ガチャ045回目:規約と想定外
「こちらアマチ、現在Eポイントに接近中。各班、状況報告を」
『こちらA班、異常なし。いつでもどうぞ』
『こちらB班。同じく問題ありません』
『こちらC班。大丈夫です~』
『こちらD班。休憩は短かったですけど、平気ですか?』
『こちらE班。お待ちしております』
うん、大丈夫そうだ。時刻はまもなく午前1時。
俺は仮眠を済ませたけど、彼らは働き詰めなんだよな……。早く休ませてあげたいし、さっさと狩るか。
それにしても、調査員は現役の受付嬢でもあるわけなんだよな。皆、トランシーバー越しでも声が可愛かったり色気があったりと、ちょっとドキドキする。ちょっと元気貰えるな~。
さて、そう思っている内にEポイントに到着だ。
「お待たせしました」
「ご苦労様です。ではアマチさん、この周囲の森で、例の作業をお願い出来ますか?」
「了解」
今の俺の『運』なら、期待値40%ってところか。
そして、新しいスキルの試運転だ!
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、100匹では湧かず、200匹目にして予兆があった。
「予兆発生!」
『『『『『了解』』』』』
さて、どこにいくか……。
おっ……。中央から若干ずれていたからか、偏ってる方向の角に向かってるな。
「C班、そっちに向かった。かなりの速度だ、俺の全力より速い!」
『了解しました~』
討伐位置と出現ポイントとの差で移動速度が変わっていたけど、やはり1分で到着するように設計されているようだ。『迅速Ⅱ』と『身体超強化Lv1』を使っても追いつけない速度で移動している!
「速すぎだろ!!」
一瞬で見失ってしまった。
しかもあの煙、途中の木々を完全に無視してる。実体のない煙だからこそできる芸当だな。
逆に俺は、このスピードであの密集地帯を抜けられる自信はない。少し速度を落としてでも、真っ直ぐ走る事を意識しよう。
『え、駄目ですよ~。やめておきましょ~?』
なんだ? トランシーバーから、C班の調査員の声が聞こえる。
「C班、どうした」
『こちらで、もうレアモンスターの出現を確認しました~。ですが、アマチさんが簡単に倒していくものですから、冒険者さん達がやらせてほしいと~』
「はぁ!? おいおい、優先権は俺にあるんだろ?」
確かに簡単に倒していた。もう既に奴の動きは見切っていたので、わざわざ長期戦をする必要が無いと思った。だから湧いた瞬間に石を投げ、障壁を割ったところを一撃必殺を叩き込む。そうすることで、戦闘時間は10秒もかかっていなかっただろう。
だけどそれで、相手を弱いと断じるのはよろしくない。
『一応規定では、ドロップに優先権がありますけど、討伐権などは設けていませんでした~。ですが、そもそも沸かせたのはアマチさんなので~』
「だよな!?」
調査員の子はその辺りの道理がわかっているようだ。普段の、人が無数にいる時なら優先権の証明は出来ないが、今日この場に限っては、モンスターを倒しているのは俺だけなのだ。俺が湧かせているのは証明済み。規約で約束していないとはいえ、俺が倒すべきところだろう。
そこに、トランシーバーから調査員についてきていた冒険者の声が聞こえた。
『アマチさんよ、悪いがやらせてくれ。もしもの時に備えて、自分達で対処出来るか確認しておきたい。ちゃんとドロップは渡してやるからさ、譲ってくれよ』
「理屈は分かるが……。そういうのは先に話を通しておいてくれ」
『まさか本当に呼び出せるなんて思っても居なくてよ。で、どうだ? 折角の機会なんだ。譲ってくれねえか』
そうは言うがな……。
そもそも、俺以外が倒したところで、ドロップは何もない可能性の方が高い。ボスの経験値も当然入らない。つまり、これじゃあ完全に無駄働きだ。
あぁ、なんか……。急に、馬鹿らしくなってきたな。
今回は、彼らが今後、このダンジョンを運営していくのに苦労すると思って、助けるために協力を申し出たのに……。
まあ俺が、その崩壊の引き金を引いたんだけども。
俺は走るのをやめ、トランシーバーを起動し、気怠げに本部へ連絡する。
このトランシーバー、個別通信ではなく、常にフルオープンだ。なので、他の人達が喋ってる間は、基本的に皆黙っているだけで、今の会話は全員が聴いている。
「本部。だそうだが?」
『アマチさん、申し訳ありません。うちの冒険者が勝手をしてしまって。ですが、彼らの言い分もわかるんです。もしも緊急時に戦う事になれば、こちらの人員で戦うしかありません。その時に備えて、安全な内にテストをしておきたいんです。今回の件、後日改めてお詫びをさせて頂きますので、どうか最後の1匹、譲って頂けませんか』
ヨウコさんが頭を下げているのを、トランシーバー越しに感じる。
上の人に頭を下げさせてまで、断るわけにはいかないじゃないか。
『はい、借りるよー。……ショウタ君、確かに今回の規約だと、ドロップは君の物だけど挑戦権までは確保できていなかった。こうなることを想定していなかったあたしのミスだ。ごめん』
「……事前説明もなしに盗られたこともそうでしたが、アキを謝らせたことが、今一番ムカついていますよ」
『ショウタ君……!』
「今日は、帰らせてもらいますね」
『うん、お疲れ様。それじゃ、せんぱーい? お詫びの品、期待してますねー?』
『ええ、勉強させてもらうわ……』
話は終わった。トランシーバーからは、各班がCポイントに集まるよう指示が流れているが、もう聞く必要はないだろう。そう思っていると、トランシーバーから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
『……チさん、アマチさん~!』
「……ん? C班の子かな?」
『はい~。こ、こんなこと言えた義理じゃないんですけど~』
「なに?」
ぶっきらぼうに返答すると、そこから想定外の言葉が聞こえてきた。
『死にたくないので助けてください~!』
「……なんで? 君のとこの冒険者達が倒すんだろ?」
『このレアモンスター、1回目に見た時とは、ステータスは違うしスキルも増えてるみたいなんです~!』
「な、なんだって!?」
見た目は同じで、けど強化されていてスキルが増えてる?
なぜだ? レアモンスターからレアモンスターが生まれたわけではない。俺は今回も、いつものように湧かせただけだ。なら、何がトリガーになった?
まず、
あとは、
途中で日付は変わっているのに、強化されたモンスターが出てきたことから加味して、制覇後24時間制限とかか。それとも一定時間内に5体撃破が条件か。または、今後俺が湧かせれば必ず強化体が出てくるのか。最悪の場合は、今まで出なかっただけで、最初から確率で出るのか……。
考え出したらキリが無い。だが、直接見ずに、どうするってんだ!
「C班! 俺が行くまで手を出すな! 後日また1匹出してやるからそれまで我慢しろ!」
『皆さん、構いませんよね~?』
調査員の近くにいるのだろう。冒険者達の声をトランシーバーが拾った。
『……カナタちゃんは、俺達じゃ勝てないと思うのか?』
『普通のレアモンスターならなんとかなると思いますよ~? ただ、こっちのは……死ぬと思います~』
『そうか……。わかった、アマチさんよ、何度も悪いな。まだ手を出してねえから、急いで来てくれや』
「ああ、待ってろ!」
予想外の展開だが、これは楽しめそうだ!
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この度「小説家になろう」にて、ローファンタジー月間1位の栄誉を賜ったので、
今日も3話です(1/3)。明日から2話に戻します。
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