それと見てわかる通り、こいつも『統率』を出したからさ、余りそうなんだよね。この2つはオークションに出す方向でお願い」
「わかりました。手続きしておきますね!」
アキは端末を操作し、手作業で第二層のモンスター情報に手を加えて行く。そしてマキは、厳重にスキルオーブを梱包して、奥の職員用の扉からどこかへと運んでいった。
その光景をぼーっと眺めていると、目の前にアヤネが買って来てくれていたお菓子と紅茶が並べられる。アイラが準備してくれたようだ。
「ああ、このお菓子って4つしか無かったんだね」
「はい。お嬢様の出発は、昨晩の時点で決まってましたから」
「そうか……。ところで、アヤネの母親ってどんな人なの?」
そうアイラに問うと、隣で作業をしていたアキが顔を上げた。
「あー、ショウタ君知らないんだっけ。サクヤさんはね、この第一エリアにある『中級ダンジョン』の管理をしている人なの。そして、お母さんやお爺ちゃんと同じく、日本の協会を作り上げた初期メンバーでもあるわ」
「へー」
すごい人なんだな。
「アヤネを貰うって決めた以上、その内挨拶に行かないとな」
「そうね。でも、その時は割とすぐに来るんじゃないかしら」
「そうなのか?」
「だって、アヤネが呼び出されたんだもの。きっと、ショウタ君じゃないとこなせないような事を言われて、結局行く羽目になると思うから」
「私もそう思います。交渉とは、要求レベルが高いほど、対価は重くなるもの。ですが、あの方と交渉する場合、その対価は天井知らずです。身内だからと言って容赦はしません。自分で言うのもなんですが、私はあの方が持つ傭兵の中でも上位の人材ですし、それなりの条件をつきつけられるでしょう」
「ふーん? でも、それって結局ダンジョン関係なんだよな? それならまあ、何とかなると思うけど」
例の『お願い』を言い出したのも、詳しく聞いてみればそのサクヤさんらしいし。きっと何か、欲しいスキルがあるに違いない。
「ま、ショウタ君にダンジョン以外のお願いは来ないから、安心しなさい」
「そりゃよかった。話を振られても困るからな」
「うーん、それを思うと、やっぱり装備の更新はしておきたいわね。今日は良い方向に流れたとはいえ、『魔鉄』装備は舐められるようだし」
「そうだな。一緒に行動するアヤネやアイラもそうだけど、専属のアキやマキが見下されたら嫌だし」
「にひひ」
「それなら、おじ様の所に行きませんか?」
スキルオーブの移送手続きが終わったのか、マキが戻って来た。
「おじ様って?」
「はい。第一エリアにある『上級ダンジョン』の支部長の事です。その人も初期メンバーの1人で、昔からとってもお世話になってるんです!」
「ああ、そっかー! 『上級ダンジョン』に併設されてる支部には、そのレベルに見合った武具を販売しているお店があるの。そこなら、『魔鉄』以上の装備がきっとあるはず!」
「それに、ここにある『怪力』1個と『迅速』2個は、おじ様が『お願い』で希望された物なんです。折角ですから、一緒に届けちゃいましょう」
「良いわね!」
ふむ、『上級ダンジョン』か。いつかは行ってみたいと思ってたけど、買い物だけなら危険もないし行ってみるかな。『魔鉄』以上の装備があるのなら、是非とも買っておきたい。
「よし、行こうか。そこって遠いの?」
「車で1時間ほどですね」
「じゃあ、昼飯食べたら皆で行こうか」
「え、早速?」
「善は急げってね」
「はい、行きましょう!」
「お供します」
◇◇◇◇◇◇◇◇
お菓子と昼食を頂いたあと、移動用のバスの手配をしていたマキが戻って来た。
「ショウタさん、用意に少し時間がかかるようです」
「そっか。それじゃあその間に、この大量の『俊足』の使い道でも考えようか」
アイラはバッグから、合計25個の『俊足』を取り出した。
「……予想はしていたけど、すごい量ね」
「そうですね……」
「アプリで調べてみたけど、この『俊足』って身体への負担がないスキルなんだってね。アイラ的に、『俊足Ⅱ』はどんな感じだった?」
「こちらも、負担は無いように感じました。それと、加速の上限値が多少増したように感じます」
「それは俺も思った。だから、完全にメリットしかないスキルなわけだ」
使えば『魔力』を消費する点は同じだが、あれば便利なスキルだ。覚えていて損はない。
ということで。
「アキとマキも『俊足Ⅱ』まで覚えて良いよ」
「えっ? 良いの?」
「いいよ。こんなにボロボロ落ちるんだから、遠慮はいらないよ」
「わ、わかりました。覚えさせていただきますね」
そうして2人が、順番に1個ずつ消費していく。
一気に覚えるなら、4つ纏めて使えれば楽なんだけどなぁ。俺もさっき3つまとめてやってみたけど、1個ずつしか受け付けないようだった。まあ、そんな贅沢な悩みを浮かべてるのは、俺くらいなものか。
面倒だけど、1度に纏めてなんて……。
……ん?
「いや、待てよ……」
「ショウタさん?」
「可能か? けど、俺の『直感』は……」
2人が不思議そうな顔でこちらを見ているが、俺はそれに気付かずスキルオーブに手を伸ばした。そして、4つの『俊足』を手に乗せ、唱えた。
「『圧縮』する」
【該当のスキルを確認】
【該当のスキルを圧縮中……】
【該当のスキルを圧縮成功】
【スキル『俊足』4つを圧縮。『俊足Ⅱ』に圧縮成功しました】
「ははっ、出来ちゃった……」
俺の手のひらには、1つになった『俊足Ⅱ』が明るく輝いていた。
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