第5話 初対面なのに?



「よろしくな。俺はランスローだ」


「私はカイルと申します。ランスロー様、さっそくですが、これから商隊の待機場所へ向かいます。私の馬車へお乗りください」


 カイルと名乗った厳つい体つきの商人は俺を馬車に乗せると、慌ただしげに説明をはじめた。


「私どもの商隊は、今、最後の準備を行なっている最中なのです。準備が終わり次第、出発する予定です。よろしいですか?」


「そりゃよろしいが、今からか?随分ゆっくりとした出発だな」


 もう日は高い。追い出されたばかりの俺ならともかく、今から旅立っても、そう遠くまではいけないだろう。


 しかしカイルは、にこりと余裕のある笑みをみせた。


「私どもは商隊ですからね。途中の町で売り買いをしながら王都まで向かうのです。今日は二つ先の町までしか行きません。そこで王都の貴族達が好きそうな織物を積み込む予定です」


「なるほど。商人は商売しないとな。王都まではどれくらいで着く?」


「ひと月半といったところでしょうか。お急ぎの予定ですか?」


 もちろん急ぎだ!そして俺の予定はただひとつ。『銀の牡鹿亭』に行くことだけだ!俺なら無理すれば、ひと月掛からず王都に着ける。


 が・・・


「いや、ひと月半くらいかけて王都に行くぐらいが今の俺には丁度いいのかもしれないな」


「と、言いますと?」


「半年間がかりの依頼が完了したばかりで疲れているんだよ。無茶な旅はまだやりたくない。どうせなら荷馬車の隅にでも俺がゴロゴロ出来る場所を作ってくれよ。寝ながら移動したい。もちろん魔物や盗賊が来たらちゃんと切るよ」


「ははは、ちゃんと切る、ですか。頼もしいですね。分かりました。ランスロー様の場所を作りましょう」


「ずいぶんあっさり了解するんだな」


 嫌な顔をされるだろうと思っていたのだ。


 カイルは俺の言葉に目を瞬かせると、照れたように言った。


「あっさり、ですか。そうかもしれませんが、理由はあります。私は3年前まで冒険者を生業にしておりました。2級の槍使いです。あなたからは、私が冒険者時代に信頼していた先輩方と同じ匂いがします。彼らは強く、率直でした。必要なものがあれば、必要だと遠慮なく言ってきました。あなたも同じなのでしょう。私はあなたを信頼します」


 初対面なのに!?


いきなり全てを さらけ出すような純粋な信頼の言葉は、商人の口から出ると、ただただ怪しい。


たぶん何かの駆け引きの言葉だ。こいつは俺に揺さぶりをかけてきているんだ。揺さぶられるな。信じるな。子犬みたいな目で俺を見ているこいつの言葉を信じるな。


俺が自分に何度もそう言い聞かせるほど、カイルの信頼の言葉は、俺の心にあっけなく突き刺さっていた。

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