第4話 信頼される商売と製造業の未来を追い求めて

 この世界に転生したならば、やはり成功しなければならない。

そのためには資産と技術力が必要であろうか。

将来は魔王と戦争しなければならないかもしれない。

軍事力も必要だろう。そのための力がいる。

エリオス君は自分でも分かっていない異世界転生で

女神様との出会いによって運命が切り開かれてしまったのだ。


 今気がついている事は、世界はとても面倒くさい社会なのである。

何をするにも人間と家畜の労働力で補うしかない世界。

人々はこの苦悩からの開放を求めていた。

それは、物質面であったり労働面であったり色々様々だが

エリオス君の視点ではより便利な新商品によって人々の面倒くささが

開放されていくのを未来知識で知っていた。それはお金になる。

つまり庶民には安価で便利な道具、金持ちには美しさと感動を。

それは製造業が成長する原動力なのだ、と。


 エリオス君は遠回しにお父様に説明しようと試みる。

しかし当然の話であるが、お父様に伝わっていない。

突然、息子が変な事を言い出すが慣れているのか、

いつもの話なのかため息をついて言う。



「まあ、それは良いとして今日は店を閉める時間だからもう休もう。

 あとエリオス。その、良いものが入ってくると買ってくれる

 までは分かるがお金が十分にある訳じゃない。

 何でも手に入る訳じゃないんだ。

 市場にあるものしか手に入らないんだ」

「そうですね・・・」



 と、逆にお父様が尋ねてくる。

うーん、と首をかしげて考えるエリオス君。

心の中でどうしたものか、と。

まあそりゃそうだろう。

商人には市場にあるものを入手して売るのが仕事である。

無いなら作ってしまえ、という発想にならないのが苦々しく思う。

いきなりそんな事を10歳の子供に言われてもピンとは来る事はない。



「世の中に出回っているものの品質が悪ければ、

 お客様に迷惑を掛けてしまい、最悪売れなくなってしまいます。

 自分で作るのが一番なんですが」

「そう言うがな。

 世間には各種ギルドが物を作って売っている。

 値段と品質はギルドの言いなりだ」

「・・・そうですか。

 でもこのキルテル村にはギルドありませんよね?

 大都市だけにしか無い制度です」

「そうかもな」



 お父様はエリオス君が、無ければ自分で作ってしまえ

という発想に驚きつつも現状の商品に満足してないのも事実だった。

仕入れ値段が高すぎて商品の良し悪しはその時その時違う。

粗悪品でも買取しないと商売にならなくなった事もあった。



「それでお前は色々なものを自分で作ってみているのか?

 エリオス。

 それを売って商売にしたいと?」

「ええお父様。

 それはキルテル村の特産品になります。

 上手く行けば他の地方でも売れるはずです」

「しかしなあ」

「世間の商品には良し悪しがあります。

 欠点があります。

 それを改良すればもっと使いやすくて良い商品になります。

 そうやって商売の幅を広げていくのです」

「ギルドがなぁ」

「このキルテル村にはギルドがありませんって」



 息子の言う事に一理あると判断したお父様。

しかしものづくりなんてやった事がない。

根っからの商人である。



「まあ、ものは試しだな。

 やってみるか。

 何か面白い試作品はあるのか?エリオス」

「ええ、これなんかどうですか?」

「うーん」


 エリオス君はここぞとばかりにネタをお父様に披露する。

だが中々首を縦に振らないお父様。

どうやら、考えがあるらしい。

そこを聞き出して商売につなげようと試みるエリオス君。



「実際皆が困っているのは衣食住じゃないのか?

 例えば衣類。

 高価で予備もない。自分で直したり作ったりしないと生活できない」

「確かに服は高いですね」

「服か。

 材料は糸と織物になるな。

 糸は店舗の商品だが入荷が不安定なのが悩みだな。

 確かにあるとありがたい。

 そうだ。 

 布生地関係はメイヤーさんが作っていたな。

 今度一緒に行ってみようか」

「・・・メイヤーさんの家ですか。

 あそこの家はあまり気が進みませんが。お父様」

「言い出したのはエリオスだろ?

 文句をいうな」



 息子の提案をさり気なくかわしながら、

上手に弱点をえぐってくるお父様は交渉が上手だった。

実はエリオス君にはとある理由があった。

流石は商人である。



「衣類ですか」

「そうだ。特産品としては良いだろ?」

「・・・僕に心当たりがあります。

 確かに良い案だと思います」

「うんうん。たまにはお父さんを尊敬してくれよ。息子よ」

「僕はいつもお父様を尊敬していますよ」


 うんうん、とお父様は頷きながらエリオス君を見る。

エリオス君にはお父様とは違う考えがあった。

最初の方針は衣食住の中の衣類で決めよう、と。

それにはエリオス君には大きな心当たりがあった。

確かに産業革命するには衣類が確実である。

人の数だけ需要があり、まず最初に誰でも欲しがる製品だ。

その着眼点は実の所間違ってはいなかった。



「みんなー。晩ごはんにしましょう」



 お母様から呼び声がかかる。

晩ごはんの時間である。



「はーい」

「待っていました」



 親子そろって欠食児童である。

今日も一日お疲れ様。

そして、後日また別の問題が浮かび上がってくるのである。

実際この時代は安定供給などまだまだ夢の話である。

エリオス君と製造業の戦いはここから始まったのである。




PS.近況ノートに挿絵を追加

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