第11話 改良型糸車の試作、産業革命のはじまり
最初の産業革命として、糸車の改良に着手する。
糸は衣食住の中でも、広範囲に対象となる重要な素材である。
何故糸かというと織物に比べ糸の作成には膨大な工数がかかり
非常に大変で糸不足が多発したという時代背景があった。
ハーグリーヴスが作った改良型糸車の機工はシンプルで、
2つの回転構造を持ち、一つは繊維を撚り合わせる回転と
ボビンに糸を巻き取るもう一つの回転の2種類を制御する必要がある。
複数の糸をギアを用いて一つの回転力を複数に伝搬させて動作させるのである。
つまり1台の設備で8ライン〜16ラインを同時にしかも省スペースで生産できる。
これは世界史に残る発明で文字通り世界を変えた。
機械工学的なシンプルな仕組みである。
時間さえあれば基本構造は誰でも思いつくはずであるが、
最初に実際に気がついてつくった天才が凄いのである。
ジェニー紡績機タイプ。こちらは見よう見まねの試作。
現代人からみたらただの丸パクリであるが、異世界には特許も無いので良いだろう。
回転数を制御するために天秤方式の重しを付けておくのを忘れない。
残念ながらジェニー紡績機の様に8連タイプの糸車は試作出来ていない。
しかし2つまでの糸車を同時に回転させる事が出来る様になりつつある。
これを拡張していきたい所ではあった。ゴム式ベルトが欲しい。
課題としては、
1.金属(鉄)部品による高強度、高寿命化
2.8並列構造による生産性効率化
3.水車動力を導入する事による人力生産からの開放、大量生産
4.繊維方向の均しとゴミ取り機能
5.ゴム式ベルトの開発
6.寸法公差と規格化
7.品質保証の定義決め
8.部品の外注手配と設備量産化
9.情報のブラックボックス
10.作業手順書と作業要領書作成
11.安全面の取り決めと是正
などなど。
動けば良いというのは試作1台目までである。
金属は鍛冶屋さんに作ってもらえるが高価。当面は木材。
水車は領主様の許可次第。
均しとゴミ取りは梳綿機の開発が必要。
ゴムベルトは当時は動物の革で代用したらしい。
2台目を考える時は生産性やメンテナンス性も考えて設計しないと。
動けば良いというだけではコスト的に、投資効果的に割に合わなくなる。
つまり設計変更による改良。ロス改善。
機械屋さんはそんなもの。
壊したら修理する過程を通じて改造する。
試行錯誤というもの。
分解すればバレてしまうので設備も見せない。
「とりあえず形にはなってきたかな?
結構ラフな試作だけど細かい所は2台目を作る時に図面を修正するしかない。」
お父様がやってきた。
興味深そうに設備を見ながらつぶやく。
「動くのか?」
「一応動きます。繊維を繋いでこのハンドルを回すだけです」
そう言いながらお父様に設備を説明するエリオス君。
手回しのハンドルを回して動かしてみる。
ちゃんと動いた。
「全部、木材を手で加工したのか?」
「端材を頂いてきて形を合わせています。
難しい機構ではありません。
実物を見れば誰でも模倣出来てしまいます」
「非公開にしてほしいという話は、模倣対策か?」
「そうです、お父様。生産性がさらに上がれば大きくコストも下がるはずです」
「どの位の生産性改善を想定しているのか?」
「そうですね。数百倍ですか。出来るだけ無人に近づけたいです」
「今一人作業で長時間かかるものを、数百倍で無人化とな。恐ろしい」
「動力を人力から水車に変えれば、革命的な装置になるでしょう」
エリオス君の説明にお父様は驚く。
まだまだ先の話である。
木材は複製が容易なので、情報の機密には念を押しておく。
製造過程は非常に機密の塊なのである。
「まだまだ課題は沢山あります。
試作で少し動いても量産に使用してすぐ壊れるなんて珍しくはありません。
だから特に機密にしたいのです」
「なるほどね。分かった。この部屋全体を鍵を閉めて、
外部の人間は入れないようにしておく。家族だけだ」
注意深くお願いするエリオス君。
この時代はまだ特許権も無いので極秘にしないと。
仕方がないのである。
理解して頂けるお父様には本当に助かっている。
前世の技術世代を明確にするために史実の名前をそのまま流用する。
技術革新が起きた場合にはっきりとさせておきたい。
次の目標は製鉄業の立ち上げである。
こちらは難易度が非常に高い。
将来的には製鉄業をプロジェクトとして参加することになるが、
この時はまだ将来像さえつかめていなかった。
そんな中、軽工業である繊維業は非常に低コストでありがたい産業だったのだ。
木材で設備が作れでだれでも使えた。
そしてイギリスの産業を変えて、安価なインド産キャラコを一気に追い抜いた。
故に産業革命の重要な一歩として世界の歴史に残っているのである。
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