無料ガチャ009回目:会議は踊る2【閑話】
「皆、お待たせー!」
「お待たせしました」
通信用ソフトを立ち上げ、カメラに向かって挨拶をする。
アキにとっては一日ぶり。マキにとっては数週間ぶりの会議への参加だった。
『おお、アキちゃん、マキちゃん。今日も可愛いのう!』
『よく来たね。会議はまだ始まっていないから安心しなさい』
『2人ともいらっしゃい。昨日は大変だったらしいわね』
「あたしは大丈夫だよー」
「ご心配ありがとうございます」
そう返事をした後も、彼女達をもてなそうと大人達がやいのやいのと声をかけて行く。本来の2人なら、聖徳太子並みに聞き分けを行い、そつなく応対していくのだが、今日は心ここに在らずと言った様子で、声を掛けられても上の空だった。
彼らはその事情を知る由もないが、ショウタからの告白を受け、2人は今や天にも昇るような心地だった。会議に遅れそうになったのも、設定していたアラームが鳴るまで、ぼーっと過ごしていたからである。
「あうぅ。姉さん、今日は出前を頼もっか。今の私、ご飯を作れる余裕がないよ」
「ん、分かった。でも明日は早起きしよ? ショウタ君にお弁当作ってあげなくちゃ」
「うん、そうだね。しっかりしなきゃっ」
「はぁ……それにしても今日のショウタ君、一段と格好良くなかった?」
「うん。思い出すだけで、胸がドキドキしちゃう」
「にひ。あたしも~」
そんな惚気た会話を、
そこに、最後の面々が遅れてやって来た。
『ごめんなさい、待たせたかしら』
『お、お待たせしましたー!』
『間に合いましたかね。……いえ、どうやら重要な何かを見逃してしまったようですね』
初心者ダンジョンの支部長ミキと、ハートダンジョンの支部長ヨウコ、そして日本ダンジョン協会第一本部局長の3名だった。彼らは会議の空気と、それに気付かず惚気る2人を見て、なんとなく状況を察するのだった。
『アキ、マキ。その辺にしておきなさい』
「はぇ? お母さん、いつのまに」
『惚気るのはいいけど、マイクの電源は切るようになさいね』
「「……ッ!?」」
現状に気付き、顔を真っ赤にさせる2人を無視して、ミキは舵を取った。
周囲の者達は、親バカのミキが淡々としている様子に驚きつつも、気持ちを切り替える。
『では、本日の会議を始めさせていただきます。議題は引き続き、先日発見された、無意味と思われていたスキルの重複取得の件。それから、収拾がついたハートダンジョンの件になります』
ミキは端末を操作し、資料を各々へと送った。
そこには各スキルの詳細が載っており、元々あったデータを元に、全てショウタが自身で再検証したものだった。
・怪力:効果時間1分00秒 再使用10分。効果中腕力2倍。
・怪力Ⅱ:効果時間1分30秒 再使用9分。効果中腕力約2.2倍。
・迅速:効果中3倍の速度で動けるようになる。走り続けるとさらに加速する事も可能。上限速度5倍。しかし、知覚する為に相応の『知力』と、負担に耐えうるための『頑丈』がないと身体に悪影響が出る。
・迅速Ⅱ:効果中約3.2倍の速度で動けるようになる。走り続けるとさらに加速する事も可能。上限速度約5.2倍。しかし、知覚する為に相応の『知力』と、負担に耐えうるための『頑丈』がないと身体に悪影響が出る。
『ほとんどは昨日送らせて頂いた資料と同じですが、ここに新たな発見がありました。長年謎に包まれていた『鑑定Lv5』の効果です。スキルの重複取得をしている冒険者を見たときにだけ、現在重複取得している数と、次のレベルアップまでに必要な個数。その2点が見れるようになっていたのです』
『ほぉ……』
『かなり有益な情報ね。それがあれば、重複で使用した事に対する真実味が増すわ』
新たな活用方法に複数の者が好意的に受け止めたが、ミキの発言に問うように、1人の男が手を上げる。会議では『ご老公』と呼ばれる、上級ダンジョンの支部長を務めている人物だ。
『どうぞ』
『うむ。ミキちゃんや、それは君自身の目で確かめた。ということで良いのかね?』
『はい。最初にこのスキルを発見した者に使った所、判明しました』
『それほどに大量にスキルを得られる者が、ミキちゃんのところにいる訳か。先日の『怪力』の件、そして資料にある『怪力Ⅱ』『迅速Ⅱ』。更には明日に出品予定とある大量のスキルオーブ。今まで表には出てこなかった人物が、活動を始めたという事じゃな』
『……』
ミキはこれに対し、沈黙を選択した。
『沈黙は是と認めるぞい?』
『ご老公。今回の件、局長からは追及を止められていたではありませんか』
『あれは、ワシらが直接そやつに手を出すなという事じゃろう。なぁに、これはただの確認じゃて。現に局長も、ワシの発言を咎めぬであろう? そう言うおぬしらも、気になっておるのじゃろうに』
『それはそうですが……。アキちゃんの、そしてマキちゃんの大事な人なんだろう? 君たちは良いのかい?』
「うん? そうだねー、おじさんがこういう事を言う時って、大体相手を認めてる時なんだよね。だから、あたしは好きな人が褒められてるのは嬉しいかなー」
「おじ様に認めて貰ってるなんて、とっても誇らしい気持ちです」
『かーっ! この惚れっぷり、こっちまで顔が熱くなるわい! 2人にこんなこと言わせるとは、罪な男じゃのう!! 局長に止められてなければ、直接吟味しに行っておったわ! ……さて、アキちゃんとマキちゃんが1人の男の専属になったことは、もうワシらの耳にも届いとる。その人物が誰なのかもな。じゃがその男、どうにも情報が無い。まるで本当に、今まで人の目に触れなかったかのようで、不思議でならん』
事実、3年間人気のないダンジョンに引きこもっていた男である。彼の成長曲線の悪さを知っているのはアキくらいのものであり、彼女はその詳細を、妹にも伝えてはいなかったのだ。
そしてあのダンジョンから出て行く時には、彼はもう『鑑定妨害』を持っていた。その為、正確な最新情報を、誰1人として手に入れる事は出来ていなかった。
『今後、その男が手にして出品するスキルには要チェックじゃの。連続で出品されては、オークションでも値下がりが発生するじゃろう』
『いえ、今回の重複取得の情報も同時に発表されるわけですから、むしろ供給だけでなく買い手も増えるのではないでしょうか』
『おお、そうじゃったの。一度手に入れて満足していたものが戻ってくるのも考えられるか。『迅速Ⅱ』はデメリットの制御が困難じゃが、『怪力Ⅱ』に関しては素直に効果時間が延び、更には再使用間隔の短縮がある。金だけは余ってる連中は黙っておらんじゃろう』
『そうですね。あとは、明日には新種モンスターがドロップした、全く新しいスキルも出品されるようです。彼の行動には、目が離せませんね』
男性陣が盛り上がる中、今まで笑顔で会議を見守っていた、妖艶な貴婦人が質問を投げかけた。
『ミキ姉さん。……いえ、この場合はアキちゃんとマキちゃんが正しいかしら』
中級ダンジョンを管理する、サクヤ女史だ。姉妹やヨウコにとっては、卒業した学校の大先輩であり、憧れの存在である。
「「は、はいっ」」
『彼に、直接依頼することは可能かしら? オークションを通さずに、スキルを取ってきてほしいという内容の』
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
『ええ』
彼女達は一度了承を取ってマイクをOFFにした。
「どうしよう、マキ」
「どうするって……」
彼女達は渋っていた。出来る事なら、彼には自由に動いてほしかったからだ。スキルオーブの取得は彼自身が強くなることを優先し、余ったものだけを出品してもらえればと。けれど、彼がもっと活躍していくためには、今後は冒険者ランクだけでなく、他の協会とのパイプも必要になって来る。
外交関係も、ショウタから任せられた身としては、ここは恩を売る為にも頷いたほうが良い。しかし、快諾も難しい。
それを思って悩んでいると、2人の母親が助太刀した。
『サクヤ。娘たちに代わってお答えしましょう。スキルの依頼は、こちらが提示しているものの中からであれば、高い確率で確保が出来るかもしれません。ですが、確証はありませんし、それ以外のスキルとなる場合は要相談。となるでしょうね』
『あら、いいのですか? 冒険者さんを通さずに勝手に決めてしまって』
『ええ。こちらから多めに持って帰ってきてほしいと、
2人が話を進める中、姉妹はその提案に衝撃を受けていた。
「ショウタさんにお願い……!」
「あ~ん、その発想はなかった~。誰かを揶揄うときならすぐに浮かんでくるのに、自分の事になると頭働かないよ~」
『お願いをする』。
それは、相手に奉仕し、尽くすことを第一の信条とする姉妹にとっては、思いもよらない選択肢だったらしい。
『……ふふ、構いませんわ。それで、今は何が選べるのかしら』
『今は『怪力』と『迅速』の2つだけですね。これから増えるかどうかは彼次第かと』
サクヤによって、オークションを通さない新たなスキルの入手手段が出来上がったことに、会議は夜通し盛り上がった。その結果、ハートダンジョンの顛末は簡易的な報告に留まり、強化体の詳細はまた翌日へと延期されることになるのであった。
『私、空気だなぁ……。でも、伝達事項に使える『迅速』は欲しいかも……。先輩価格でちょっと安くならないかしら』
ハートダンジョン支部長は、そうぽそりと呟いたが、誰の耳にも届かなかった。
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