ガチャ012回目:追跡者の正体は

 ようやく岩壁同士が重なり合った四隅の内の1つが見え始めた。『自動マッピング』にも反映され、小気味良い満足感を得られたころに、それはやって来た。


「おい、お前!」

「うん?」


 まさか声を掛けられるとは思わなかった。

 マキさんの言う通り、案の定ストーカー連中は第二層にもやってきていた。上とは違って、かなり見晴らしのいいこの層では、警戒されるのを恐れてか、かなり距離を保ちながらついてきていたが。

 突然後ろを向くのもアレだし、害が無いのなら放っておこうかと思っていたんだけど、まさか向こうから来るとは。


 振り返るとそこにいたのは4人の男。

 いや、俺より少し年下くらいの若い連中だった。いや、若いと言っても俺も二十歳過ぎたばかりだから、大差ないが。


「お前……一体何なんだよ!」

「いや、それこっちの台詞だよね?」


 いきなり現れて言われた言葉がそれって。

 でも彼らはお構いなしに捲し立てた。


「あんたアレだろ、有名なスライムスレイヤーって奴なんだろ!」

「キミは辺境ダンジョン出身とはいえ、協会から専属を付けて貰ってるらしいじゃないですか!」

「そんな奴が、マキさんに世話された挙句、お見送りだと……! クソッ、羨ましい!!」

「あの人は俺っちの女神なんだ。『専属代理人』だかなんだか知らねえが、しゃしゃり出てくるんじゃねえよ!」

「馬鹿が、あの人はお前のじゃねえ!」

「なんだと!?」


 息ぴったりの言葉のラッシュに、俺は呆気に取られてしまった。

 でもこの声、どこかで聞いたような……。


「……あ、今朝マキさんをナンパしてた中にいたな」

「ナ、ナンパじゃねえ! 未だ専属を持たないマキさんに、俺達こそが相応しいと教えていただけだ!」

「このダンジョンで目覚ましい活躍と成長を遂げている俺達こそが、あの人の専属に相応しい。それを丁寧に説明していたというのに、途中でお前が邪魔をするから……!」

「それをナンパって言うんじゃないのか……?」


 それにしてもコイツら、100歩譲って俺を目の敵にするのは分かる。アピール合戦の邪魔をしたし、トドメのお見送りをしてもらったからな。恨まれるのも当然だろう。

 けど……。


「なあ、お前達は専属の奪い合いをしているはずなのに、なんで一緒になって行動してるんだ。ライバルじゃないのか?」

「お前、本当に何も知らないんだな」

「かーっ! 辺境育ちは常識を知らないんだから困るよなー!」


 辺境育ちって。

 ダンジョンナンバー777は一応お隣さんだぞ。徒歩だと1時間くらいあるけど。


「良いですか、無知なあなたに教えて差し上げましょう。確かに僕達はライバル関係にあります。それに、専属契約は個人でした方が望ましい。ですが、それは冒険者側のエゴなんですよ」

「エゴ?」

「そうさ。悔しいが俺達は、マキさんが専属になってもらうには、ソロだとちーっとばかし実力不足だ。けど、チームなら別だ。俺達4人はこのダンジョンでは新進気鋭のエース! 当然、チームの方が稼げるし、稼げるほど専属の受付嬢は潤うって寸法よ!」

「なるほど……」


 チーム……仲間か。そう言えば第一層でも、複数人で行動している人達ばかりだったな。確かにソロで活動してる人の専属になるよりも、強い人達が集まったチームの専属に就いた方が旨味は強い訳か。

 この3年間、秘密の検証についてきてくれる様な、物好き人はいなかった。いや、そもそも探す気が無かった。1人の方が気楽だったし、得られる答えは俺の物にしたいと独善的に動いていた。そしてこれまでの冒険生活が染みついて、このダンジョンでも誰かと組むなんて発想は、まるで無かった。

