第44話 ロザリーナお嬢様と戦術研究室
戦史研究の講義が終わってロザリーナお嬢様と一緒に
教授の研究室に向かうエリオス君。
ふたりのあくまに脅されて・・・
「教授、今日は研究室に来ました。
宜しくお願い致します」
「おお、エリオス君か。今日は戦術研究室のメンバーだ。
宜しく頼む。そちらの方々は?」
「妾はロザリーナ・フォン・ルシフェル。魔王国の陸軍少尉である」
「ロザリーナお嬢様のメイドをしていますイザベラと申します」
「同じく執事をしていますランベルトです」
エリオス君と一同は教授に挨拶する。
教授は長身でヒゲをはやしたダンディーなおじさまである。
知的そうなメガネをかけて、一同を見る。貴族だろう。
そして教授に対しては丁重に対応する魔王国の皆様。
いつもと態度が違う所にエリオス君は不満を感じる。仕方がない。
「私は軍事学の教授のオズワルド・チャールズ、フューゲル男爵です。ようこそ。
軍人兼学者としてオズワルド教授と呼んで下さい。
これは魔王軍の留学生ですか。噂は聞いています。
うーん。研究情報を仮想敵国に共有するのは、まあ学生だから良いか」
仮想敵国の軍人を研究室に入れる教授。
結構おおらかであった。学問の世界は。
教授は学問に誇りを持っている方なので爵位より教授と呼べというタイプ。
本人に聞こえない様にヒソヒソ声で教授と会話する。
「(教授、魔王国の軍人ですが本当に宜しいのでしょうか?)」
「(こんな美少女と美女メイドさんなら良いだろう。大歓迎。
男ばかりの軍事学研究所だから尚更、華があって良い)」
エリオス君は教授の駄目駄目な所にあきれ顔で言う。
ええのか、教授。本当に適当だなこの大学は。
まあ魔王国の方が先進国だし。
ロイスター王国は発展途上国で追いかける方である。
軍事機密も少ないのだろうと強引に納得させるエリオス君の心境。
「皆さん座って下さい。
今日は戦術研究です。
主題はパイク兵と衝撃重騎兵をいかに突き崩すか。
各自の成果を報告して欲しい」
銃火器がまだ発展途上の時代ではパイク兵が強かった。
この時代のパイク兵のベースはスペインで1534年生まれた
方陣を中心とする軍事編成でテルシオと名付けられた、
長槍のパイク兵とマスケット兵を組み合わせた守りに強い陣形である。
特に騎兵の突撃を防ぐ為にパイク兵は効果的だった。
衝撃重騎兵とはポーランド騎兵で有名な長槍と甲冑で装備した
密集騎兵である。突撃が特に強かった。
長槍を複数持ち歩き、突撃して折れた長槍を交換しながら突撃を繰り返した。
16〜17世紀には恐ろしい戦闘力を発揮した。
対策としては軍政改革で有名な
オラニエ公マウリッツの三兵戦術と軍事革命、
グスタフ2世アドルフのスウェーデン式軍制改革が有名である。
フランスのナポレオンが更に進化させた統合運用と師団制度だろうか。
まあ、それをここで喋ってしまうと
将来の戦争でボコボコにされかねないのでエリオス君は秘密にしている。
「パイク兵の方陣の弱点は機動力。
かつて古帝国がファランクスを破った散兵戦術が有効かと」
「密集陣形は魔法と、大砲による連続砲撃が有効です。
数を集めれば方陣も打ち崩せるはず」
また学生が自論を語る。
ローマがファランクスを破ったのは紀元前168年のピュドナの戦いで
山間までファランクスの陣形が伸び切った所で戦列に切れ目が出来て
そこにローマが集中攻撃を掛けて打ち破った戦いである。
戦列が敗れると密集陣形は脆いのが伝統である。
大方間違っていないが、敵に騎兵が多数いないという前提である。
騎兵突撃が怖いから密集陣形になる訳で、まあじゃんけんである。
ネーデルラントに続いて軍事革命を起こさんとした
グスタフ2世アドルフの最新鋭スウェーデン軍が
突撃してくるポーランド騎兵に負けまくったのもある意味事実である。
「ロザリーナさんとエリオス君はどう思いますか?」
教授からの質問が来た。
当然ロザリーナお嬢様は自論を言う。
魔王国の戦い方には一同興味はあった。
「妾はやはり集団魔法戦じゃな。
魔王軍は高レベルの魔法使いが多い。
方陣は魔法の連発で粉砕する。
騎兵はゴーレムで受け止める。
最後に歩兵と騎兵で突撃してトドメを刺す。
野砲はどちらかと言うと攻城戦じゃな」
ロザリーナお嬢様が答える。
とても反則だなそれは。
高レベルの魔法使いとゴーレム。
騎兵を受け止めて方陣を粉砕する。
普通にやったら勝てないですわ。それ。
時代背景を考えても魔王軍は恐ろしい。
それは超大国になるはずであった。
「エリオス君は?」
「射程距離を考えると野砲でしょうか。ゴーレムも遠距離から破壊出来る。
それもかなりの数が必要です。移動出来る小口径型が良いかと。
対騎兵はやはりパイク兵しかないでしょう。
対魔法使いにはマスケット兵の数の力で遠距離から襲撃してから
スピードで騎兵突撃を掛けるのが常套手段かと。
質よりも数で襲撃をかけるのが対抗手段です」
エリオス君がロザリーナお嬢様に反論する。
おっと、いつの間にか対魔王軍戦術になってしまった。
まあ三兵戦術であろう。個々の兵科より組み合わせて対抗。
「汝よ。それは敵がパイク兵の方陣じゃなくて妾ら魔王軍の事であろう。
教授はそんな事を聞いてはおらぬぞ。
何じゃ。妾に喧嘩を売っているつもりか、エリオスよ」
「あはははは」
ロザリーナお嬢様の言葉に一同が大笑いする。
お前らも心の中では対魔王国で一杯だろうに。とエリオス君は思う。
戦争になったら恐ろしい天敵の対抗手段を考えてしまう。
しかし戦争はどこの国と戦うかは分からない事もある。
「全く、平和だなこの国は。
妾の魔王国はまだ内戦まっただ中なのに・・・。母上」
ロザリーナお嬢様が寂しそうに呟く。
まあこのロイスター王国は確実に平和ボケしているかもしれない。
戦争になったら確実に弱いだろう。
魔法があれば密集陣形は厳しいかな。
魔法の力でもロイスター王国は多分魔王国には勝てない。
ただし、砲兵の時代になると確実に魔王軍との火力の差は小さくなる。
弓矢や騎兵や魔法使いは簡単に増やせないからだ。
先に軍事革命を進めてしまえば魔王軍にも対抗できるはず。
それは教授以外には喋らない。
あくまでもこの国を守るのが先決である。
「各自レポートを書いて提出してくれ。
棋戦と模擬戦も含め研究対象だ。
各自の自論を模擬戦できっちりと証明して欲しい」
教授が言う。
続いてロザリーナお嬢様が呟く。
「ふむ、エリオス。
今日は軍人として興味深い講義楽しかった。
しかし汝らは魔王国をいつも仮想敵国として憎んでおるがそれが誠に気に入らん。
こやつの様に全て我が国を敵だと考えるやり方は争いしか生まんのだ。
外交的手段も戦い方の一つであろう。
やはり蛮族が。
フン。まあそれは置いておいて、また妾を軍事研究に誘ってくれ」
「・・・(フルフル)」
エリオス君は素直に首を横にふるがメイドさんに蹴飛ばされる。
そこで一同また大笑いである。
全く困った人達であった。
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