ガチャ036回目:激渋?関係ないね
ハートダンジョン第一階層。
3人で、風景を楽しみながら歩く事約半刻。森を避けるようにぐねぐねと歩き、ようやくマップの隅へと到着した。
ここの第一層は、初心者ダンジョンの第二層と同じように、四方を切り立った崖のような物で囲われている。そして鬱蒼と茂る森がそこかしこにあり、中は見える範囲だけでも、モンスターを表す赤点がひしめいていた。
どうやらこの辺りは、花畑の面積が比較的狭く、森が多く分布しているようで、カップルからは不人気のようだった。人を表す白点は、まるで見当たらない。
「ここのモンスターって、森にしかいないんだっけ?」
「そのようです、時折花畑まで出てくる個体もいるようですが……」
「それでも、触れなきゃ無害って事で、護衛はカップルの進路上に現れない限り、滅多に倒さないらしいわ」
そう話していると、目の前の森から1匹のモンスターが出てきた。名前は綿毛虫。全長50センチ、高さは30センチほど。
名前からして毛虫のように思えて紛らわしいが、綿毛を纏った緑色の芋虫のようだ。
これは所謂、キモカワイイってやつかな?
そう言えば、協会内部の売店に、こいつのぬいぐるみが売っていた気がする。
*****
名前:綿毛虫
レベル:6
装備:なし
スキル:なし
ドロップ:綿毛虫の玉糸
魔石:極小
*****
『鑑定Lv3』になったことで、ドロップアイテムも見れるようになったんだな。
それにしても『綿毛虫の玉糸』かぁ。アイテムになった時のモコモコ具合が気になるな。
「おー、モコモコしてる」
「わぁ、可愛いっ!」
「これがこの第一層に現れるモンスターよ。見た目の愛くるしさから、一緒に写真を撮ろうとするカップルもいるみたい。その場合、別料金がかかるみたいね。もし触りでもしたら、即座に戦闘になるから」
「それは、大変そうだ」
なんでも、事前に高い金額を払ったカップルだけに、写真撮影の許可が降りるらしい。けどダンジョン内で気が変わったとしても、許可は降りないらしい。それは、対応できる冒険者が少ないということと、事前に『命の保証は出来ない事に了承する』という契約書にサインをしないといけないからだとか。
ここの冒険者達は、本当に大変そうだ……。
「あと、見た目の愛くるしさもあって、無害な位置の綿毛虫を討伐しようもんなら、カップル達からブーイングが起きるらしいわ」
「大変だな……」
もうそれしか思えない。
冒険者なのに狩りをしちゃだめとか、辛すぎる。
でもこのアイテムが良いものでなければ、そもそも率先して狩る必要も無い訳だけど……。2人なら知ってるかな?
「『綿毛虫の玉糸』ってどんなの?」
「それはねー……って、あれ? ショウタ君の『鑑定』のレベルって、2だったんじゃ……」
同じく『鑑定』していたアキが不思議そうに聞いてきた。
そういえば、前に伝えたときは2だったっけ。
「今は3だから」
「えぇー……?」
「ではショウタさん、私がお答えしますねっ! まず『綿毛虫の玉糸』はこの綿毛虫が稀に落とすアイテムです。相場は確か1個3万だったと思います」
「え、高っ!? 弱いモンスターだから、それならもっと乱獲されてもよさそうなのに……あ、怒られるんだっけ」
それでも売値がハッキリしているという事は……あれだな。時たま市場に流れているという事だ。
目撃されない位置で狩れば問題はないのか。例えば、こんな隅っことか。
「それもありますが、そもそも、ドロップするのが本当に稀だからのようです。毎日数十匹倒しても、1週間に1度くらいしかお目に掛れないんだとか。ですが、その糸はダンジョンの性質が備わった天然物ということで、高額で取引されています。また、ばら売りよりもまとめて売った方が値が上がるそうですね」
「ふーん」
それって『運』が454もある俺が狩ったら、どうなるんだろう。
一般的な冒険者の『運』は、一度も『SP』を振っていなければ5~10だ。そんな彼らが、100匹に1個程度でしか落とさない割合なら、俺の場合2回に1回は落とすだろう。
俺の今までの経験上、アイテムがどれくらいの確率でドロップするかは、アイテムごとに設定された基礎値に、討伐した人間の『運』の数値を掛け合わせたものだと思っている。
だから、基礎値が10もあった場合、『運』が1なら10%。『運』が10なら100%でドロップする。