 マキさんからも、荷物の観点から『運び屋』を雇わないかと打診されていたっけ。でも、俺のガチャスキルの事は他人には知られたくないし、たぶん今後も、俺はソロなんだろう。


 ああ、俺って……。

 ぼっち、だったんだな。


「……おい、おい!」

「ん、あ、ああ」

「急に遠くを見つめやがって、なんだってんだ」

「いや、ちょっとな……。はは」


 余りの悲しい現実に、現実から逃避してしまっていたようだ。


「……ん? あれ? じゃあお前たちは、マキさんにチームでの専属になって欲しいんだよな。なら、なんであの時、個別にアピールをしてたんだ?」

「ホントに常識ねえんだな。そりゃおめえ、チームの専属は当然として、その中でも誰を中心とした専属かって話だよ。それこそ、チームを引っ張る俺のような男とかな!」

「何を言っているんです。日々の稼ぎのために計画を立て、作戦を遂行出来ているのはチームの頭脳である僕のおかげでしょう。ですから僕こそがリーダーであり、マキさんの専属を受けるに相応しいのです!」

「それを言うなら、チームで一番モンスターを狩っている俺こそ相応しいぜ! 俺の『腕力』がなきゃ、モンスターをあれほど沢山狩れねえんだからよ!」

「いいや、俺っちの追跡スキルが無ければ、手ごろなモンスターを見つける事すら出来ないだろうが。作戦も火力も、俺っちの援護がなきゃ成り立たない……。つまり、俺っちこそ影のリーダーだ!」

「なんだと!?」

「いや俺こそが!」

「いや僕が!」


 あぁ、またこの流れか。

 それにしてもこいつら、専属になる事前提でアピールしてたのかよ。そりゃ、マキさんも対処に困って疲れる訳だ。


 それに、彼らは知らないだろうけど、この後マキさんから厳重注意のお叱りが待ってるんだよな。俺からわざわざ報告をしなくても、見送りしたマキさんは彼らが俺の後をついて行くところをバッチリと目撃してただろうし。憧れの人から怒られるのって、結構堪えるんだよなぁ。

 まあ、俺の場合昨日のお叱りはちょっぴり嬉しくもあったけど。……とりあえず、こいつらには合掌しておくか。


 それはそれとして、気になる発言があった。あの男、追跡スキルを持っているのか。

 恐らくソレで、俺の背後をぴったりと追いかけてこれたのだろう。

 さっきも第一層で、ガチャ使用の為に一度撒いた上で、外周部で『鉄のナイフ』を集めた。それから多少の時間をかけて第二層に降りてきたら、その時にはもう、しっかりと後ろにいたからな。


「鑑定スキル、使用」


*****

名前:西野 素斗鹿

レベル:18

装備:風のナイフ、チェインメイル、チェイングリーブ

スキル:追跡者

*****


 レベルのないスキルか。『レベルガチャ』からの入手以外でも、ちゃんとそう言うのはあるんだな。

 他のメンバーは……。


*****

名前:東 勇士

レベル:17

装備:鋼鉄の剣、チェインメイル、チェイングリーブ

スキル:リーダーシップLv1

*****

名前:北条 博士

レベル:16

装備:、理知の眼鏡、チェインメイル、チェイングリーブ

スキル:風魔法Lv1

*****

名前:南田 猛

レベル:19

装備:鋼鉄の大剣、チェインメイル、チェイングリーブ

スキル:剛力

*****


 全員スキル持ち。しかも、魔法を扱える奴もいて、結構バランスが良い。

 どうやらこいつら、ふざけているようで、ちゃんと強いようだ。レベルから見ても、ステータスは成長率が平均なら俺と大差ないだろうし、高めなら俺よりも上だろう。

 これなら成長株のエースと自負するのも納得だった。


 けど、そんなに強いならなんでストーカーなんて真似をしてきたんだ? 謎は深まるばかりだった。

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