ガチャ066回目:野良のレアモンスター

 廊下で小一時間放ったらかしにされたアヤネだったが、戻って来た彼女は微塵も気にしていない様子だった。


「秘密のお話は、もう大丈夫ですの?」

「うん。ごめんねアヤネちゃん、呼ぶのが遅くなっちゃって」

「構いませんわ。旦那様との睦言の時間は何よりも尊重されるべきですわ!」


 ポジティブなだけじゃなくて懐も深いのか。

 ううん、良い子なんだけど。なんだけどなぁ……。


 まあ、ガチャがバレる心配はないと言うのが分かったし、彼女を連れて歩き回る上で、コソコソする必要が無くなったのは大きいな。それにしても、彼女が良い子なのは十分理解しているし、役にも立ってくれそうなのは間違いない。けど、見せたくないと考えている。

 俺は彼女の対して、こんなに警戒しているんだろうか……?

 

「ううーん」

「ショウタさん? ご飯ですよー」

「あ、ああ」


 今日も今日とて、2人に挟まれ、交互に食べさせられながら昼食を楽しむ。どうやらアヤネ達も昼食は持って来ていたらしく、一緒に食事を摂る事にした。アヤネも俺に食べさせたがってたけど、彼女特権という事で2人から拒否されていた。

 しかし、アイラのあの鞄、本当になんでも入ってるんだな……。まさか三段の重箱が出てくるとは……。あれもアイラが作ったのだろうか。ちょっと腕前が気になるけど、マキのご飯が世界一美味しいし、まあいいか。


 食事後。

 俺が午前中に狩って得たアイテムの確認をしてもらった。どうもこの『魔鉄』という装備。ほとんど出回っていないとかでかなり値が張るらしい。見た目、鉄装備なのに。

 むしろ。


「今ショウタさんが身につけている『第四世代型・軽量ハイブリットアーマーMK.2』よりも、防御性能が高い可能性があります」

「ただ見た目だけじゃなく、重量も鉄製の鎧にそっくりよ。軽量化されてないから、ちゃんと重いわ」

「まあ鉄の装備も長い間着ていたし、嫌いじゃないから……うん。着けてみようかな」


 そうして手伝ってもらいつつ、胴だけ変えてみる。

 アキの言う通り、こっちは純粋な金属鎧だけあって重量はあるけど……。特に問題はなさそうかな。


「とりあえずこれで行ってみるよ。マキ、『MK.2』の胴体部分は預かっといてくれる?」

「はい。では行ってらっしゃい、ショウタさん」

「行ってらっしゃーい」

「行って来ます」

「行って来ますわ!」

「行ってまいります」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 それは、第一層に入ってすぐに起きた。


「今2人をチームメンバーとして認識したつもりなんだけど、『統率』の効果はちゃんと反映されてる?」

「問題ありません」

「はいですわ。旦那様の気持ち、とっても嬉しいですわ」

「はは。それじゃ、このまま第二層に行くから」

「承知しました」


 アヤネは何かに気付いたのか、周囲をきょろきょろとしている。


「……旦那様。なんだか騒がしくありません?」

「ん? ……確かに、皆浮足立ってるな」


 協会の周辺では、アヤネやアイラはその見た目からも非常に目立っていて、注目を浴びていた。けど、ダンジョン入り口にいる冒険者達は、こちらに視線を飛ばす者はあまりいなかった。

 まるで、そんな余裕など無いみたいに。


「一体何が……」


 そう思った時、聞き覚えのある声が響き渡った。


『グオオオオッ!!』

「ひいぃ!」

「きゃあっ!」

「うわぁっ」


 間近ではよく耳にしていたが、洞窟型のダンジョン内で響き渡ると、こんな風に聞こえるのか。腹を揺さぶるような重低音。この声は、心の弱い人間が聞けば震えあがること間違いなしだ。

