ガチャ021回目:明日へ続く約束を

 俺は今、この数日ガチャを引きまくって成長したステータスを紙に書いて見せていた。勿論レベルは伏せて。さすがにこのステータスでレベル1は信じられないだろうし。……今のマキなら信じてくれるかもしれないけど、ひとまず『レベルガチャ』の存在だけはもうしばらく伏せておくつもりだ。


 なぜかは分からないけど、と感じたからだ。


「これが……ショウタさんのステータス。聞いていたのと全然違いますね」

「それは、やっぱりアキさんから?」

「はい。ショウタさんの事は、2年ほど前からずっと知っていたんですよ。まあ、姉さんが教えてくれる、一方的な物でしたが」

「そ、そうなのか……」


 なんだか恥ずかしいな。

 あの人、一体どういう風に伝えていたんだ?


「姉さんはショウタさんの事をこう言ってました。『どんなに頑張っても結果が実らなくて、ずっと弱いままで。でも、投げ出すことなんて一切なくて。全てを受け入れて、いつも楽しそうにスライムを狩ってる、面白くて変な奴』だって。それで姉さんはいつも自慢げに教えてくれるんですよ、今日は何匹倒してたとか。何個の魔石を納品してくれたとか。あとは諸用で数日休んだ後の日なんかは、査定カウンターから溢れるほどの魔石を見せられて大変だったとか。フフ。最初は週に1回程度だったんですが、時が経つにつれ3日に1回、2日に1回、ある時を境にもう毎日聞かされる様になりまして……」

「それは……嫌でも気になるね」


 アキさん……どれだけ自慢してるんすか。

 流石に毎日はやりすぎですよ!


「ふふ。それで私、姉さんが言うショウタさんに会ってみたいなって思ったんです。どんな人なんだろうって」

「あ、会ってみて、どうだった……?」

「はい、とっても素敵な人でした!」

「うっ!」


 ずるいぐらい可愛い!

 そして笑顔が眩しい!!


「……あ。その会いたいって思ってくれたのって、半年くらい前だったりする?」

「あ、はい! そうです。その頃に姉さんにお願いしてたんです。こっちの協会に呼んで貰えないか、って」

「ああ、あれはそう言う事だったのか。半年ほど前のある時から、アキさんが突然『他のダンジョンでも稼げるはずだから行ってみたら?』なんて言ってきたんだ。普段はやる気がないくせに、珍しく営業トークをしてきたから変なものでも食べたのかと思ったよ」

「ふふふ」


 まあ、思うどころか口にして、思いっきり拗ねられたけど。

 その後も何日か置きに営業トークされて、いつのまにか毎日のように言われてたんだよな。俺としてはいつものお世辞だと思ってたのに、アキさんとしては妹の頼みを叶えたかったんだろうか。でも無理強いは出来ないし、実情を言う訳にもいかないから、せめて毎日伝えることしか出来なかった、とかかな。

 アキさんも不器用だなぁ。


「マキは、アキさんに愛されてるんだね」

「そうですね、私も姉さんの事は大好きです」

「はは、ごちそうさま。それじゃ、続けてスキルも教えるね」

「は、はいっ」


 そうして俺は、『レベルガチャ』を除くすべてのスキルを書いた。勿論、『迅速』もだ。


「……すごいです。こんなに沢山のスキルに、いくつかは複数重ねて……。上級冒険者でも、ここまでの人は中々いませんよ」

「やっぱりそうなんだ?」


 『怪力』や『迅速』。更には『予知』の値段からも感じていたが、強いスキルは、値段がんだ。それだけ有用といえばそうなのかもしれないが、でもあの値段からは、出品数が少なすぎて、必要としている人に回りきっていない実情が読み取れる。

 支部長も、『怪力』の出品で大勢の人が集まると言っていたし、滅多にない事なんだろう。


「ショウタさん、いくつかお聞きしたいのですが」

「いいよ。答えられる事なら」

「ショウタさんは2日連続でレアモンスターと遭遇し、それを討伐しました。そして、スキルオーブを獲得しました」

「……そうだね」

取ったんですか?」

「……うん」

「……」


 マキは目を閉じて、何かを考えているようだ。

 彼女の中で答えが出るまで、じっと待つ。


「ショウタさん」

「うん」

「そのやり方、まだ公開はしないでください」

「……良いの? 協会としては、喉から手が出るほどの情報だと思うけど」

「そうですね、確実に利益が出ますし、お母さん……協会長やその上にいる人達は絶対に欲しがるでしょう。もしかしたら、冒険者の事故も減らせるかもしれません。ですがこれは、ショウタさんが見つけた手段であり、ショウタさんの力になるものです。なので公開する時は、ショウタさんがしてからで構わないと思います」


