第3話 商売繁盛は難しい。とある苦情処置と商売の難しさ
キルテル村で店番をするエリオス君。
この村ではお客さんは少ないので、現実はそれほど忙しくはない。
村の風景や店の商品をこうやって店番の位置から眺めながら未来を考え続ける。
言葉が十分に使えて、読み書きが問題なく出来る事を最優先に勉強し続ける毎日。
商人にとって読み書きは必須のスキルとも言える。
識字率の低い時代にとって、文字の習得こそ最優先課題であった。
前世の製造業の知識を活用して、何が出来るか考えるエリオス君。
こうやって店から観察していると、技術力が足りていない気がしてきた。
技術力とは一つは道具。それから知識経験。そして材料などなど。
やはり金属製品主に鉄製品はとても高価だった。衝撃的だった。
材料が木製なのである。
木製は削るのが簡単で安く作れる反面、強度と硬さが不足して壊れたり
カビたり劣化する。シロアリに食われたら一発アウトである。
エリオス君は考える。
この世界の困りごとはまず便利な道具が足りていない。
それは作れば作業が楽になるし、売れるだろう。
もう一つは固くて強い長持ちする材料が足りていない。
農具も摩耗して最後に折れる。
田畑を耕すにも強い力で一気に作業出来ない。
生活も最低限で着ている服は麻で安くて着心地が悪い材料でチクチクする。
そして紙が非常に高価だった。
全てが不満の塊の様な世界であった。それが当然の時代背景。
しかし商店には色々な商品が並ぶ。
商品の構造やどうやってこの時代の技術力で
作られているかを観察するだけでも今は勉強になる。
しかしこのど田舎ではそれも限界があり、この国がどんな文化でどんな商品が
流通しているのか製造業をやる上でしっかりと知りたいものである。
自分の手作業で色々な道具を試作して使う。それが売れるととても楽しくなった。
またこの村には店舗が殆どないので、
村中のご近所の方々がよく買いに来てくれる。
今はのんびりスローライフである。
「ボッシュさん。おたくで買ったナイフの付け根が割れて使えないんだよ。
まだ買ってから3ヶ月しか経っていないのにどうなっているの?」
ある時にお店のお客さんから苦情の問い合わせが来た。
お客さんの窓口となる店番にはちょっと困った仕事になる。
「ボッシュさん。おたくで買ったナイフの付け根が割れて使えないんだよ。
まだ買ってから3ヶ月しか経っていないのにどうなっているの?」
「こんにちは。
ああ、ここの付け根の部分が欠けているね。
柄の部分にクラックも入っている。
なにか強い衝撃でもあったんだろう。
ぶつけたのか落としたのか投げたとか」
「それは・・・」
何やら店内でお客さんとお父様が会話している。
よく表情や口調を観察するとそれほど怒っている訳では無さそうである。
難癖をつけに来たにしては比較的、温和な対応だ。
気になって横でしっかり聞いているエリオス君。
「どうせ奥さんと喧嘩にでもなって、凶器の代わりにでもなったとか。
ご近所さんでも結構噂になっておりますよ。
ナイフは危険だから怪我がなくて幸いでしたね」
お母様がフォローに入る。傍から聞いていると色々な意味で怖い話である。
世間の狭い地方だと暇つぶしにもその手の話が拡散されやすい。
まさにプライベートが暴露されて、拡散されている瞬間を目の当たりにした。
ご近所さんって本当に怖いと思うエリオス君である。
「アイリアさん、こんにちは。
その話をどこから耳に・・・」
「主婦の情報網は早いんですよ。
そうねぇ、もう村の皆に知れ渡っているんじゃないですか?」
「う。そこまで知られちゃマズイな。
アイリアさんには勝てねーな」
と、逆にお母様の情報力に怖気づくお客様。
それは。流石に怖いと思ってしまう。その美しい笑顔が。
エリオス君にはその男の気持ちが分かってビビる。
主婦のネットワークはマジ怖いと思ってしまう。
どんな情報がどこまで裏で流れているんだか分からない。
それはさておき折角だからどんな現象が起こっているのか、ナイフを見せてもらおう。
「僕にも見せてー。見せてー」
「おう、坊や。元気そうだな。
怪我をしないように気を付けてな」
よく見ると何か変な割れ方をしている。
現代社会だと普通そんなに簡単に壊れるものだろうか、と思ってしまう。
現地現物は最も重要。
不良品やクレーム品は実際に隅から隅まで
重箱の隅をつつくよりも厳しくチェックしなくてはならない。
後でお客様が帰ってから、
お父様がため息をついてつぶやく。
「最近、入荷している商品の質が安定していなくて、な。
今日は助かったよ。
色々と、こういうトラブルは今後増えてくかもしれない。
刃物職人さんが変わったのだろうか。
買い付けて売るだけの俺らでは外観からでは良くわからないが」
ああ、刃物職人さんが作っているのか。
そういう所は確かに小売り側では作り手がブラックボックスになって分からない。
実際に物を作っていない人には、変化点が何かあっても分からないのが苦痛。
いきなり前触れもなく品質が変わったり、不良品が多発する。
当然苦情になる。
製造業の人間からしたら珍しくもない、見えていない変化点があるのである。
ただし売る側にとっては非常に頭の痛い、辛い話である。
急に問題多発するのは、爆弾を抱えているのも同じ。
悩めるお父様にエリオス君は何か出来ないかと頭を悩ませる。
こういう時は基本に立ち返って、
「じゃあ、まず変な商品を受け入れないようにしようよ」
とエリオス君からご提案する。
何をいうかと混乱するお父様。
「エリオス...急に何を」
「良い商品だけをしっかり見て売ればお客様には問題ないよね?
よくよく実物をしっかりチェックして見ると、
何か変わった所が分かるかもしれない。
そういう変化点を見逃さない様にすると苦情も減ると思う」
「そうかな〜。
どうだろう。見た目に怪しい商品は取り下げようか」
この手の話は、転生前の現代ですら良くあった話である。
出来た物勝負の時代では、職人さんの腕で決まってしまう時代だったであろう。
ただしそれは品質管理の概念が無かった時代の話である。
エリオス君はこの出来事を踏まえて、この世界の抱える悩みを
理解した気になった。
そう壊れやすいのである。
品質が悪いのである。
それでも非常に商品が高価なのである。
何故だろうか?
職人作業だからか。
この世界で商売を行い、世界を革命するには
現代のものづくりの魂を、工場性大量生産で実現できるはずだと考えるようになった。
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