ガチャ080回目:引き摺り回しの刑

 俺達は盗人連中を引きずりながら、ダンジョンの外を目指した。

 途中、この連中と一緒に動いていた2人の剣士を発見するが、事情を聞けばこいつらとは今日出会ったばかりらしい。第三層の入り口付近でキャンプをしていたところ、臨時チームを組まないかと声を掛けられたそうだ。

 事情を説明すると、彼らも手伝ってくれると申し出てくれたので、アイラに確認を取った上で協会への先触れをお願いした。


「それにしてもこの連中、アイラのランクを知らなかったのかな? それを知ってれば、俺はともかくアイラに喧嘩を売ろうなんて思わないだろうに」


 俺も彼女のランクはよく知らんけど。


「私はランクも全て非公開ですから、知りようがありません。それにチームとしてのランクは、基本的にリーダーのランクと同じ扱いになります。ですから、私も同じようなものだと判断したのでしょう」


 メンバーのランクがなんであれ、チームリーダーのランクがチームのランクとして優先される、と。

 だからって連中、何をしても良い訳じゃないだろうに。

 しかし、そういう意味なら、アイラもアヤネも、皆Aランクの扱いになるという訳か。


 こいつらのランクがDなのは、人格的に高位ランクが不適格だからなんだろうな。実力が条件を満たしているかはわからないが、恐らく俺が絡まなくてもCにはなれなかっただろう。


 ランクDがランクAの獲物を不正に奪う。どんな懲罰が待ってるやら。


「それにしても、こいつらもそうだったけど、アイラも対処に手慣れてたよな。何度か経験があるのか?」

「ダンジョンは外との連絡手段がほとんど出来ない、無法地帯です。そして冒険者になる為に必要なのは、講習を1回受けるだけと非常に簡単なものです。そのため、誰にでもなれる以上、こういったことは度々起きます。低ランク冒険者に求められるのは、人格ではなく魔石を集めるための労働力と、もしもの時の戦力ですから。『中級ダンジョン』以上になると、自然と淘汰され見かけなくはなりますが、絶対ではありません。ですので、人が少なくなる階層や狩場では、新しい顔は要警戒対象なのです。高ランクの冒険者であれば、誰しもが対策手段を持っていますよ」

「そうなのか……。俺もその辺は勉強しないとな。アイラ、教えてくれるか?」

「勿論です。ご主人様」


 アイラが微笑む。その顔はとても美しく見えた。

 俺は見惚れるのを誤魔化す様に、端末へと視線を落とした。


「……それにしてもこのアプリ、便利ではあるんだけど、ダンジョンに入った瞬間ほとんどの機能がオフラインになるのは面倒だよな。情報は外にいる間に自動更新されるから、アイテムの検索で困る事は無いけど……。こういう時、即座に外と連絡できないのは辛い」

「いえ、ご主人様。その認識には少々誤りがございます。まず、第一層や第二層の階段に、黒い柱のようなものが建っているのを見かけませんでしたか?」


 アイラに言われて思い出す。

 そういえば、第一層の入り口や、第二層に続く階段付近。それから、第二層の入り口にもあった気がする。


「ああ、『アンラッキーホール』にはなかったけど、『ハートダンジョン』にも確かあったような……」

「はい。あれは魔石を用いた電波塔のようなものです。まだ開発中の段階ですが、その付近でのみ『掲示板』などの文字だけの通信手段が使用可能となるのです。ただ、非常にか細い線ですので、通話は出来ませんし大容量のデータ更新も不可能です。ダンジョンと地上とでは通常の電波は届きませんから、ああいった装置を介する必要があるのです。一応、ダンジョン内の同じ階層限定であれば、通話するシステムが昨年開発されはしました。ですが、不便な点も多いので、実用化にはまだかかりますね」


 ダンジョン内限定の通信装置……。この前、『ハートダンジョン』で使わせてもらったアレか。

 便利な点はあったが、同じ端末を持った人全員に声が行くというアレな仕様だったな。それに、入り口にもなにやら大掛かりな専用機材が設置してあったようだし、一般化はまだまだ先の話か。


「ですので、この連中が今朝の時点で第三層にいたのなら、昇格の話を知らなかったのも、仕方ないかと。『掲示板』を熱心に見ていれば話は別だったかもしれませんが」


 そう言ってアイラは端末に視線を落とした。

 『掲示板』か。普段見ないけど、昇格式もあったし盛り上がってるのかな?


「話は変わるけど、さっきの2人も、キャンプしてたって言ってたよな。でも、わざわざそんなことをする必要があるのか? 第三層って、結構近いけど」

「第三層からは宝箱が出ますし、安定して稼ぐにはその場で寝泊まりをする者が多いのです」

「へぇ~」


 そういえば『一等星』の人達も、初めて会った時は半日とは到底思えない程に装備が汚れていたな。あれも、数日の間キャンプをして、帰還する最中だったのかもしれない。


「キャンプか。そんな風に人が集まりそうな場所ほど、こういった連中が悪さをしそうだけど」

「それはキャンプ地を利用している冒険者全てが理解し、警戒しています。もしも発見されたら、その瞬間、袋叩きにされますから、このような輩もリスキーな真似はしません。ご主人様もキャンプに興味がありますか?」

「んー……。長期的な狩りって、つまり手持ちがいっぱいになるまで頑張ろうって話だよね? 俺は一瞬でいっぱいになるから、わざわざ泊まり込みするほどでもないかな」

「ふふ、それもそうですね」


 それに、『俊足Ⅱ』と『迅速Ⅱ』があれば簡単に駆け抜けられるし、距離的にもさほど問題はないだろう。


 そんな感じで緩く話をしながら、速足で第二層を抜けて行く。

 流石に全力疾走したら引きずってるこいつらが死にかねないし、加減していかなきゃな。


 ただ、第二層はなだらかな草原地帯でも、第一層は足元が岩剥き出しの凸凹した地形だ。

 連中は俺達が進むたびに、身体のあちこちをぶつけていた。その痛みにより途中で目を覚ましてしまったんだが、暴れるだけで縄を解くことは出来ないでいた。当然、騒がれても煩いので口も塞いでいる。


 アイラ曰く、この縄もダンジョンの素材で作った特殊なものらしく、見た目は地味だから装備に回すと冒険者から不評を買うらしいが、性能としては申し分ないため、こういった用途に使われているらしい。


 そして道中、奇異の目で見られながらも、先触れのお陰か大きく騒がれる事なく、順調にダンジョンを脱出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 協会についた俺達は、支部長とハナさん。アキとマキ。そして警備兵と思しき人達に迎えられた。

 普段見せない鬼の形相をした支部長が、4人組を睨みつける。連中は蛇に睨まれた蛙のように縮み上がっていた。


「Aランクに喧嘩を売るなんて、馬鹿な子達」

「「「「!?」」」」


 連中の視線が俺に集まった。ああ、ネタバレされちゃった。


「彼らの身柄は我らが預かります」

「お願いします」


 連中は何か言いたそうだったが、構わず警備兵に連中を手渡す。そして連中が連れていかれる様子を眺めていると、我慢できなかったかのようにマキが飛びついてきた。


「ショウタさん!」

「おっと。はは、不安にさせたかな?」

「はい……。ううっ」

「大丈夫、俺は大丈夫だから」


 マキを宥めていると、支部長が咳払いをした。


「おほん。アマチ君、向こうで話をしましょうか」

「はい」


 いつもの会議室へと足を運ぶ。そこでアイラは例の録音を順番に流し、その時の事情を事細かに語った。


「……噂をすればってやつか。早速対面するとはね、冒険者ランクを笠に着たお馬鹿連中と。本当にすごい『運』だわ」

「アマチ君、アイラ。2人ともご苦労様。こういった連中は『初心者ダンジョン』にも少なからずいるのだけど、格下と解ってる相手じゃないと中々尻尾を出さないのよ。普段は良い顔をしてるから見つけるのが困難でね。非常に助かったわ、ありがとう」


 ……ふむ。

 出会った瞬間は『不運』なのかと疑ってしまったが、この反応を見るに連中は職員からしてみれば、協会を運営していく上で非常に邪魔な存在だったのか。

 となれば、連中を捕まえる事ができたのは彼女達の為になることだろう。


 うん、これはラッキーだったな!


「これから連中の余罪を追及していくつもりよ。連中には見せしめの為にも重い罰を下すつもりだから、期待してて。それと、今回のお詫びも兼ねて、アマチ君が希望していた第一層の一時封鎖。早めに実行できるように調整してみるわ。今回は本当にありがとう」


 おお、これは棚ぼた。

 彼女達が言うには、考えられる罰としては『冒険者証永久剥奪』。これは確定らしい。

 そして余罪が出てくれば『魔石採取の強制労働』『研究室でのスキルやアイテムの実験刑』など、かなり重い処罰が下る事もあるとか。

 ま、ランクDということは、ステータスは一般人より遥かに高いわけで、なおかつスキル持ちの可能性もあるもんな。貴重かつ危険な人材である以上、野に放つわけにも行かないし、一般の人が入るような牢屋には入れられないよな。

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