ガチャ013回目:常識を疑われた

 ストーカー男子4人組の口喧嘩はその後も留まる所を知らず、いい加減解放して欲しい気持ちになっていた。第二層で狩れる時間も限られてる。

 夜になる前には帰りたいけど、それでも折角来たんだから200か300匹くらいは狩っておきたい。


 なので、彼らの論争をぶった切る事にした。


「なあ、お前らがマキさんの専属になりたい気持ちはよーくわかった」

「お、そうか」

「わかって下さいましたか」

「けどさ、ならなんで俺の事をわざわざ追跡してきたんだ? 実力があるなら、こんなことにかまけてないでもっと地力を上げる努力をするとかさ」


 そこまで言った所で、奴らの怒りの感情がこちらへと向けられた。

 あ、やべ。地雷を踏んだか?


「「「「……」」」」


 ……と思ったが、睨むだけで何も言わなかった。

 なんだ?


 不思議に思っていると、チームの頭脳派を名乗る男が代表して前に出た。


「ええ、確かに今回の行動は、僕達としても大変不服でしたよ。ですがそれも、昨日のあなたのせいです」

「昨日というと……」

「あなたは第一層に出現したレアモンスターを討伐し、更にはレアドロップである『怪力』スキルを持ち帰ったそうですね」

「あ、ああ」

「情報を集めるのが僕の役目。あなたが何者であるかも既に調べは付いていました。取るに足らない弱者、最弱のスライムハンターであると。しかし、情報通りであるならば、僕たちのチームでやっと倒せるレベルの相手に、ソロで勝てるはずがないんです。信じられなかった! だから、僕たちはあなたを観察することにしました」


 なるほど。確かにこのスキルを得てから、俺は急成長を果たした。

 最弱の存在として名が知られていたはずの俺が、チームで倒すべき相手を、たった1人で相手取るなんて彼らからすればありえない話なんだろう。


「……それで、話しかけてきたってことは、なにか理由が掴めたのか?」

「ええ、理解しましたよ。あなたがとんでもなく非常識な人間だってことが!」

「……は?」


 頭脳派君が憤ったことで、他の奴らも我慢出来なくなったのか声を荒げてきた。


「そうだ! ダンジョン協会第525支部において、1日の納品数は俺達が一番だと自負していた! だと言うのに、たった数時間で『極小魔石』を100個だと? しかも午前中だけで!?」

「異常なんだよ。俺達が1日に倒してるモンスターの数だって多くても150から200ってところだ。それくらいやれば普通疲れ果てるもんだ。なのに今朝のお前ときたら、あの短時間で何匹狩りやがった?」

「確か239匹……」


 正直後ろが気になり過ぎて、あまり狩りの気分にはなれなかった。それにマップ埋めと同時に、連続100匹にならないよう気を張っていたのも大きい。なのであの討伐数には、若干不満を感じていた。


「おかしいだろうが。お前には疲労ってもんがねえのかよ!」

「いや、疲れはするけど楽しいから……」


 確かに疲れはする。

 けど、秘密にされていた仕様を解明したり、マップを自分の足で踏破しきったりするのは楽しいからな。達成した時は、どんな疲労だろうと吹き飛ぶのさ。


「くっ、これが3年選手と新人である僕達の差か。1日でこれなら、日数が経てば経つほど討伐したモンスターの差はどんどん広がって行く。このストイックさがあれば僕達だって……。負けてられるか、行くぞ皆! 僕達はコイツに勝つんだ!」

「「「おお!!」」」


 どうやら自己解決したらしく、騒がしかった奴らは去り際にも何か言い放ちつつ、あっという間に視界の外へと消えて行った。あの方角は、確か第三層の階段がある方かな?


「にしても、異常か。確かについ先日まではスライム300匹程度が限界だったもんな。ステータスが上がって、『身体強化』のスキルも得られたから、300程度余裕なんだよな。……多分今なら、やろうと思えば1000匹だって夢じゃないんじゃないか?」


 ま、気を付けて戦わないと、人が居るところでレアモンスターを出してしまいかねないから、夢中になり過ぎないようにしないとな。あと、1000匹も狩ったら、魔石だけでリュックは溢れるだろ。絶対。


「さて、外野もいなくなったことだし、ようやく再開できるな。それに、これで『炎魔法』も試せる!」


 昨日から試したくて仕方が無かった、新境地の魔法! 早速やってみるか!!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 『ダンジョン通信網アプリ』を開き『炎魔法』で検索すると、レベル1で使用できる魔法として『トーチ』と『ファイアーボール』の2つがあるらしい。


 『トーチ』はランプ代わりとなる小さい火の玉を出す、名前の通り明かりのような魔法で、『ファイアーボール』は攻撃用の魔法で巨大な炎の玉を呼び出せる。

 どちらも、術者の意に沿って動いてくれるようで、頭の中で思い浮かべれば、魔法名を出さずとも発動する事が出来るし、消えるように考えれば消えてくれた。その上、意識を手放さなければ目を閉じても視界から外しても、位置が変わったり勝手に消えることはないらしい。

 便利な魔法ではあるが、無理やり意識から外して別の事を考えてみると、いつの間にか消えてしまっていた。


 どうやら魔法は、常に意識のリソースを割く必要があるらしい。

 剣で戦いながらとなると難しいか……? いや、戦いの場をコントロールするための手段が増えたと思えば、苦ではないか。


「だけど『トーチ』と『ファイアーボール』の2つを同時に維持するとなれば、かなり気を使うな。ダンジョンには暗い場所があるというし、『トーチ』を照明代わりに出しながら『ファイアーボール』で攻撃をして、更には剣を使って戦うなんて場面はいずれやってくるかもしれない。早いうちに慣れておかなきゃなー」


 大変ではあるが、朗報でもある。ゴブリンドロップの『鉄のナイフ』による『投擲』以外で、遠距離の攻撃手段が増えたんだ。魔法の使用限界はアプリにも詳細が載っていないけど、これは使いながら探って行こう。


『キキッ』


 そう思っていると、キラーラビットが現れた。

 いつの間にやら川エリアに入っていたようで、見ればそこかしこにキラーラビットの姿があった。


「よし、まずはお前たちで実験だ!」

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「小説家になろう」ローファンタジー日間ランキング1位をキープしているので、今日も3話投稿です。(1本目)

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