逆巻く宇宙の揺籃歌
生きることに飽きている――と言うと「
数ヶ月前まで、僕はとあるオーケストラに所属するフルート奏者であった。が、不景気が祟って解散となり、
慢性的な《不幸》に疲れた結果として、僕は生きることに飽き始めたのだ。
このロッジに泊まるようになってから一週間が経とうとしている。バブル経済によって産み落とされ、そして、忘れ去られた数多くの副産物の一つ。
四十八錠の睡眠剤が胃袋の中で泡を立てて溶け始めている。どれくらい飲み込めば死ねるのか分からないから、自分の歳の数だけ服用することにした。脳髄の芯が
「ああ、このまま死ぬのか」と呆然と考えていたら、
「やあ、お邪魔させていただくよ」パーンは私の返事を待つまでもなく、コツコツと
僕は差し出されたパッケージからタバコを一本抜き取ると、手渡されたライターで火を着けた。銘柄はごく平凡な大衆向けの品物だった。彼は本当にギリシア出身の神様なのだろうか?
「
「ああ、その通りだよ」
「勿体ないなァ――君ほど腕の良いフルート奏者は珍しいから」
「評価に
「そりゃ、過小評価というやつだよ。君、音楽に未練はないのか?」
「……ないさ。すっぱり諦めたよ」
「なら、何で自殺なんて
「それとこれとは関係ないよ」
「関係ないと思い込もうとしているだけじゃないか?」
「……違うね。それは全く違う」
「ふむ、それならば後悔はないわけだ」
「何でそんなことを尋ねるんだ。もう解放されたいんだ」
「君は音楽を諦めることで解放されると思い込んでいるようだ。が、それこそ全く違うのだ。君は音楽に執着している。解放とは執着を捨てることから始まるもんだ」
「そうだろうか――自分は音楽に執着しているのか?」という疑問が脳裏を過ぎったが、
「さあ、私の手を取って――今から君を素晴らしい場所に案内しよう」
僕は言われるままに差し出された手を握った。肉体がふわりと軽くなると同時に視界が暗転する。が、闇に
それは酷く
『アレを起こしてはならない。決して眠りを妨げてはならない』
いつの間にか手にしていたフルートを唇に添えると、一心不乱に息を吹き込んでいた。フゥルルル、という音が漆黒の空間に響き渡る。闇に
(了)
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