そこから考えたところ、『極小魔石』は基礎値が1なんだと思う。その為一般的な冒険者は、『運』が5~10しかないだろうから、10匹から20匹倒してやっと1個獲得できるんじゃないかな。まあこれは期待値だから、多少のブレはあるだろうけど。
そして俺の場合は、『運』が100を超えた段階から、確定ドロップになっているのだ。
いまのところ、レアモンスターの出現も、スキルオーブのドロップも100%だが、これも今の数値であれば今後も確定とは限らない。本当は100%などではなく、
『虹色スライム』の例がある以上、『運』は今後も上げて行かなきゃいけない。
「ショウタさん、普段のように狩ってもらっていいですか?」
「良いの? あれ、可愛いって気に入ってたけど」
「あれはペットや小動物ではなく、モンスターですから」
流石マキ。一般人とは違って、しっかりモンスターだからと、あっさり割り切れるらしい。
まあ、俺も狩る気満々だったけどね。
「それじゃ、遠慮なく」
そう言って腰に巻き付けていた剣を、鞘袋から取り出す。流石に街中や電車で、剣を剥き出しにして持ち歩くわけにはいかない為、カバーをしていた。
当然この鞘袋も工房の特別製で、強烈な切れ味を誇る『御霊』に対しても、簡単には貫けないようになっている。
まあ、『怪力』を使ってまでぶった斬ろうとすればイケるだろうけどね。この高性能な布袋も、あの高額な料金の内の1つと言う訳だ。
鞘袋をリュックにしまい、剣を片手に綿毛虫に近付く。
3メートルまで接近しても、戦う意志は無いらしい。攻撃の意思がないのか、こちらを見向きもしない。普段ゴブリンやキラーラビットを相手にしているのと同じように、さっくりと斬り払った。
綿毛虫は呆気なく2つに分断され、煙となって消えていった。
後に残ったのは、『極小魔石』と『綿毛虫の玉糸』。ちゃんとドロップしたみたいだな。
「落ちたよ」
「すごく鮮やかでした!」
「ショウタ君、日に日に強くなっていってるわね。もう完全に初心者の域超えちゃってるでしょ」
「でも、相手が完全に無抵抗だったからね。これくらいなら、誰でもできるって」
持ち上げられるのは悪くないが、カカシ相手に凄いも何もないと思う。2人にドロップを見せると楽しそうに笑った。それにしても、誰かと一緒にいるダンジョンは新鮮だな。
今後も誰かとチームは組んだりは出来そうにないけど、こうやってゆっくりと時間が進む狩りも、悪くないかな。
でも結局、俺って生き物は、自分本位の人間なんだろう。
せっかく2人からデートに誘ってもらったのに、もう俺は残りの99匹を狩る事に、思考が向いてしまっていた。我ながら最低だと思う。
「ショウタさん」
「マキ?」
「行ってきて良いですよ。狩りたいんですよね、綿毛虫」
「けど……」
「あたし達の事は気にしないで。ここに誘ったのも、本当は戦ってるショウタ君を間近で見たかっただけだもん」
「はい。私達はここでショウタさんの戦いを見守っていますから。御存分に」
「……わかった、ありがとう。じゃあとりあえず、こことここと、あとここの綿毛虫を殲滅してくる。アキには悪いけど、リュックを渡しておくからドロップの回収をお願いしていいかな」
「おっけー。任せなさい」
「私はここで待機していますので、疲れたらいつでも休みに来てくださいね」
俺のワガママに付き合ってくれるなんて、彼女達は本当に良い人達だな。俺の為に、このダンジョンに息抜きへ連れて来てくれたんだ。昨日の『迅速』で、彼女達への借金はその内返済されるだろうし、今度こそ何か、ちゃんとお礼をしないとな。
いや、そんなことより早く告白してちゃんと想いを伝えるべきなんだが……。明らかに今の空気は、それのタイミングではなくなってしまった。
それもまあ、大部分で俺のせいなんだけど……。
とりあえず今は、目の前のフィールドに集中しよう。告白を考えるのは後だ。
「今度のフィールドは森か」
林とは木の密集度は段違い。更に林では、足元が下草に溢れていたけど、こっちでは巨大な木の根が足元を這っている。足を取られれば盛大に隙を晒す事になるだろう。
まずは森に慣れるために、ダッシュしながら1つ目の森を制圧。2番目からは『迅速Ⅱ』を弱めに使い、徐々にスピードを上げて行ってみよう。
さあ、狩りの時間だ!!
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今日も2話です(1/2)
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