 ダンジョンに入る覚悟を決めた初心者の、心を折るに適している。これは確かに問題児だな。協会がそう呼ぶのもわかる気がする。


「そうか、湧いたのか」


 『運』が良いのか悪いのか、たまたまゴブリンだけを100匹狩って、たまたま低確率なソレを引き当てた奴がいる、と。

 そしてこの様子、何度目かの叫びのようだな。周囲は軽い恐慌状態だ。


 そしてコイツが叫ぶという事は、誰かが追われている可能性が高い。湧かせた本人か、はたまた偶然巻き込まれた被害者か。


「ご主人様、あちらの方角です」

「俺もマップでも確認した。助けに行くぞ」

「流石旦那様ですわ!」

「『迅速Ⅱ』発動」


 マップで最短ルートを辿り、道中のゴブリンは切り捨てて行く。今回はアイラもアイテムを拾わずに並走してきてくれた。


『グオオッ!』

「う、うわあああっ!!」

「見つけた!」


『ギィン!!』


 丁度ホブゴブリンが、青年に大剣を振り下ろそうとしている場面だった。すんでの所で奴の大剣に差し込み、激しい金属音と共に、勢いのまま振り飛ばす。


『グオオッ!?』

「黙ってろ」


『斬ッ!』


 起き上がろうとしていたところにトドメを刺し、奴の身体から煙が出た。


【レベルアップ】

【レベルが1から15に上昇しました】


 ここの『ホブゴブリン』はレベルが低い分煙が短かった記憶がある。確か、5分だったな。次が出るかもしれない。

 早めに彼をここから離さなければ。


「君、大丈夫か」

「は、はいっ! ありがとうございま、うぐっ」


 青年は、身をよじると同時に顔を歪めた。

 見れば、彼の身体はあちこち切り傷があり、右腕は大きく腫れ上がっている。骨折でもしたのか。


「怪我をしているのか。アヤネ、頼めるか」

「お任せくださいですわっ。……『ヒール』!」


 アヤネの手から眩い光が溢れ出し、青年の身体を包む。そして光が収まると、切り傷も腫れも完全になくなっていた。


「ほぉ、凄いな……」

「これは『回復魔法』……! あ、あの、ありがとうございます! お代は……」

「結構ですわ。旦那様の指示でしたが、わたくし、重傷者を放っておけない性質ですの」

「ですが」


 お礼をしたい気持ちもわかるが、この問答は


「君、それよりも一旦ここを離れたほうが良い。ここはダンジョンの奥であり、安全地帯ではない。それと、今後進む時は、行き止まり方向には気を付けるんだぞ」

「は、はいっ!」

「アヤネ、アイラ。念のため、彼の護送を頼む」


 そう言って俺は奴から出る煙を指した。2人はそれで何を言いたいのかを把握してくれたようで、青年を連れて離れて行く。

 おっと、これだけは言わないと。


「ああ、君! ドロップは貰って構わないか?」

「はい、構いません。討伐したのはあなたですから!」


 そう言って、青年を見送る事1分。奴の煙は……完全に霧散した。

 どうやら出なかったようだ。『運』が良いのか悪いのか。……良いのかもな。不特定多数のギャラリーが発生しかねないこの場所で、レアの次と戦うのは得策ではない。


 ……というか、第一層の『ホブゴブリン』を倒したんだから、第二層の『ホブゴブリン』制覇って、条件リセットされてないかな?

 ……可能性はあるよな。まあ、人助けは優先するべきだし、これは必要な事だろう。それに、検証にもちょうどいい。午前とは逆回りで制覇していくか。


 案の定、全アイテムがドロップしたのを確認し、中央のルートへと戻りながら思案を進める。ドロップに関しても、先ほどの青年も戦っていたのだから、トドメを刺した人間の『運』が優先される可能性が出てきたな。100匹チャレンジが、チームメンバーが討伐したモンスターも対象になるかも含めて、検証していくか。

 もし参加したチームメンバーに関係なく、トドメがドロップやレアモンスター出現に直結するのなら、2人に経験値を与えても良いだろうしな。

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今日も2話です。(2/2)

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