ガチャ020回目:秘密の会議場所は
繋いだ手を、改めて見る。言葉と気持ちを交わしたおかげで、マキさんとの親交が深まった気がする。専属の本契約はまだなのがもどかしいけれど、もう気分としてはパートナーと言っても過言ではない。
それは、マキさんもそう思ってくれてると思いたい。
「では、改めて。ショウタさんをサポートするために色々とお伺いしたいのですが……」
「あ、はい。……けど、ここではちょっと避けたいですね。たぶんこの部屋、支部長の目があるんじゃないですか?」
「……そうですね。今朝、この部屋の会話が筒抜けだったのは、私も気になっていました。わかりました、ここでその話はやめましょう。あ、じゃあさっきの話も……」
「そうですね。でも、俺は約束を違えたりしません。きっちり3日で持ってきますよ」
「ショウタさん……! はい、楽しみに待っています。ですが、決して無理はしないで下さいね。ではどこか良い場所を……あ」
マキさんは、何か思いついたようで立ち上がった。
「ショウタさん、準備してきますのでちょっと待っていていただけますか?」
頷くと、マキさんは俺が持ち帰ってきたアイテムを、トレーに山盛り乗せて部屋から出て行った。
今回持ち帰って来たのは、なにも『マーダーラビット』の素材だけじゃない。使用しなかった『鉄のナイフ』や余ったキラーラビットの角。あとはいつも通り100個以上の『極小魔石』があったのだった。
話をするにも、まずあのアイテムの山を処理しなきゃだよな。そう考えていると、マキさんは10分もかからずに戻って来た。
「お待たせしましたっ」
「あれ、早かっ……え?」
そこにいたマキさんは、いつもの協会の制服ではなく、私服姿だった。
マキさんは照れ臭そうに笑い、はにかんでみせた。
「……どうですか?」
「とっても、可愛いですけど……なんで」
「よ、良かったです。今日はもうこのまま退社しますから、この格好で構いません。裏口から行きましょう。
そう言ってマキさんは、俺の手を掴んで移動し始めた。
当の俺はマキさんの私服姿と握られた手にドキドキしっぱなしだった。どうか、この音が聞こえていませんように……!
……ん?
どうやらマキさんが向かっているのは、協会付属の建物らしかった。そこにも、協会を表す紋章が刻まれている。
マキさんに先導されるまま建物を上って行き、カギの掛かっていた部屋へと入って行く。
電気がつくと、そこはまるで生活空間の様で……。え?
「ようこそいらっしゃいました」
「あ、はい。いらっしゃいました……?」
「えへへ。その……ここは私と姉さんの部屋なんです。ここなら誰にも邪魔されませんよ」
「……」
……え?
「ええっ!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「落ち着きましたか?」
「……はい、なんとか」
マキさんが入れてくれたお茶を飲んで、一息つく。
アキさん経由で聞いていたのか、彼女は砂糖たっぷりのミルクティーを入れてくれた。糖分が体中に行き渡るのを感じる。
そういえば、ダンジョンから戻って以来、まだ1度も糖分を補給していなかった。マキさんが淹れてくれたお茶ということもあってか、本来の数倍美味しく感じる。ああっ、もうなくなってしまった!
「ふふ、お代わりですか? 遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとうございます……」
マキさんとは今、小さな机を挟んで対面で向かい合っている。この机、思った以上に小さくて、マキさんの顔がすぐそばにあって、かなり気まずい。
「それではまず、お互いを知る為に自己紹介から始めませんか?」
「あ、わかりました。えっと、名前は天地 翔太、21才。冒険者歴3年です」
「では私の番ですね。名前は早乙女 真希、19才です。受付嬢は、ショウタさんと同じ3年目ですね」
「え、マキさん年下!?」
って事は、マキさん学生時代から受付嬢の仕事をしていたのか。受付嬢を輩出するスクールは厳しい事で有名だったけど、想像以上にスパルタなんだな。俺はスクールに通うお金が無かったから、高校卒業と同時に教習所に入って、それからはずっと『アンラッキーホール』だ。
それにしても、いきなり衝撃的な話がやって来た。
アキさんがやたらとお姉さんぶるから、その妹でかつそっくりなマキさんも、同じく年上なのかと……。
「もう、いくつだと思ってたんですか」
「いや、しっかりしてるし、綺麗だったから。すっかり年上だとばかり……」
「そ、そうなんですか……」
マキさんが顔を赤らめてしまったので、こちらも恥ずかしくなってしまう。
この空気でずっといるのは辛いので、自己紹介を交互に続けた。お互いの趣味、好きな食べ物、憧れの冒険者。苦手な事や最近あった出来事まで。
マキさんと話が盛り上がったのが嬉しくて、そこでつい口を滑らせてしまった。
「これじゃあまるで、お見合いみたいだな……」
「えっ……」
「あ、いや、その」
「……私は、構いませんよ? その、お見合い、でも」
「マ、マキさん……」
顔を真っ赤にしながら、マキさんはこちらを見ながらそう告げてきた。
これはつまり、そう言う事なのでは?
こんな真っ直ぐな反応を見せられて、黙っているなんて男じゃない。ここで男を見せなくて、いつ見せるってんだ。
俺はミルクティーを一気に飲み干し、息を大きく吐く。
俺は確かに彼女を好ましく思っている。好きかどうかで言われると悩ましいが、一目惚れに近いかもしれない。だけど、想いを伝えるにはまだ何も積み重ねられていないし、お見合いと言うのなら、距離を詰めることが何よりも大事だろう。
だから『呼び捨て』と、言葉遣いの修正から始める事にした。
「それじゃあ……マキって呼んでもいいか?」
「は……はい。おねがい、しましゅ……」
どうやら正解らしい。
彼女の顔は更に赤みが増し、こちらを直視することが出来ないようだった。
焦ってはいけない。彼女との関係は、ここからなんだから。
「マキ」
「ひゃいっ」
「マキ」
「はいぃ~」
くそっ、可愛いな!!
それにしても、つい今朝アキさんに揶揄われたばかりだっていうのに、本当に手を出しちゃってるよな。俺。
まあでも、彼女が気になるのは嘘じゃない。彼女が他の奴の専属になると考えただけで、イライラしてしまうほどだ。俺は彼女を、独占したいと考えてるのは間違いない。
まあ実際、アキさんかマキどちらか選べと言われたら、俺はマキの方を選ぶと思うし。
アキさんも美人ではあるんだけど、
とにかく、名前を呼ぶだけで俺が恥ずかしがっていたら、マキもつられて恥ずかしく感じるだろう。
だから許可を得た以上、ここからは堂々と呼ぼう。
「じゃあマキ」
「はひ!」
「
「……はい!」
マキは表情を切り替え、一瞬で受付嬢の顔へと戻った。まだ顔がちょっと赤いけど、触れないようにしてあげよう。
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なろうで、日間・週間ともに1位をキープしている為、宣言通り今日は4話投稿します(2/4)
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