第6話 運搬輸送課題と冒険者セレナさん登場

 衣類、特に糸の入手に課題がある事が分かったエリオス君。

糸の材料である綿花や絹、羊毛などの高級繊維の入手は難しいが

庶民が着ている質の低い麻レベルであれば栽培は可能で入手はそこまで難しくない。

糸を作る設備があれば簡単である。


 しかし、中世には基本的な技術が無い。

素材が無い、加工機がない、計測器がない、運搬力がない、

水車と馬車以外の動力がない、安価な燃料がない、

衣食住も生きるのが精一杯という貧しいレベルである。

基本的な所から改革しなければ何も出来ないのである。

エリオス君はそういう現実に気がついてしまった。


 加工技術はともかく、設備を作るための素材が無いというのは致命的。

課題としてまずそこにぶち当たる。

設備を作るための木材はまだ良いが、金属が非常に高価だ。

特に鉄は金と同じ位高いとあって高級品すぎる。

切削加工するには被切削物の硬さ3倍の法則があって、

超硬が必要であるが全く容易ではない。つまり大きな制限がある。



「材料が手に入りにくいのは課題だね」

「おっ、エリオス。そこに気がついたか。勉強しているな」



 エリオス君のこの一言に反応するお父様。

流石お父様。お見通しである。

伊達に商人ではない。

エリオス君はとりあえず子供の特権で質問してみる事にする。



「でもどうするの?」

「難しい質問だな...。複数の調達ルートを確保するしかない。

 一つは村の中から調達。もう一つは外の村から購入する。

 しかし行商人に頼むととても高くなるし、関税もかかる。ここが難しいんだ」



 物がちゃんと入ってくる様にするには調達先の管理が必要だ。

製品の原材料・部品の調達から生産、在庫管理、配送、販売、

消費までの一連の流れをサプライチェーンと言う。

サプライチェーンに関しては、材料を入手し加工元に供給する

加工で付加価値を付けて製品にする流れで複数の工程をまたぐのが普通。

そうなると、調達先と工程毎の役割分担が必要。

また、安定調達のためには複数購買が原則。と色々と悩ましい。


 内作すれば中間マージンが減るので安くなるが、全てには不可能。

自分で買いに行く代わりにお使い業務が出てくるのであろう。

よく冒険者のお使いイベントがあるが、拡大解釈したものであろうか。



「じゃあ僕が買いに行きましょうか?」

「お前では危険だ。街道には盗賊も出るかもしれないし、護衛が必要。

 物資の運搬は非常に危険な仕事だ」

「今はどうしているんですか?」

「冒険者ギルドに依頼するんだ。

 材料の調達、手紙、護衛、盗賊やモンスター退治などなど。

 当然かなりのお金がかかる」



 やっぱりね。遠隔地交易には当然盗賊の問題があるし

武力行使は避けられないのであろう。盗賊退治が無くならない。

ふとエリオス君は考える。

そうなると剣術や魔法の訓練も必要であろうか。

ん?魔法か・・・



「こんちはー。ボッシュさん。何か良い商品入荷した?」

「ああセレナちゃん。こんにちは。元気そうで何より」



 冒険者ギルド所属のセレナさんである。

たしか18歳で冒険者になったばかりの方だった様な。

たまにフラッとやってきて色々なものを買っていってくれたり

狩猟したりしては色々な素材を持ち込んでくれる。



「こんにちは、セレナさん」

「あらー坊や。今日もお元気ね。かわいい子」



 ショタコンかなこのお姉さんは。

エリオス君はちょっと苦手である。

とても行動的な美人なんだけど、残念系かもしれない。

なんて本人には言えない事を勝手に想像していると



「ボッシュさん。頼まれたもの持ってきたわよ。

 あとこれはついでに商業ギルドからの手紙」

「いつもありがとうね」


「セレナさんは冒険者なんだ」

「いやねー。冒険者って言ってもまだまだ初心者なので、

 冒険者ギルドの安全そうなクエストをこなすのが精一杯。

 外にはモンスターや盗賊もいるから安全とは言えないの」

「まあでも、色々な薬草や革、肉や資材を持ってきたりクエストを

 こなしてもらえるから、冒険者ギルドからみたら大切な存在でしょう」

「ありがと。でもリスクがある割にまだ効率は悪いの」



 やはりモンスターや盗賊がいるのだ。

中世では傭兵が平時は盗賊団になるので、

この時代に盗賊がいてもおかしくはない。

この時代は冒険者も立派な職業なのかと考えてしまう。

いわゆる仕事を請け負う旅人みたいなイメージから何でも屋まで。



「困り事があったら冒険者ギルドに依頼すると良いよ」

「でもお高いんでしょう?」

「あはは。そりゃ生活かかっているからね。お互いに。

 ただ畑を荒らされたりするんで、モンスターを狩ったりもするよ。

 盗賊狩りのクエストも話ではあるにはあるらしいね」



 やっぱり色々とあるんだろう。

現代でも田畑を荒らすイノシシ対策したりする話をよく聞く。

中身は変われども、人の悩みは同じであろう。

困ったら冒険者ギルドを覗いてみようと思うエリオス君。

登録してこっそり獲物を狩るとか。



「よし、坊やはかわいいからいつか私とパーティーを組もう」

「僕はセレナさんから見たらかわいいが基準ですか・・・」

「セレナさん、エリオスはまだ10歳ですよ。勧誘しないで下さいな」



 何か手に入ったらセレナさんに資材を譲ってもらうのも面白い。

村で調達出来るもの、調達出来ないものは行商人から手に入れるか自前で作るか。

冒険者ギルドに調査依頼するのもありだろう。

後は村の外の世界の情報を入手するのが必要になってくる。

近隣諸国の特産品とか知りたくなってきた。

知識はお金だな、とエリオス君は思うようになる。

後にセレナさんには護衛や調査依頼、手紙の配達や

戦闘など色々とお世話になる事になる。

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