第8話 村の学校のエリオス君の日常生活

 今日はエリオス君の日常の学校生活。

と言っても寺子屋レベルの私塾である。

教会が信仰心を高め、そして教会の権威を高めるために教育がなされていた。

日本でも伝統的な読み書きソロバン。

伯爵様のご意向で教会の私塾に寄付がなされている。

他にも市町村の自治体から教師となる司教以下に給料が支払われている。


 史実では教会やギルドの教育が私塾の代替えをしていた。

大都市と異なり、地方にちゃんとした学校や神学校が村には無いのが残念。

この時代はまだ義務教育や小学校も当然無い。

義務教育はかなり先の時代である。


 でも文字と言葉は前世に無い知識で大変困り事であって

読み書きソロバンが教育されてちゃんと使える様になっている。

独学では限界がある。本当に教育はありがたいのが実情であった。

まあそれ以外の授業は基本内職か、家業の手伝いか。ギルドの子弟教育か。

エリオス君は今もこうやって勉強している事に見せかけて図面を書いている。

算数やその他の授業はやはりエリオス君には必要ない。

噂が尾ひれをついているのか、先生も知っても見ぬふりをして頂いている様子。



「あー、エリたんまた勉強をサボってる」



 隣の同い年のちびっ子に声を掛けられるエリオス君。

機織りしているメイヤーさんちのチェリーちゃんである。

時々、訪問しにいく事をきっかけに顔を覚えられている。

教会の学校では同じクラスになってしまった。

しかし声が大きい。しかも失礼な、と。

そしてエリたんと呼ぶのを辞めてほしい、と密かにエリオス君は思った。

ちゃんと裏では新開発設備の設計しているエリオス君。

前世で製図を勉強しておいて良かったと胸をなでおろしている。

しかし手書きは面倒なのでコンピュータとCADが本当に欲しい所であった。



「ちゃんと勉強していますって。

 それよりチェリーちゃんもしっかり勉強しないと。

 将来良いお嫁さんにはなれないよ」


「ぶー、あたしにはエリたんがいるから大丈夫だもん。

 ちゃんとチェリーと遊んでよ」



 とくっついてくるチェリーちゃん。

この娘は本当に距離感が近いので噂になりそうで怖い。

適度に距離を作らないと誤解されてしまう、

ひとまず好意だけは受け取っておくエリオス君。



「しかし、本当に勉強している風には見えないのに。成績は優秀。

 しかも何やら怪しい工作まで隠れて作って。へんな絵を書いているし。

 まったく、天才っぷりにも呆れるよ」



 こちらは同じ学校のミネアちゃん。

長身でスポーツ万能の美少女。僕っ娘でもある。

子供の頃は男の方が身長が低い時もある。

トラウマになるのでそこはあまり指摘して上げると本人は嘆くだろう。



「誤解して欲しくないです。ミネアちゃん。

 見えない所で隠れて努力しているだけです。

 現に算数は得意でも国語はそれほど良くないです。

 天才だなんてとんでもありません」


「嘘だね。

 ならなんで密かに外国語まで勉強しているの?

 噂で聞いたよ。裏でいったいどんな勉強をしているのか。

 僕にも秘訣を教えてよ」



 何やら噂になっているらしいエリオス君。

・・・それはバレるか?と考え直す。

子供にバレているとなると、大人にも当然バレてるであろう。

語学をエリオス君が勉強しているのは、いつでもどこでも語学は役に立つから。

子供の学習レベルは転生前に習得済みである。

もし現代でも天才だったら語学をまず最初に一番勉強するであろう。

偽装には限界があるので少しづつバレている現状でもある。


 落ち着いて考え直すエリオス君。

しかし、人生は一度きり。子供のフリをして過ごす時間がもったいない。

学習か何か生産的な事を行い、価値を作り出さねば。



「なによ。エリオス君。

 アンタは村一番の変人の癖に。いーつも偉そうに。

 アタシは知っているんだからね、天才と変人は紙一重だって。

 それに授業中にはちゃんとしっかり勉強しなさいよ。

 先生に失礼じゃない」



 委員長のニーナさんがチェックして指摘してくる。

さん付けなのは個人的に怖い性格である。ツンツンしているとも。

こういう真面目一辺倒の性格だから、すぐに見つけてエリオス君を説教してくる。

妙に気にしてくる所が厄介な性格でもあった。

しかし変人だという噂がどこからどこへ流れているのだろうか。

面倒くさいから否定しておかなければ、とエリオス君。



「勉強はちゃんとしています。

 誤解です。ニーナさん。

 家業も学業も両立が大切です。

 お父様にもお母様からも理解して頂いています。

 それよりニーナさんは僕に成績で勝ってから言って下さい」


「ム、言ったわね。

 アンタ。今は悔しいけど、その言葉を覚えておきなさいよ。

 覆水は盆に帰らずですわよ。

 アタシは絶対にアンタに勝つのを諦めないんだから」



 こちらは素直に女の子へのいじめである。

子供相手に実に大人気ないエリオス君である。

この際だから学問で凹ませて素直にニーナさんに向上心を持って頂こうと。

いや本当に。

でも逆の立場だったら絶対にイヤな人である。

まあ現役の現代人に知識で勝てるならそれこそ超天才かもしれないが。

世の中にはそういう人材も世界を広くみれば中には結構いるはず。

特にニーナさんは異世界人に才能と努力だけで対抗してくるので怖い。



「エリたんは他の娘と仲良くしちゃダメ

 ニーナちゃんもミネアちゃんもダメ」

「はいはい。チェリーちゃんも一緒に勉強しましょうね」

「ぶー、いつもそうやって誤魔化して言う」



 言葉上はともかく、中身はみんな子供である。

子供のペースに合わせるというのは、世間の親が皆経験している事だが、

非常に疲れるのである。

どこぞの名探偵コ○ン君を尊敬してしまいたくなるだろう。

ここは地が出ない様にいつも抑えて我慢するエリオス君。

そんな学校生活をおくっているエリオス君。



「君たち静かにしなさい。

 あとエリオス君は後で話があるから私の所に来なさい」



 先生に怒られてしまうエリオス君。

先生から呼び出しがかかってしまった。

何だろう。何故か嫌な予感がする、と思った。

決して悪いことはしていないはずである。

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