無料ガチャ003回目:姉妹の報告会2【閑話】

「たっだいまー!」


 ショウタが帰って30分もしない内に、アキが帰宅してきた。

 ビニールにはいつもの如く、缶ビールとおつまみ。仕事終わりに、これと一緒に妹が作った夕食を嗜む。いつものルーティーンだ。


「あ、姉さん……。おかえりなさい」

「マキー、おっつかれー! 今日もうちは暇だったよー。ショウタ君が恋しいなぁ。でも、そのおかげでマキの方はお赤飯だねー!」

「あ、う……」

「あれ?」


 今朝、ショウタ君の方からマキを専属にしたいという話があった。専属の事をよく知らないショウタ君なら、やってくれるんじゃないか。そう期待していたが、期待以上の速さで届いた報告に、電話をもらった時は小躍りしたくらいだった。

 彼がいなくなってまだ2日目なのにも関わらず、寂しさを感じていたけど、その反面マキの近況は喜ばしいものだった。なので、心から祝福するつもりで、いつものように冗談っぽく言ったつもりだったのだが……。妹の反応が何やらおかしい。


 いつもなら冷めた目でツッコミが来るか、スルーされるところなんだけど……。

 めっちゃ照れてる!?


「も、もしかして、マジなの? マキに、先越された!?」

「え? ……あ、ち、違うの姉さん。ショウタさんとはまだ、そこまでの関係には……」

「ま、まだ!? ってことは今朝以上に進んでるじゃん! ちょっとちょっと、何があったか話しなさーい!」


 そうして、アキはあの電話のあとから、何があったのか事細かく妹から説明を受けた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「……そう。ボロボロの状態で戻ってきて、タガが外れちゃったのね」

「うん……。剣は戦いで折れて紛失していたし、怪我は無かったけど防具は泥だらけだったの。それで、心配になって……」


 ダンジョンが出来て10年、高額なスキルオーブや宝を求めて、沢山の人が冒険に出て、戦えない体になって戻ったり、帰らぬ人となってしまった。けど、そんな中でも生き残り、戦い続けている人達がいる。そんな生きた伝説と呼ばれる人達に憧れて、いつか送り出せる側になりたいと思って、あたしもマキもこの仕事を始めた。

 けど、現実はそう甘くなかった。


 マキが受付嬢としてデビューして1年。

 初心者ダンジョンという比較的優しい場所にもかかわらず、この子は冒険者達の死に、何度も立ち会ってしまった。そのせいで心を痛めて、自分を追い詰めるようにまでなってしまっていた。

 ダンジョンはとても怖くて危険な場所なのに、自分達は彼らをお金の為に死地に向かわせているんだと。色々あって受付嬢としての仕事に就いたのに、1年目にして、この子の心は潰れかけていた。


 そんなマキを放っておけなくて、気がまぎれるものはないか探し始めた。けど答えは、すぐ目の前にいたのだ。

 そう、ショウタ君だ。


 彼は『アンラッキーホール』から人がいなくなり始めた頃にフラリとやってきて、そこから毎日顔を合わせた。何も旨味が無いダンジョンとして、沢山の冒険者達が離れていく中で、あいつだけは残り続けてくれた。あたしもあの頃は色々とあって、お母さんの伝手でダンジョンの支部長という肩書を任された。

 けれど、運営をしようにも冒険者は集まるどころかどんどん出て行く。上手く行かない現実に嫌気がさしていたあたしは、いつまで経っても楽しそうなあいつの姿に、たぶん救われたんだと思う。

 あいつは他の冒険者とは違って、ダンジョンを『お金を稼ぐ場所』ではなく『楽しい遊び場』かなにかのように扱っていた。あんな地味で変化のないダンジョンを、毎日楽しく駆け回るような変わり者だった。


 確かにスライムは、遊び半分で倒せる最弱のモンスターだ。

 けど、それを冒険者の仕事として、何年もの間ずっとずっと狩り続けるなんて普通は無理だ。彼がやっているのは苦行そのもの。他の人にやらせたら、あまりに変化のない地味な内容に、気を病んでしまうかもしれない。あたしだって、絶対に真似できないし、したくはない。

 昨日と今日みたいに、暇つぶしに数十体掃除するくらいで十分だ。


 だというのに、彼は毎日笑顔でやってきて、帰るときも笑いながら戻ってくる。しかも、月日を追うごとに、異常な量の討伐報告と魔石を持って帰って来る。

 数日支部を離れる用事が出来てしまい、久々に査定カウンターを再開した時には、溜まりに溜まった『極小魔石』の量に、ひっくり返ったことさえあった。あれはちょっと夢に見るレベルよ。


 そんな彼なら、マキの心にいい刺激を与えられると思った。決して強くはない。むしろスライムと並んで世界最弱と言って良いほど貧弱だった。だけど、ダンジョンをここまで楽しんでるような冒険者は、ショウタ君以外にあたしは知らなかった。

 マキの方も、あたしの熱意にやられたのか、それとも本当に気になっていったのか。いつからか会いたいと言ってくれるようになった。そして長い勧誘の末、ついにショウタ君を誘う事に成功し、マキの笑顔を取り戻せるチャンスが来たと思った。


 だから、支部長権限を使って『専属』と『専属代理人』を急いで指名したんだけど……。


「ショウタ君、いくらマキが可愛いからって、手が早すぎる……! なによ、『俺の『運』があれば、乗り越えられない壁はない』なんて。いつの間にそんなカッコイイセリフを言えるようになったのよ。あたしの事は3年間ノータッチだったくせにー!」

「それは……。姉さん、照れ隠しに距離を置いたり、揶揄ったりするからでしょ」

「ぅっ」

「姉さんもこの前マンガを見て言ってたじゃない。リアルのツンデレ? は伝わりにくいって」

「うぐっ!」

「ショウタさん、ついさっきまでここにいたけど、姉さんに揶揄われるのが嫌で帰っちゃったんだ~。姉さん、避けられてるよね?」

「ぐふうっ! ……う、うわーん! あたしだって、ショウタ君と一緒にいたかったのに~! マキがいじめるよ~!!」

「はいはい、ご飯にするから待っててねー」

「扱いがひどいー!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!


なろうで日間・週間ともに1位をキープしている為、宣言通り今日は4話投稿します(4/4)

の、つもりでしたが。アキ・マキ姉妹の話を1日にまとめようとした結果1話増えました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る