■第2章

 ある平日の日に学校の先生から電話掛かってきた。息子さんが漢字を覚えらないので少し面談をお願いしたいという電話であった。息子は小さい頃から覚えるということが苦手で、よく歴代の担任先生から言われていた。妻は非情に心配していて、息子に八つ当たりをするので私とよく喧嘩をしていた。今は昔と違い学習障害やグレーゾーン等、時代も認知されてきた。昔は頭が悪いだの勉強しないからだの言われ放題であった。その分、今は大変いい時代になったなあと私は思う。


 私は、重い足を引きずるように学校に向かった。引き戸を開けると満面の笑みの先生が手を出している。

「どうぞ、お座りください」

 三十半ばの背丈は低く丸顔の小太りの男性であった。

「よろしくお願いいたします。」私は、静かに椅子を引いて座った。

「暑いですねー」先生は言いながら、学習の書類を捲って確認している。私は、軽く頷いて次の言葉を待った。

「歩くんは算数の計算問題は出来てますね」先生の目線は机の上の書類を向いている。

「そうですか」私も先生の目線を追いながら答えたが、上下逆なので内容は把握出来なかった。

「しかしですねーこれを見てください」と漢字のテストを見せる。この時初めて私と目があった。どこか勝ち誇ったような顔で私を見る。

 点数が五点のテストである。私は別に問題ないと考えたがそうではないらしい。丸顔の先生はこう続けた。

「学習支援センターというのがあります」そう言って先生は、そのチラシを机の上に広げた。

「ここに電話して相談してみてください」

「はあ わかりました」私は気乗りしない生返事をした。その後、息子の学校での様子など一通り聞いて私は学校をあとにした。今の時代、パソコンで文字を打つので然程漢字が書けなくても問題ないと思うのは私だけであろうか?


 次の日、窓の外を見ると灰色の雲が占領している。私の心も同じ状態なのか浮かないがオフィスの窓を見ている。すると私のデスクの電話が鳴った。

「はい、もしもしエヌ証券の須磨です。」

「あーもしもし、須磨さん今日の来てくれる予定でしたよね? 待ってるんだけど!」

「はい、今日ですか?」私はPCのキーボードを急いで叩くてクークルカレンダーを見るが、訪問の予定が入っていない。なぜだ。

「申し訳ございません、これから伺います」

「いいよーもう外出するから、また今度電話してよ」言葉に憤りが感じる。私は頭を掻きながらもう一度カレンダーを見る。やはり先程の予定が無い。入れ忘れたのかなーと思いまた灰色の空を窓越しに見る。


 次の日、先日のクライアントの所へ訪問しようと、これまたクークルマップでルート検索をした。しかし今度は体が重く体が動かない。何か体に変化が起きている気がする。

 コンピューターが進歩して戦争になるターミネータなどのような映画があるが、本当に怖いのはそんな非現実なことではない、本当に怖いのは、地味に人間本来の能力を削がれることをみんな知らない。

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