ガチャ038回目:伝説の1ページ

「これで299! ……ふぅー」


 一旦落ち着くために後ろを振り返る。すると、回収と供給のバランスが釣り合っていなかったようで、そこかしこにアイテムが散らばっていた。


「ああ、やりすぎちゃったな」


 マップを見れば、2つ前の森の中で、2つの白丸が忙しなく動いていた。まだその森では、周囲には綿毛虫の再出現は発生していないみたいだし、大丈夫そうだ。事前に、移動する森のルートは知らせておいたから、合流を目指しつつ俺もアイテム回収をしよう。


 そうして数十個のアイテムを抱えながら姉妹と合流を果たした俺は、急に現実を思い出した。彼女達に持たせた俺のリュックと、持参して来ていた鞄が、ドロップしていたアイテムでパンパンに膨らんでいたからだ。不意に申し訳ない気持ちになってきた。

 俺のワガママに、ここまで付き合わせる事になった事が、目に見える量となって俺の良心をグサグサと突き刺してきた。


「ふふ、ショウタさん、そんな顔しないでください。私、これでも楽しんでるんですよ?」

「そうよ。あたし、改めて実感したわ。毎回ドロップするって良い事だと思ってたけど、毎回拾い集めようとすると、こんなに大変な作業だったんだなーって。そりゃ、魔石もスルーするわけよ」


 2人の優しさが沁みる……。


「やはり運び屋は雇った方が良いと思います。ショウタさんの足について行けて、秘密も守れる高レベルな……。でないと、魔石以外の高額な副産物が出た場合、毎回足を止める事になりますし、それではショウタさんの効率が落ちてしまいます」


 それはまあ、懸念はしてるんだけど……。

 でも正直言うと、俺はダンジョンでお金を稼ぎたいわけじゃなくて、色んな秘密を暴きたいんだよね。まとまったお金は余ったスキルオーブで何とかなると思うし……。


「んー……」


 けど納品しただけ、協会から見て、姉妹の評価が上がるんだよね。

 魔石が一番評価の割合が高くなってるんだけど、スキルオーブや副産物でも納品しただけ評価が上がると思っている。こういう評価システムは大抵、複数の評価のバランスだと思う。スキルオーブだけやたらと卸してくれる冒険者と繋がっているよりも、全体的にバランスよく、色んなものを高スパンで取って来てくれる冒険者の方が喜ばれるだろう。

 実情は知らないけど、俺だったらそう思うし、


 だから出来る事なら、魔石も拾って渡していきたいんだけど……。今となっては凄い手間がかかるんだよな。


「問題は秘密をどうするかなんだよなぁ……」


 特にガチャ。これは2人にも伝えれていない。


「こういう平和なダンジョンなら、あたし達が日替わりで付き合ってあげても良いんだけど」

「通常のダンジョンとなると、私は足手まといです」

「「「うーん」」」


 けど、いくら考えてもそんな都合の良い人材が思い浮かぶでもなく。


「とりあえず、これを考えるのは後にしよう。今日は次の1匹をラストにしようと思う」

「わかりました」

「おっけー。あ、じゃあそこに都合よく出て来てるじゃん」


 よし、これで出なくても今日は終わりにしよう。

 そう考えて、俺は慣れた手つきで綿毛虫を2つに分離させた。


 すると……。


「出た!!」


 綿毛虫の死体から、モクモクと煙が現れた。普通の場合は、出た先から霧散していくが、レアモンスターの煙は霧散しない。


『カシャ! カシャ!』


 背後からシャッター音が聞こえる。レアモンスター出現の兆候として証拠を収めるために、俺がマキにお願いしていたのだ。


「ショウタさん、一応撮りましたけど……。煙、というのはよく見えないですね」

「え? 綿毛虫の色合いの煙、出てない?」

「はい……」

「あたしにも、薄っすらとしか見えないわ。まるで蜃気楼みたいに揺らいで見える程度よ。ショウタ君には色付きで見えてるの?」

「そうだけど……」


 なんだ? なぜこれが見えない。まさか、煙を見るのにも条件があるのか?

 気にはなるが、この検証は後回しだ。煙の挙動がどうもおかしい。『ホブゴブリン』と『マーダーラビット』の場合は空中に浮かび上がったが、今回は地面の上で粘土をこねるように膨張していく。元が芋虫だからか?

