第2話 異世界転生してみて子供に生まれ変わった



 転生神の女神メサ様とのやり取りの後、

異世界で僕は新しい人生を始める事になった。

名前はエリオス。

家は小さな村、キルテル村の商業ギルドに登録されている小商店。

村は地球の中世〜近世のヨーロッパの世界の技術レベルに見える。

いわゆる片田舎であるし、実際の技術レベルは各地を調べてみないと分からない。

父親の名前はボッシュ。母親の名前はアイリア。

勿論人間である。


 そして10歳に成長したが、外見はまだまだ子供である。

前世の記憶は全て残っているので日本での知識がある。

それ以外には特殊能力は何も能力は無かったが、

近世の時代背景を考えると十分知識チートと呼べるだろう。

エリオス君は女神様のケチと思った事もあるが、そこはそれであった。

正直知識が残っているのはありがたかった。


 エリオス君の実家は何でも屋に近い形態の小売業の商店であり、

収益は少ないながらも慎ましくあれば、

なんとか生活出来るレベルであるかもしれない。


 食事はハンガリーなどでよくある味気ないオートミールばかりで

美味しい現代の料理が食べられないのは

元日本人としてはとても寂しいものであった。実に辛い。

エリオス君は飯についてはゆっくり研究したいと思っていた。



「エリオス、ちょっとそちらの物を棚に置いてくれ。」

「はーい。お父様。」



 ちょっとお父様からお呼びがかかった。

今のエリオス君の仕事は家業の手伝いがメインである。

というのも商品の陳列や在庫確認、個数の計算など。

いわゆる店番と棚卸しという仕事である。


 一見子供でも出来るだろうと思われがちであるが

これが面倒なのはいつの時代も変わりはない。

後は軽い物を運んだり、たまに店番をしたりもする何でも屋。

この時代では子供とは言っても貴重な労働力。

しっかり体を使って働けという訳であった。



「こんにちは、メイヤーさん。

 今日は新しい毛糸が入荷していますよ」

「あら、今日はエリオスちゃんが店番なのね。

 いつも頑張り屋さんなのね。

 うちの娘にも見習わせたいわ」



 というのはご近所さんのメイヤーさん。

家業としている農業の副業として機織りをしている方。

このメイヤーさんの様に、この村は寒い土地柄で農業生産力が低く

非常に貧しいので本業の農業だけでは生活出来ない。

誰もが、家族で何かしらの副業を抱えている。

働かざるもの食うべからずの貧しい食糧難の時代である。



「エリオス君はいつも元気で真面目ですね。

 あ、今日は塩を入荷しているかね?」

「いらっしゃいませ、村長さん。

 どうぞここにあります」

「そう言えばエリオス君の将来の夢あるのかね?

 きっと立派な人になるのは間違いない」

「物づくりでお金持ちになる!

 そして皆で豊かな生活が出来るようにしたい」

「ほほほ、それは頼もしい子だ」



 たまに村長さんも買いに来てくれる。

エリオス君とも仲は良い。頼れる村長さんである。

でもエリオス君は思う。せっかく異世界転生したのだから、

その魔王とやらがやってきても対抗できる経済力が欲しいものである。

現状では夢のまた夢ではあるが。

現代で培った得意の商売とモノ作りを

この世界でも両立させてやるともさ。

物質社会で生きてきた人間の欲望の力を甘く見るべからず。



「まあ村長さん。

 この子は非常に賢いんですけど、変な癖がありまして

 色々な物をこっそり作りたがるんですよ。

 優れた物を作るので、店の商品に置いて売れています。

 評判は良いんですが結構子供らしくない所があって

 親としては心配しています」

「お父様。

 変な癖というのはあんまりです。

 これでも結構役に立つんです」 

「あははは。将来有望じゃないか。ボッシュさん。

 素晴らしい息子さんじゃないか」



 まあエリオス君は自分が変人だと両親にはバレている節はある。

そりゃ、まあね・・・色々やりたいじゃない。

どうやら義務教育が世界に浸透する前の時代なので、

仕事の合間に寺子屋みたいな所に通っている。友達もいる。


 この世界の歴史とか言語とかは前世の知識で学んでいないので

今はそちらに注力して学習し続ける形になっている。

実は「世界を救え」という女神様の目的の為の

活動方針も知識と力がないと決められないので仕方がない。



「エリオス。

 こちらの商品も棚に入れておいてくれ。

 後は、不足している商品を発注するから調べて欲しい」

「承知しました。お父様」



 たまに子供っぽくない言葉が出てしまうが中身は立派なオッサンである。

しかしこの世界の子供はまだ貴重な労働力なのである。

社会的に子供という概念はまだなく小さな大人として扱われる。

中世〜近世産業革命のヨーロッパと同じであった。


 実は、中世から近世ヨーロッパの伝統的な話であるが

「子供」という概念が無いのである。本当に。

だから労働、飲酒、喫煙、恋愛なども小さい大人として扱われていた。

前世の価値観からするとこれは凄い衝撃だった。


 「子供」が最初にヨーロッパで定義されたのは、実に1762年。

大学の教員養成過程で必ず出てきて読まされた

フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの「エミール」が最初。

法律的にはイギリスで1833年工場法が制定されて、

初めて9歳未満児童の雇用が禁止された背景があった。

まあ「エミール」の本の真似されたら死んじゃう内容ですけど・・・

そういう「子供」や「児童」の観念が無い世界で生きている。

はい。日本人の常識が通用しない世界だったよ。



「さあ、今日は終わりにしようか。

 お母さんの美味しいご飯でも頂こう」 

「はい、お父様。お疲れ様でした」



 お父様のボッシュさんは実際しっかりもので、

見ていると流石商人という仕事っぷりがハッキリ分かる。

非常に頼もしい。

現代でも中世でも商売のノウハウは共通する部分があるという事か。

エリオス君もそのモノ造りにも十分役に立ててもらおう。

異世界の製造業の未来に協力して頂こう。なんてね。




PS.近況ノートに挿絵を追加

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