 まさかそんな答えが出てくるとは。

 俺の抱える秘密の中でも、『レベルガチャ』に次いでかなり重要な情報だとは思ってる。それをまさか、秘密にしていて構わないと言われるとは。

 ちなみにその次に大事だと思ってるのは当然『運』である。


「不思議そうですね」

「確かに意外だった。マキの口からそんな言葉が出るなんて」


 健気に冒険者たちの安否を気にするマキなら、レアモンスターの出現方法は、彼らの生死に直結する情報だ。知りたくて仕方がないと思っていたのに。


「当然です。だって、今私にとって一番大切なのは、ショウタさんなんですから。ショウタさんが死なないようにするためなら、私はどんなことだってしますよ」

「マキ……。ありがと、すっげー嬉しい」


 でも、そうだな……。

 危険を減らせるに越したことはないし、それで事故が減るのなら、あの情報は伝えて良いかもしれない。


「マキの気持ちは分かった。けど、それでマキの信念を歪めたくはない。マキが俺の事を大切だと思ってくれるように、俺もマキの事を大切にしたい。もしも我慢することでマキが苦しい思いをするのなら、それは俺にとって憂慮するべきことだ」

「ショウタさん……」

「だからマキ、君に1つだけ伝えておきたい事がある。俺としてはこれを伝えても損にはならないと思った。もしマキが俺の不利になると判断したとしても、胸の内に仕舞わず、開示して欲しい」

「……わかりました。お願いします」


 まずはレアモンスター出現時に必ず現れる、挙動が異なる煙について話した。

 特定の場所まで移動し、そして中からレアモンスターが現れると。


「移動する霧、ですか。確かそんな報告が本部の資料にあったような……。続けてください」


 そしてその霧は、他のモンスターから畏怖されている事を伝えた。逃げ出すモンスターや、人を襲う事よりも逃げる事を優先するようなことがあれば、注意して欲しいと。

 伝えたいことは以上だと伝えると、マキは深くうなずいた。


「……ショウタさん。貴重な情報、ありがとうございます。ショウタさんの気持ちに応えるためにも、なんとか冒険者の人達を危険から守れるよう整備したいと思います」

「情報を信じてもらう為の手伝いなら、いくらでもするからね」

「はい、ありがとうございます」


 そう微笑む彼女は、とても魅力的に映った。

 今日は色んな表情のマキが見れるなと感慨深く思っていると、壁時計が鳴った。どうやら、もう夜の7時のようだ。


「あ、もうこんな時間。ショウタさん、その……夕食、食べて行かれますか?」

「えっ!? あー……。すごく後ろ髪を引かれるけど、絶対アキさんと鉢合わせするよね、それ。揶揄われるのは目に見えてるし、まだ正式な専属じゃないから、遠慮しとく。だからそれは、『迅速』レベルのアイテムを持ち帰った時に頂こうかな」

「わ、わかりました。その時を、楽しみにしていますね」

「うん。あ、さっきの話なんだけど、アキさんには……」

「はい。秘密にしますね」


 マキはノータイムでそう答えた。

 その気持ちも嬉しい。けど、彼女はアキさんのことが大好きなのは、もうよくわかってる。だから、俺に遠慮する必要はないんだ。


「マキは……お姉さんの事は信じられる? 絶対に漏らさないって、確信できる?」

「それは勿論です。世界で一番……あ、その、ショウタさんも同じくらい、信頼してます」


 面と向かってそう言われると、やっぱり照れるな。

 こんなに信頼してもらってるなら、俺も信じなきゃ。


「あはは、ありがと。マキが信じられるのなら、アキさんにだけは教えて良いよ」

「ショウタさん……! ありがとうございます。明日の下準備、任せてください! 姉さんと一緒に、徹底的に考え抜きますから!」

「よろしく、楽しみにしているよ。金に糸目を付けなくて良いからね。足りなかったら俺が稼ぐから」

「はい! あ、そうだ。今日、コンビニでお弁当を買っていましたよね。良ければなんですけど、明日はショウタさんの分のお弁当を、作って行っても良いですか?」

「え、マジで?」

「はい、マジです」

「うわ、嬉しい。めっちゃやる気出てきた!!」

「ふふふ」


 そうして俺はマキと別れ、とても明るい気持ちで帰路についた。


 そう言えば、ストーカー連中の件、伝えるのを忘れていたな……。

 まあでも、あいつらのことはいいか。マキの専属は誰になるのか、もうほぼ確定してるわけだし。それに俺はそんなことよりも、もっと有意義な事を考える事にした。

 これからのマキのこと。弁当の事。そして……ダンジョンでの狩りについてだ。 

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なろうで日間・週間ともに1位をキープしている為、宣言通り今日は4話投稿します(3/4)

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