第45話 ロイスター帝国大学の製鉄プロジェクト
理工学の教授から集合命令がかかり研究メンバーは研究室に集まる。
エリオス君も当然教授に呼びつけられる。
その時、ちょうど暇そうな幼馴染を無理やり誘って連れてくる。
部屋内には何故かトーマスさんが既にいた。
「これからロイスター帝国大学理工学研究所の製鉄プロジェクトを開始する。
プロジェクトリーダーは、トーマス殿。
副リーダーはこの私、レイモンド・ウィリアム・アマースト男爵が
担当する。私はレイモンド教授と呼んで欲しい」
「教授よりご紹介に預かったトーマスである。諸君ら。宜しく」
と教授が宣言する。
エリオス君は微妙な顔をしつつも、
実は事前に新しいもの好きのトーマスさんと
研究成果に苦しんでいた教授をプロジェクトに「巻き込んだ」のである。
製鉄業は非常にお金と知恵が必要なのでエリオス君一人では出来ない。
それは両人ともに製鉄業の重要性はご存知でノリノリである。
エリオス君のの未来知識とトーマスさんの政治力と
教授の実験室が重なれば決して難しくないだろう。
で、暇そうな脅威の天才の幼馴染も巻き込んで活躍させようという話にした。
こんな大掛かりな話に天才幼馴染を使わない手は無い。
「(何よ、いきなり今日暇か?なんて誘うからデートだと思ったじゃない。
どうして大学のしかも教授の研究所にいるのよ?)」
「(いや、才能豊かな天才に活躍してもらいたいから呼んだんだよ)」
「(私はエリオス君とのデートが一番嬉しいのよ!)」
当然幼馴染はご機嫌斜めである。ニーナさん。
ヒソヒソ声で不満一杯の幼馴染をエリオス君はなんとか説得する。
ここで拗ねてもらっては面白くない。
教授が続ける。
「製鉄業は非常に有望な事業ながら技術課題が大きく、
魔王国に大きな差を付けられている。
ここで我が国で大規模な製鉄業を構築出来れば、軍事に産業に
大きなアドバンテージを得る事が間違いなしである。
トーマス殿がバックにいれば我々に何も恐れるものはない。
小規模な技術試験機を実証して、量産化の目処をつける事が
我が研究室の最も重要な成果の一つになることは間違いない。
そしてそれは国家を躍進させるのである。
うむ、素晴らしい演説だ」
教授の演説に拍手が湧く。がため息も出る。
自分で素晴らしい演説言うな、と皆さんが心の中で突っ込む。
天然だな。
だが、それがいい! その天然がいい!
これこそ生涯をかけ国家と研究を貫き通した忠義の天然ではござらんか!
・・・まあネタは置いておいて、
問題は簡単に課題をクリア出来ない所か。とエリオス君は考える。
「課題はまず耐火レンガ。
従来のレンガではよく分かっていない問題があり、
不純物が邪魔して脆くなり鋼にならない。
不純物を除去出来る耐火レンガが必要である。
この材質を調査するのが第一」
高炉と言えば、耐火レンガ。
ある意味製鉄業の歴史は耐火レンガの歴史と繋がっていると言える。
某アイドルの反射炉を作る放送で紹介されているのでご存知の人も多いと思うが、
耐火レンガを作るのは現代式の材料を除けばそれほど難しい技術ではないが
問題は鉄の不純物に含まれるリンを除去するために石灰を撒くのが高炉である。
そうすると高温ではケイ素レンガが持たなくなる。
ただの耐火レンガに断熱性は無いので、熱が逃げるし劣化すればより悪化する。
しかし低温の高炉や反射炉では不純物の多い鉄の山。不良品多発。
放熱により温度が上がりにくくなり生産性が悪いのでコストも高い。
つまりアルミナとマグネシアの材料の耐火レンガが必要になる。
これが後のベッセマー転炉の弱点であり、トーマス転炉が普及した理由である。
現代の日本ではマグネシアの原料を中国などから輸入している。
つまり、ボーキサイトやマグネシアを鉱山から採集して集める必要があるのだ。
実際イギリスの産業革命の頃にはリンが殆ど含まれていないスウエーデン鉱を
購入して、やっと鋼が作られていたという背景である。
もちろん、そんな事はこの時代の人が知るよしも無い。
成立させるにはエリオス君の知識が不可欠なのであった。
で、何とかトーマスさんと教授をだまくらかしたのである。
この二人を後ろから操って試験機を作り、その鉄で色々な治具を作る。
最終的には小型キューポラを作って増産する見込みである。
その壁は高くて険しいが教授が入れば出来るだろう。
そんな消極的なプランにせざるを得なかった。
もちろん、領内の鉱山には伯爵様にも絡んでもらおう。そのうち。
「耐火レンガの他には熱源である木炭である。
従来の木材では火力が足りないので蒸し焼きにして
水分他を飛ばしてしまう必要がある。
木炭炉が必要である」
「教授、そこは石炭を併用しましょう。
石炭が無ければ木炭では数に限界があります。
木炭に使える木の品種には限りがあります。
直ぐに枯渇してしまいます」
「だが、石炭では硫黄分が多すぎて鉄に不純物となり
もろくて使い物にならない。
何か知恵はあるのか」
「硫黄分を除去する方法はあるはずです。
そこは諦めてはなりません」
未来を知っているエリオス君が教授をなんとか説得しようと試みる。
石炭も蒸し焼きにすればコークスとして使用できる。
木炭より無尽蔵に取れて、安価に使える。
イギリスではエイブラハム・ダービーが1709年に初めて
コークスを使った高炉を建設して量産している。
コークスにすることで石炭の中にある硫黄分をある程度除けるのである。
それ以降の話は別の機会にでも。
「まあ、それらを課題と置いて材料の調達と設備の構築が
当面の対応となる。
鉱山からの物質を調査して資材の目処を立てる事を
各位に協力して欲しい」
とりあえず第1回である。
長期の試行錯誤を重ねて、この国に製鉄業を成し遂げるのである。
ちなみにここにトーマスさんがいることに質問してみる。
「何故トーマス様がリーダーなんですか?」
「坊主が裏で暗躍しているなら面白そうじゃないか。
お前の知恵と教授の力と俺の人脈。
凄いだろう」
今度こそ本当に悩むエリオス君
根拠のない自画自賛だったのか・・・
ダメだなこりゃ。
じゃあ、せっかくだから言ってみる。
「なら伯爵様にも陰ながら協力してもらいましょう。
故郷の鉱山は伯爵様の持ち物です。
きっとWIN-WINになれるでしょう」
「アナトハイム伯爵か・・・」
トーマスさんが悩んだ顔で返信する。
何やら曰くありそうであった。
そこで幼馴染が理解できずに叫ぶ。
「このプロジェクトになんで私がいるのよ?
私はエリオス君とデートしたいだけなのに。
なんで私?」
周囲の人々も疑問に思ったであろう一言をニーナさんが言う。
口には出さないが、あなたを無料でこき使うためですよ。と。
ええ、逃げたら伯爵様にチクりますからね。
決していつもの裏返しではないですが。
というのはエリオス君の心の中で内緒にしておく。
しかし、実際はこの幼馴染の行動力に圧倒される事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます