ガチャ037回目:激渋は屈辱の味

「アキ、手伝うよ」

「ごめーん、遅れちゃって」

「いや、俺も途中から『迅速Ⅱ』を使った高速戦闘が楽しくなっちゃって、ついつい止めどころを失っちゃった」


 俺は今、ドロップ品を拾い集めているアキに、こちらで回収したアイテムを手渡した。

 予定していた森を1つ多く殲滅してしまい、結局4つの森がアイテムまみれになってしまっていた。幸い、ここはマップの端っこ。近くにいるのは俺達3人だけで、他の人影は無かったので盗まれる心配はない。

 そして討伐した綿毛虫の数は93匹。1つの森に20ちょいずつ生息しているらしく、もう少しで目的の100匹に到達出来そうだった。


 しかし、予想外な事が2つ。まず1つは、どうやらこの綿毛虫、スライムよりも経験値が低いらしい。これだけ倒しても俺のレベルは上がらなかった。こっちはたったのレベル8なのに。

 そして意外な点2つ目。『綿毛虫の玉糸』が確定ドロップはしなかったという事だ。一般的なドロップから見て、その可能性は考えていたが、それでもショックは大きい。今のところ、獲得率8割。

 これだけの『運』があって、それでも100%じゃないなんて……。


 このアイテムの基礎ドロップ値は、0.1~0.2くらいなのかもしれない。これは確かに激渋だ。


「これで全部かな」

「うん。『極小魔石』がきっかり93個。『綿毛虫の玉糸』が75個。大戦果よ」

「お、最初の森で再出現が始まった。アキ、ちょっとマキを呼んで来てくれる?」

「良いわよ。何するの?」

「ちょっとレアモンスターの出現実験を」

「はぁ、あんたも好きねぇ。良いわよ、あたし達はちょっと離れたところで見ていてあげるから」


 そうして再出現した綿毛虫を6匹狩り、ドロップアイテムを一度アキに預けてから合図をする。

 2人からハンドサインを貰ったので、100匹目の綿毛虫を討伐した。


「さあ、来い!」


 しかし、俺の願いは届かず、綿毛虫の煙は膨れ上がることなく霧散して行った。


「!?」


 初めての、レアモンスター出現失敗に、俺は困惑を隠せなかった。


 まず俺は、真っ先に数え間違いを疑った。

 でも、討伐数も、ドロップしていた『極小魔石』も、2人で数えたんだから間違えようがないはずだ。


 では、森の中に他人が倒して拾い忘れた『極小魔石』が落ちていた……?

 いや、それもない。2人がいうには、ドロップしたアイテムは30分ほどで、ダンジョンに飲まれて消えて行くらしい。そしてそれはレアモンスターも同様らしい。出現から1時間、敵対者がいない状態が続くと忽然と姿を消すのだとか。代わりに、人間の死体はその場に残るらしいが。

 それが謎の死体の発見へと繋がり、原因究明出来なかった原因だろう。


 ……つまりは、レアモンスターの出現に

 という事だろう。


 2人の下へ戻ると、俺の元気がない事を察したのだろう。

 何も言わずに寄り添ってくれた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「落ち着きましたか?」

「……ああ。ありがとう」

「うん。顔色も戻って来たね。それじゃ、元気が出ることしましょ」

「?」

「もう、忘れたのショウタ君、お弁当よお弁当!」

「あれ、もうそんな時間?」


 そういえば、確かにお腹が減ってきた。


「シートを広げますね」

「ショウタ君はそこに座ってー」


 2人にされるがままにしていると、いつの間にか食事の準備が整っていた。

 そんなに落ち込んでたかな。でも、彼女達の気遣いは助かった。おかげで前向きに考えられる。


 2人に甲斐甲斐しく世話をされながら、改めて考察する。今回、レアモンスターが出なかった理由だ。


 1:『運』が足りず、確定出現では無かった。

 これは、スライムの件を考えれば十分あり得る話だった。ただでさえ通常ドロップのアイテムですらこのドロップ率なんだ。レアモンスターの出現率も同様に極小確率である可能性は否めない。


 2:ここにレアモンスターがいない。

 これも考えられる。そもそも、俺が知っているダンジョンはここを含めてもたった3つしかない。それに比べ、世界には1000ほどのダンジョンが確認されているのだ。

 そんな中で、2つのダンジョンでしか検証できていないレアモンスター出現の法則を、他のダンジョンでも当てはまるなど、断言するのは難しい。

 ここは、人間に殺意を持つモンスターがいないという珍しい階層なのだ。その仮定は否定できない。


 3:100連討伐による方法以外に、レアモンスターの出現条件がある。

 これも考えられる。けど、これを追い求めるにはまずこの第一層全ての情報が必要だ。試すにも、時間がかかる。だからまずは1を再検証し、それでも出なければ後日改めて3で検証すればいい。


「やっぱりあたし、ダンジョンの事考えてるショウタ君の顔が好きだなー」

「ふふ、私も」

「似たもの姉妹ね、あたし達」

「今までもそうだったじゃない。姉さん、好きなものが同じ時は?」

「仲良く分け合う、よね」

「ええ」


 2人の会話も、熱を帯びた視線も気付くことなく、俺は黙々と食べながら、この後の検証について思案を巡らせた 

 そして10分後。お弁当を平らげた俺は、お茶を飲む。


「ふぅ」

「ショウタさん、この後どうしますか? 手伝いが必要なら力をお貸ししますし、お邪魔であれば協会に戻っています」

「あたしもなんでもするわ。言ってみて」

「え? そうだな……。とりあえず俺は、あと2~300匹は狩ろうかなと思う。再出現の速度も余裕があるみたいだし、ドロップの回収、2人にお願いできる?」

「任せてください」

「任せて」


 2人は今日、徹底的に付き合ってくれるみたいだ。

 それなら俺は、後ろは2人に任せて、狩って狩って狩りまくってやる!!

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今日は2話です(2/2)

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