 そしてその煙は、小さな綿毛虫のようなフォルムへと変化すると、子供が走るくらいの速度で、森の方へと向かっていった。


「俺は追う! 道中のモンスターはいなくなるはずだけど、様子を見ながら来てくれ!」


 返事を聞かずに奥へと向かう。煙の向かう先は、やはりマップ角の森。実はここがレアモンスター出現場所じゃないかと睨んでいた。なぜなら、マップ角であることに加えて、一番奥の部分は何もない広場になっていたからだ。


 地図を見れば、角の森に再出現した綿毛虫達が、本来の数倍の速度で外へと散っていく。アキとマキは、ゆっくりとだがこっちに向かってきているようだ。

 危険そうなら叫んで逃がそうと思うが……今のところ、その必要はないと感じている。俺の『直感』がそういうのなら、大丈夫なのか? だが、確証が無いのも事実。あの時のように甘く考えず、最悪を考えつつ行動しよう。


「勝てそうになければ、人を近づけず1時間放置してれば良いんだしな!」


 煙と並走しつつ、奥へと辿り着く。

 そして俺は広場の端で待機しつつ、中身が出てくるのを待った。


 煙は到着するとすぐに、綿毛虫よりも巨大な物へと膨張していった。しかし形状は綿毛虫のまま。

 このまま推移するとなれば、出てくる相手も、同じ見た目になるんだろうか……。


 ズルリ……。


 煙の中から、1体の虫が現れる。その姿は、綿毛虫とは似ても似つかないものだ。

 全長4メートル、高さ2メートルの超巨大芋虫だった。

 そして何よりの特徴として、その全身は黄金色に輝いていた。更に、身体の周囲に薄っすらとした膜が見える。アレはなんだ……?


 それにしても、綿毛虫のレアモンスターなのに、身体に綿毛らしきものは一切ない。関係してるのは虫の要素だけとはな……。


*****

名前:黄金蟲

レベル:18


装備:なし

スキル:金剛力、金剛壁、金剛外装

ドロップ:黄金の種、黄金の盃

魔石:大

*****


「スキルもアイテムも金、金、金。これはまさしくレア……。いや、激レアモンスターだな」


 しかしスキル3つ持ちだなんて、初めて見たぞ。

 レベルは『マーダーラビット』より下だが、奴は『俊敏』特化型だった。対して『ホブゴブリン』は『腕力』特化型。となればこいつは、スキルの組み合わせからして『腕力』と『頑丈』寄りか……? レベルは低いが、魔石の大きさは今まで見た事のない『大魔石』だ。油断はできない。

 動き出さなきゃ強さは分からないが、見る限りこいつも、攻撃しなければ動かないタイプなのか? なら、しばらくは安全かもな。


 マップを見れば、俺が視認できるはずの位置に2人の反応があった。

 こいつから目を離さずに、2人にハンドサインを送る。


 もし仮に、2人が近付く事で動いたとしても、黄金の身体はかなりの重量がある。動きはトロそうだし逃げる時間は十分ある。それに、最悪俺が2人を抱えて『迅速Ⅱ』で距離を取ってしまえばいい。

 そう考えていると、2人が息を飲むのを背中で感じた。


「マキ、こいつの情報はあるか」

「……い、今まで見たことがありません。このモンスター、動かないんですか?」

「元となったモンスターの特性を引き継いでいる可能性がある。今のうちに記録を」

「は、はい。しゃ、写真を撮りますね」


 そっちはマキに任せ、アキには確認しておきたいことがある。


「アキ、こいつのステータスは視れるか」

「ええ。スキルの名称から察してるでしょうけど『腕力』と『頑丈』が飛びぬけて高いわ。このレベルで250超えのステータスなんて見たことが無い。反面、『器用』と『俊敏』は雀の涙。20前後よ」

「極端だな。逃げる事は容易だが、近接戦闘が困難なタイプか」

「……やるの?」

「当然。……ところで、スキルは全部既知の物か?」

「3つ中2つはそうね。『金剛力』は『腕力』の。『金剛壁』は『頑丈』の上昇系スキルよ。ただ、通常の『怪力』系統なんかとは別のスキルっぽくて、効果はいまいち不明なの。けど、かなり強力って話は聞いた事ある。そして『金剛外装』は全く知らない。完全に未知のスキルね」

「了解」


 支部長の権限を持つアキが知らないのなら、まず情報は無いと見て良いだろう。

 となれば、あの光る膜が『金剛外装』なのか?


「ショウタ君、あのステータスは脅威だわ。頑丈な身体を活かした体当たりには気を付けるのよ。あたし達は、ギリギリ見れる距離から見守ってるから、安心して戦いなさい」


 頷くと、マキの方も作業は終わったようだ。


「記録、完了しました。ショウタさん、ご武運を」

「勝利を祈ってるわ」


 アキとマキに挟まれるようにして、2人から頬に口付けが贈られた。

 これは滾る。


「……女神の加護を貰った以上、勝つ以外に選択肢はないな」


 さあ、やろうか!

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今日は2話です(1/2)

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