ガチャ052回目:過去を振り返って
「あー、しかしビビったな。2人がまさか生粋のお嬢様だったなんて」
2人が協会本部局長の孫娘か……。
支部長から衝撃の言葉を受けてから数時間後、家へと誘う2人に断りを入れ、俺は今自宅へと戻って来ていた。
マキは元々育ちの良さは感じてたけど、アキがなぁ……。そう思ってたら、アキも自覚があるのか、口を尖らせていたのは可愛らしかったが。
「久々の我が家だけど……やっぱり不便だよな」
なんだかんだで3日ぶりだけど、正直ここも引き払おうかと考えていた。
なぜならここからの最寄りダンジョンは『アンラッキーホール』なのであって、初心者ダンジョンではないのだ。むしろ、徒歩だと1時間近くもかかるので、割と遠い。
アキはああ見えて車の運転が出来るから、それで通勤してるみたいだったけど、電車の俺は毎回それなりに時間がかかっている。
ハッキリ言って、微妙に面倒なのである。
ここに住むと決めた理由も、『アンラッキーホール』に近くて家賃が安い。というだけであって、特に愛着は無い。なんなら、ダンジョンが出現した事で一度賑わいを見せたが、実情が知れ渡り、今ではほぼゴーストタウンとなっている。
元々この建物は、冒険者用にリフォームされたものではあるんだが、上記のこともあって、この土地の価格は大暴落。もはや投げ売りのような状態になっていた。
当時、冒険者になりたての、ゴブリンにすら苦戦していた俺は、『アンラッキーホール』のスライムなら安定して勝てると知った。俺がここに住もうとしていたのも、丁度家賃が下がりに下がった時だったと思う。
あの頃は、本当に1ヵ月の稼ぎでギリギリだったと思う。1日10個……2000円の稼ぎに対して、家賃光熱費合わせて4万。毎日入る事でようやく食費もなんとかなるような状態だった。
レベルアップによる最初の『SP』は『腕力』に割り振った物の、結局スライム相手にはあまり意味がない事を理解した。だから、一点の可能性に賭けて、誰もが見捨てた『運』を上げ始めた。しかし俺の『SP』はたったの2。1度や2度のレベルアップでは、大した違いを感じられなかった。
それでも、1か月後。5レベル分の『SP』を『運』へと注ぎ込んだ辺りで、ようやく明確に、1日の稼ぎに変化を感じた。
1日で、40個の『極小魔石』が取れるようになっていたのだ。
それは『運』が上がった事によるドロップ率の上昇と、レベルアップにより微々たる速度で成長していたステータスにより、狩りの効率が捗った為だ。そうして、1日に100匹狩れるのが当たり前になった頃、アイツに出会ったんだ。
最初のレアモンスター、『水色スライム』に。
最初の頃は何かの見間違いかと思った。
元の青色スライムに酷似していたアイツは、変わった行動をするでもなく、倒してもたまに『極小魔石』を落とす為、特別な存在には思えなかった。けれど、スライムを倒す以外にすることが無かった俺は、出現する条件を考え続けた。
スライムを狩って狩って狩って狩って。
狩って狩って狩り続けた。
そうして幾度となく倒す内に、今度は『水色スライム』の死んだ煙から、『緑色スライム』が現れた。
その頃には、出現の条件も理解し始めていた。100匹連続で討伐した際に、確率で湧くのだと。
そこからは、ただひたすらに先を求めて狩り続けた。微々たる量しか入らない経験値で、なんとかレベルを上げては『運』に割り振り、ドロップ率と出現確率を上げて行く日々。
そして執念の果てに、3年かけて、俺はゴールへと辿り着いたんだ。
今思えば、少し無駄な事をしていたと思う。
だって、1%を割る確率の場合、レアモンスターは湧かない可能性が考えられるんだから。
最初の『水色スライム』は、出現の期待値は『ホブゴブリン』や『マーダーラビット』と同じく1なんだろう。そして最初に、奴が湧いた時の『運』は10程度だった。なら確率も10%だろう。そこから先は期待値が半分ずつ減って行くと仮定して、5%、2.5%、1.25%……。
それを考えれば、あの頃はどんなに頑張っても、4段階目の『紫色スライム』が限度だっただろう。……いや、待てよ? 半分ずつになると仮定した場合、『運』が60では虹の段階で0.9になるな……。
まあ、これらは全て仮説だ。
出現率の低下は半減ずつなどではなく、多少の誤差だってあるかもしれないしな。
「考えが逸れたな。……とにかく、この家にこれからも住み続ける意味は、もうないってことだよな。またいつかスライム達に会いに行って、『レベルガチャ』が成長するか試してみたいところではあるけど……それは今ではない」
となれば、やっぱ引っ越しするべきなんだよな。
持って行きたいものは……特にないな。家具も備え付けの物を使っていたし、大事な物と言えば装備くらいか。『黄金の種』もまだ植えていないし。
アキとマキに相談して、初心者ダンジョンの近くで良い物件を紹介してもらうとするか。
お金はあるし、物件が決まるまでは近くのホテルに泊まれば良いだろう。
ああ、そういえば明日、オークションがあるんだよな。早ければ、明後日にでもなんとかなるか?
この建物は一応、協会の管理下ではあるので、退去や解約の処理も、2人にお願いしよう。
「あ、そうだ」
寝る前に、ガチャを回さないとな。
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今日も2話です。(2/2)
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