第10話 家族会議と糸車開発
先生から重要な話が来た時点で家族会議である。
お父様とお母様に都市への留学の是非を確認しなければ、
とエリオス君は思ったら両親には既に連絡が届いていて了承済みであった。
勿論渋々だったそうだが。
まあ、子供に人生の全ての判断を委ねる様な真似は
流石にどの時代でも無かったという事である。
「父さんと母さんは一応承諾したが、本人の意見もしっかり聞いておかないと」
「エリオスちゃんはこんなに小さくて可愛いのに。ぐっすん」
お父様、わざわざ息子の意見までお聞き頂きありがとうございます。
お母様、あなたの息子はそんなに小さく可愛くはありません。
将来はちゃんと立派な大人に成長してみせます。
多分。ぐすん。
「お父様のお手伝いが出来なくなってしまいます。
また、お母様のご飯が食べられなくなって寂しいです」
「まあ確かに母さんの手料理は最高ではある」
いきなり夫婦の会話をしだすお父様とお母様。
そこ、惚気ないように、と思うエリオス君。
問題は製造業のプランと奥の部屋で試作している機械をどうするか?
たとえ完成出来たとしても量産に投入するにはまだ不十分。
そして赤の他人に情報を漏らす事など断じてあってはならない。
「家の仕事の方はそれほど重要ではない。
金銭は領主様からも出るんだろう。大丈夫だ。
そんな事よりエリオスのやりたい事は出来るのか?」
「研究の方なら大丈夫です。
商売の方もお父様と情報交換出来れば十分対応出来ます。
勉学の方もより高い学識を得られるはずです」
「エリオスはいつも自分で抱え込んでしまって。
もう少し親に甘えなさい」
「母さんも寂しいんですわよ。毎日でも遊びに行っちゃう」
両親と会話するエリオス君。
なかなか現代的な思考をしているのに驚く。
10歳の息子に自分のやりたい事をやらせたいと思うお父様が
結構、常識はずれの考え方なのかと思ってしまった。
でも中身の実年齢はオッサンですからね。と思うエリオス君。
しかし改良型糸車はまだ完成していなくて製造業も出来ていない。
糸車がなければ衣類のビジネスが成立しない。
メイヤーさんの織物も作れないし販売できない。
動力で伝搬するギアの回転比が合っていないなど課題は沢山。
見様見真似である。
木製でギアを手加工するのにも作業や強度的に無理があって、
せめて電動リーマーとかフライス盤とか欲しいものである。
道具などない、無理だが。
現実問題として道具を作る事も並行して行わないといけない。
まあ実際の仕事でも改善に使う時間と実務に使う時間と勉強に使う時間を
いかに両立させるかバランス感覚の問題は常につきまとうので同じである。
そんな事を考えていると、
「エリオスが都市に行ってしまうのは確かに寂しいが、
物流改革を行う良い機会でもある。
必要な時に必要な量が必要な価格で入手できるかは、
現地の詳しい情報があって初めて成立する。
都市の情報を頻繁にやり取り出来れば商売になる。
コネを作って情報を頻繁に共有するのは商人の基本だ。頼むぞ。
また学識や良い友人を作るチャンスでもあろう。
たまには帰ってきてほしい、いや頻繁にでも」
「それにエリオスちゃんのお友達も呼んで遊びに来るのよ?」
本当に分かりの良い親で感謝する。
でも、安全な現代なら大げさな、で済む話であるが・・・
この時代の治安は本当に悪い。盗賊も出る。
「懸念としては3つあります。
1つめは戦争のリスク。徴兵に駆り出されたり。攻め込まれたり。何がいつ起こるかは分かりません。
2つめは村の安全のリスク。盗賊に襲撃されたり。十分な戦力はありません。
3つめは生活のリスク。貿易で輸入が出来なくなったら必要な物資が入手出来ません。
つまり僕らは本来、固有の武力を持って経済と安全を守る必要があります。
まだその力はありません。
失う固定資産の無い今が一番良いのかもしれません。
仮に経済力が付いたとしても、砂上の楼閣と何も変わりがありません。
僕らの安全と財産を守るためには自衛の手段が必要になります」
子供らしくない意見を言うエリオス君。
しかしお父様がニヤニヤしながら返答する。
「そうは言うが、都市の学校では軍事教練があるらしいぞ。
武術と魔法技術の特訓がある。
スパルタ式訓練だそうな。
お前も立派な武人としても鍛えられるかもしれないな。
楽しみに期待している」
「えっ!?」
驚くエリオス君。
僕はただのリーマンでエンジニアですよ?
そんな武術の心得なんてちょっと高校の部活でかじった程度。
軍事教練なんて現代には無い。
それより、魔法技術とは?
そんなのあるの?異世界怖い。
ちょっとお父様と先生を問い詰めないと、
というかここど田舎だから・・・
そして工業化を進めるステップの進捗であるが、この機械の試作は一時中断。
しかし技術情報は漏らしてはいけない。
まあまだ時間があるから試作機だけでも是非完成させたい。
「この機械は一応動作可能ですが、まだ効率が良くないです。
僕が都市にうつっても機械の情報は絶対に秘匿して下さい。
糸は親しい人だけに供給して自給自足にとどめてください」
「分かった。任せろ。
そう言うって事はやっぱり都市へ行くのか。
父さんは少し寂しくなるな」
「母さんはちゃんと遊びに行くわよ」
「・・・行きます」
実際に都市に行くほうが得られる物が多いだろう。
生産拠点となるこの村から遠くなってしまうのは厳しいが。
休みとかに帰郷して設備を入れればなんとかなるであろう。
急な話でもあるが、この時は都市に行っても
僕の基本方針は大きく変わる事はないだろうと思っていた。
しかし、その考えは大きく変化する事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます