訶梨帝母
深夜の幹線道路を走る自動車のライトが
「母親なんだから」と言われる度に、次第に美玖の中の孤独は肥大していった。自分の味方であると信じていた旦那の口から、その残酷な宣言が飛び出した時、美玖は誰かに期待を掛けることの愚かしさを知った。足場を失ったような奇妙な浮遊感を覚え、次いで、美玖は腹の底で脈動する
母親の言いつけ通りにシャツの
いつしか、鏡の前に立つ度に、五十嵐美玖は小さな失望を味わうようになっていた。かつては引き締まっていた肉体も二度の出産を経験して目も当てられないほどにだらしなく緩んでいる。美玖は今年で二十八歳を迎えるはずだが、未だに女盛りだった頃の記憶を捨てきれないでいた。彼女は独身を保っている同窓生の姿を見掛ける度に、言いしれない悔しさを感じてしまうのである。美玖は最近めっきり衰え始めた自身の容姿を密かに嘆いていた。
夜の散歩の到着点は
どれほどの時間が経ったのだろう。
「私は何を失って、何を得たのだろうか?」
それを考えようとすると胸の内が
美玖は涙を手の甲で拭うと、
腹の底で煮え
「愛とかじゃなくてごめんね」
美玖は言葉が通じないと分かっていても、そう呟かずにはいられなかった。
悲しくも優しい空白の時間が、
夜は
(了)
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